第22話 激闘


 階段を降りて、急いで校門の前に行く。


 校門の前にはさまざまな武器を持った人たちがいた。

 見る限り、ボロボロの剣や鉄パイプ、バットや竹で作られた簡易的な槍などもある。


 だが、俺はナイフ一本だけ。

 少し心許ないが、壊れてしまったらあのゴブリン達が持っている剣を強奪して戦おう。


「そういえば……震えが、収まってる」


 いつもは、ナイフとかを持つと手が震える。

 だけど……今はそれはない。


 梨花さんのおかげか……?

 梨花さんはこんな俺でも味方だと言ってくれた。気にしないと言ってくれた……だからかな。


 ナイフを初めてしっかり持って見て分かる……。


「なんか……しっかり持てるな」


 この、なんともいえない感じ……まるで、このナイフを何年も使っているかのような安心感だ。

 今の俺なら。ゴブリンが何体かかってこようと勝てる気がする。


 目の前にいるゴブリンの集団を見る。

 数は五十体ほどだろうか?

 しかし、中央の方に少し大きなゴブリンがいた。

 あいつが親玉か。


 ゴブリンの集団との距離はおよそ百メートル。

 そして、敵の数は五十体に相対する味方の数は三十人ほど。

 

「いけるな……」


 ゴブリン自体、決して強くはない。

 普通の人でも十分勝てるだろう。


 それでも、保険は必要だな。

 俺のレベルは現在五。『SP』も50溜まっていて、スキルを獲得できる。

 

 そう思い、俺はゴブリンの集団から目を離さずにステータスを見て、そこからスキル取得欄を出した。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

取得可能スキル

 ・調理 (50)

 ・投擲 (50)

 ・格闘術 (50)

 ・ストレス耐性 (50)

 ・恐怖耐性 (50)

 ・索敵 (50)

 ・地図作成 (50)

 ・気配察知 (50)

 ・採取 (50)

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 さて……何を取ろうか。

 今回は集団戦だし、一体一体の倒す時間をかけてはいけない。

 そう考えると、格闘術が一番いいんだろう。


 しかし、気配察知も捨てがたい……。

 

 そんなことを考えながら前を見る。

 もうすぐそばまでゴブリンはきてしまっていた。


 周りを見ると、校門には無数の机などでできたバリケードができている。

 そして、体育館に戦えない人は避難したようだ。

 これで、戦う準備ができたな。


 俺は先頭の真ん中にいる人を見る。

 そこには、今日の楽都についての処分の話をした男の人がいた。


 やはり、今野さんがいない時の臨時のリーダーだったのか。

 ていうか、まだ今野さん達は帰ってきていないか。


「みんな! ここを守り通すぞ!」


 男の人が、ボロい剣を空に掲げみんなに言う。

 その声はこちらを鼓舞し、みんなのやる気が上がったような気がした。


 ……いや、微妙に俺もなんだかやる気が湧いてきたぞ……もしかして、そういうスキルでも持っているのかな?


 そう思い見て見るが、どうやら今の声は味方を鼓舞するだけでなく、相手も挑発してしまったようだ。

 ゴブリンの大群がこちら目掛けて走ってきた。


「行くぞォ!」


 その声を合図に、俺も走り出す。

 結局、俺は『SP』を使い『気配察知』のスキルを取った。

 正直格闘術を取ろうかと思ったんだが、俺には『刃神』があるからな。



 ナイフを持って、俺は先頭集団よりも少し前を走る。

 百メートル近くあった距離は、互いが走り出したおかげで二十メートルも無くなっていた。


 その距離を、俺は強化されたステータスで駆け抜け先頭にいたゴブリンの首を真っ先に跳ね飛ばす。


 たった一閃だ。

 それだけで、ゴブリンの頭は血を噴き出しながら飛んでいく。


 その頭は、運がいいのか悪いのか……少しデカイゴブリンの元へと転がり落ちていった。





 

 

