第35話 終結
モンスターの集団に飛び込んで、手に入れたばかりの短剣でモンスターを切り裂く。
このオーガの棍棒から手に入れた短剣を使うと、とてもよく切れる。それに、力も強くなった気がする。
ゴブリンの首が空に舞い、胴体から血飛沫が飛ぶ。
ここからだとモンスターが多過ぎて桐崎さんのところや、今野さんのところ……他のグループのところに行く事はできない。
俺は俺でモンスターを減らすことに集中しよう。
短剣を振るうたびに、辺りにいるゴブリンの首は飛び血が飛び散る。
時々、ゴブリンの首を切ると魔石が出てくることから、ゴブリンの急所も首の辺りなんだろう。
短剣は、手数が多いからこれほどの格下だと早いスピードで狩ることができる。
だが右手だけ短剣を持っているが左手が寂しい。もう一本短剣を手に入れて両手に装備したいものだ。
扱い方は正直よく分からないが、今使っている短剣同様ユニークスキルが使い方を教えてくれるだろう。
ゴブリンの棍棒を避け、カウンターを放つ。
これだけのモンスターの集団……それもゴブリンが結構な数を占めているんだ。
ホブゴブリンはいないのか?
ホブゴブリンは、あの三人グループの人たちでは叶いそうもない。
特に、魔法で堀を作っていた人たちは近接戦闘は苦手だろう。
そう思っていると、『危険察知』が発動した。
自分の後ろの方からだ。
すぐに後ろを振り返り状況を確認する。
「ッ⁉︎ 魔法か!」
後ろを振り向くと、灼熱の炎の塊が俺に向かって飛んできていた。
大きさはゴブリン並み。温度は計り知れない。
だが、ゴブリンは魔法なんて使っているところを見たことがない。
しかし、魔法が飛んで来たということは──
「上位種か!」
その火球を避け、飛んできた方向を凝視する。
『気配察知』にはゴブリンの反応しかない。
俺の察知範囲外からの魔法。もしくは『気配察知』がゴブリンと誤認している。
飛んで来た場所を頼りにゴブリンを殲滅させながら近づく。
飛んでくる魔法は『火属性魔法』だけ。他の魔法は飛んでこないことからターゲットは『火属性魔法』しか使えないものと推測。
ゴブリンを殺しながらターゲットのいる方向へと近づく。
そんな中、火球に紛れて俺に一直線。火で出来た槍のような細長いものが飛んできた。
速度は火球の倍以上。
それに比例させて考えると、威力も倍以上だろう。
横にかわそうとするが、ゴブリンが邪魔で移動できない。
そして、そんな俺にゴブリンは容赦なく棍棒を振るってくる。
「クソかよ……」
先に俺に当たるであろう棍棒を避け、その棍棒を振るってきたゴブリンの背後に周り首を掴む。
今の俺のステータスならこれぐらいできるだろう⁉︎
首を掴むと、ゴブリンの足が浮いた。
棍棒を振り回し抵抗しているが、俺のリーチとゴブリンと棍棒を合わせたリーチとでは、俺が若干優位に立っている。
それにしても、ゴブリンの身長が小学生並みだとしても軽いな。
いや、俺が他のゴブリンよりも小さいやつを選んだせいかもしれないが、片手で楽に持ち上がる。
「おうりゃぁ!」
それを身体を回転させ、遠心力をつけながら火槍に向かって投げ飛ばす。
これで魔法が消滅してくれるとありがたいんだが……。
投げ飛ばされたゴブリンは、そのまま火槍に腹部を刺され──貫通!