 最初の一撃の後は、混戦状態となってしまった。

 俺は見事に先走りすぎて敵地のど真ん中にいる。


 だが、不思議と怖くはない。

 『気配察知』で後ろから襲ってくるゴブリンをかわしてナイフで一閃。


 それだけで、ゴブリンの頭は次々と飛んでいく。


 『刃神』の効果すごいな……。前の武器のスコップだったら結構苦戦するのに……。

 ゴブリンの剣を受け止め、それを弾くのではなく受け流し斬る。


 周りを見ると、結構なゴブリンの数が減っているようだ。

 よし……それなら……。


 俺は奥にいる一体のゴブリンを見る。

 そいつは普通のゴブリンよりもデカイ。それに、持っている武器も周りとは違う。

 そのゴブリンが持っているのは、ボロくはない、少しランクが上だと思われる剣。

 そいつを肩に担ぎこちらに歩き寄ってくる。



 そいつとの距離はまだある……はずだった。


 二十メートル以上先にいたそいつは、一瞬俺の視界から消えると目の前に現れて気がついたときには剣が目の前に迫っていた。


 その剣の角度から少し角度をつけてナイフを当てて受け流そうとする。

 だが、その攻撃はあまりにも重かった。


 受け流すとしたナイフはそのまま弾かれ、俺は武器を失った。


 ナイフは今頭上高くに打ち上げられ、降りてくる様子はない。


「ウオォォォ!」


 ナイフが降りてくるのを待たずに、デカイゴブリンは剣で俺にひたすら斬りまくる。

 それを、辛うじて避け地面に落ちていたゴブリンの剣を拾う。


 ボロくて少し頼りないが、ないよりはマシだろう。

 頭上には、ナイフはない。

 どこかに‘行ってしまったのだろう。


 デカイゴブリンが、剣を横凪に振るってくる。

 ゴブリンの背は、俺と同じくらいあるおかげで下にスペースができしゃがんで回避、そのまま転がって距離をとった。


「はぁ、はぁ、はぁ……強いな……」


 普通のゴブリンの何倍も強い。

 それに、あの剣。よく見てみると、普通のゴブリンが使っているものよりも新しいのはもちろん、少し大きい。

 普通のゴブリンがそれを持てばもはや両手剣だろう。


「ふっーー」


 息を吐き、集中する。

 普通のゴブリンは後少しで片付け終わるだろう。

 その前に、こいつを片付ける。


 こいつの動きは肉体の大きさ、武器の重さを考えてもとても早い。

 俺も、もっと早くならなければ……。


 デカイゴブリンは、剣を両手で上段に構えこちらをみる。

 おいおい……どう見ても初心者が狩るようなモンスターじゃないだろ……。

 明らかに、強い。


 あぁ、おかしいな……。こんな強いモンスターと向かい合っているのに、ワクワクが止まらない。

 どうしてだろう。

 俺って、戦闘狂だったか? いや、そんなはずがない……。


 いや……今はこいつに集中だ。


 剣を構える。

 我流だが、『刃神』に従った結果剣を下弦に構え、向き合う。



 

 最初に動いたのは、ゴブリンからだ。


 一歩で、俺との距離をなかったものにして、構えていた剣を一閃。


 その剣筋は、明らかに俺の首を狙ってきているものだった。


 だが、下弦に構えていた俺はその剣をしたから叩き上げ、そのまま胴体を一閃。


 ゴブリンの胴体から赤い血が噴き出る。

 やっと、一撃が……重い一撃が入った。


 剣を振り抜き、一撃を入れた達成感から俺は一瞬気を抜いた。


 そこに、先ほど弾いた剣が上から落ちてくる。


「ク……ッ!」


 ガードが不完全だった。

 勢いが殺しきれていない。


 剣を俺のボロい剣でガードする。

 

 真正面から受けたその斬撃は、俺の持っていた剣を真っ二つにしその下にいる俺へと襲いかかる。


 それをかろうじて避けたが、頬が熱い。

 触ってみると血がついている。

 今の斬撃が俺の頬を掠めたようだ。


 少し距離をとり、落ちていたゴブリンの剣を拾う。

 周りを見ると、普通のゴブリンを殲滅し終えたようだった。


「ガァァァァァ!」


 それを見たデカイゴブリンが吠えた。

 

 そして、そのまま吠えながら大振りで剣を振ってくる。

 これは、隙がデカい!


 頭上高くに振り上げたゴブリンの剣が、空を斬る。

 その間に、俺はゴブリンの首に向かって一閃。


 流石に真っ二つにはできないが、それでも首を斬れた。

 そのままゴブリンは首から血が吹き出し、倒れる。



《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》

《レベルが上がりました》


《一定条件を充したため、称号:ジャイアントキリングを取得しました》



「ふぅー……終わった」


 レベルがあがったことを知らせるアナウンスが頭の中に響いてくる。

 戦闘中のやつが今一気に来ているみたいだな。


 ゴブリンの血が噴き出るのが収まっていき、デカいゴブリンの足元から灰に変わっていく。

 

「あそこで……感情のままに斬って来なかったら、結末は変わっていたんだろな」


 灰になり散っていくゴブリンを側目に、俺は校舎に目を向けた。


 校舎……といっても、その屋上。

 そこを見てみると、梨花さんがこちらに向かって手を振ってきていた。


 それに、俺は右手を握りしめ頭上にそれを掲げ応えた。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る