火槍の威力は多少衰えたが、それでも俺に向かってきている。
MPを見る。今現在あるのは21か。それなら、アレを使えるな。
火槍がもうすぐそこまできている。
それを見ながら、俺は透明な硬い壁をイメージする。
その壁は、決して何も通しはしない無敵の壁。
「『結界』!」
魔法名を口に出し発動する。
その瞬間、俺の目の前にやや透明感のある壁が空中に現れる。
これは『結界魔法』その名前の通り魔法名は『結界』。
イメージとしては、決して何も通しはしない無敵の壁。
ただそれだけをイメージした防御力だけを最大限に追求した魔法。
その『結界』が、火槍と激突する。
火槍が『結界』と激突した瞬間。勝ったのは『結界』だった。
火槍が『結界』に衝突した瞬間、火槍は火の粉を撒き散らしながら消える。
『結界』は俺の目の前に浮かんだままだ。
これならば、しばらくは安全だろう。
この『結界』は効力を最優先、その次に消費魔力を抑えたがために発現継続時間は一分。消費魔力はたったの2だ。
周りにいるゴブリンを殲滅し、数を減らす。
辺りを見てみると、モンスターは結構な数減っていて残りはあと少しのように見える。
そして、モンスターが減ったおかげで、先ほどまで見えてなかった桐崎さんや今野さん。その他のグループが見える。
みんな、負傷している人が見えるが無事なようだ。
目の前をみると、火球だけがいまだに飛んで来ていてそれは全て『結界』に阻まれている。
モンスターが減ったおかげで、魔法を放っているモンスターの正体が見えた。
その正体はゴブリン……だろう。
ローブを被っていて分からないが、横に二体。ちゃんとした剣を持っていて大きい身体をしているホブゴブリンがいた。
あの時、紙一重で勝てたホブゴブリン……。それも、今度は二体だ。
残りのモンスターを見る限り、ここで出し切っても大丈夫そうだ。
それに、桐崎さんや今野さんが近くにいる。
『アクセル』は消費魔力が多いからやめだ。
代わりに、ここでは……。
「『強化』!」
純粋に身体能力だけを上げる『強化』を使おう。
今度は腕だけに集中ではなく、全身にだ。
あの時と比べて、俺は強くなった。
そんな俺が、今ホブゴブリンと戦えばどうなるのか──
──確かめたい!
短剣を握りしめ、三体に向かって走り出す。
『結界』はもう消えた。来た魔法は全て躱す!
途中にいるゴブリンは容赦なく切り捨てる。
今は、ホブゴブリンと戦いたい!
三体の元に近づくと、ホブゴブリンの一体向かってくる。
速さだけで言えばオーガよりも早い。だが……。
ホブゴブリンが剣を振るってくる。
それを短剣で受け止め弾き返す。
「力はオーガよりも断然下だ」
もう一体のホブゴブリンは、向かっていった方の剣が弾き返されたのを見て向かってきた。
魔法は飛んでこない。
今飛ばせば味方に当たるのが分かっているんだろう。
弾き返した方のホブゴブリンの首元に向かって短剣を突き出す。
それを後ろにそのまま倒れることによってホブゴブリンは回避し、地に手を着きバク転をする形で俺に向かって蹴りを繰り出してくる。
それを避けると同時に、俺はもう片方の剣を受け止めて胴体に蹴りをお見舞いする。
二体を遠ざけて俺は短剣を見た。
明らかに、俺は強くなっている。
あのホブゴブリンと戦ってまだ余裕だ。
それを実感すると、とても嬉しく思えてくる。
二体が俺に向かって走ってくる。
そろそろ……決着を付けよう。
「『転移』」
一体のホブゴブリンの後ろに『転移』し、思いっきり身体を捻り短剣を振る。
その短剣は首に向かって真っ直ぐ向かい、少し硬い感触を感じながら振り切る。
ホブゴブリンの首は半分以上切れており、血を噴き出しながら倒れる。
もう片方のホブゴブリンは、走っていた足を止め振り返る。
その顔は、怒りに染まっている。
ホブゴブリンが俺に向かって剣を振るう。
そのスピードは先ほどよりも早い。
だけど……力がない。
オーガの攻撃は重く、受け流すことはできなかった。
しかし、こちらは速さだけ。
力なんて比べるまでもない。
ホブゴブリンの剣を短剣に当て、方向を変える。
そして、体勢が崩れガラ空きになった急所──首へと短剣を叩き込んだ。
ホブゴブリンの首が胴体から離れ地面に落ちる。
残るは、あの魔法使いだけ。
フードを被ったモンスターが火槍を放つ。
その数は十本。
この時のために魔力を貯めていたんだろう。
魔法が放たれ、十本の槍が至近距離で俺に向かって放たれる。
しかし──
「『転移』」
フードのモンスターの背後に転移する。
それと同時に、俺のいた場所が爆散。
フードのモンスターはこちらを振り向き……短剣で首を貫かれた。
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