第1話 地球、遂に大型アプデ実装!


『これより、世界名21911の大規模アップデートを開始します』


 何気ない高校生活一年目の、何もイベントもクソもない、ただただ退屈な朝。


 俺──三神みかみ 冬哉とうやがいつも通り、朝食のパンを食べながら朝のテレビ番組を見ていると、突然何も感情が籠って無いような、平坦な女性の声が頭の中に直接響いた。

 頭の中に直接響くっていうか、耳元で言われた感じか?


 テレビでニュースを読み上げているアナウンサーもそれが聞こえたのだろうか? ニュースを読み上げていた口から「え?」という言葉がもれ、周囲をキョロキョロと辺りを気にし始めた。

 その反応から、俺はもしかしてと思いテーブルに置いていた自分のスマホを手に取り、真っ先にSNSを確認する。


「嘘だろ、おい……」


 SNSを見ると、フォロワーの一千人の人達が同時に謎の声についてタイムラインに投稿していた。

 クソ、流れるスピードが早くて最初の方の投稿が見えない。

 その間にテレビのアナウンサーも気を取り直してニュースの続きを喋ろうとする。

 だが、スタッフと思われる人がアナウンサーに急いだ様子で近づくと、何かを囁いた。その囁きに驚いた顔をしたアナウンサーは、スタッフの人が離れていくと、「たった今、速報が入りました」とそう言った。


『つい先ほど、『これより、世界名21911の大規模アップデートを開始します』と言う女性の声が世界中で……おそらく、全ての人に聞こえたかと思われます。そして、このこととの因果関係は不明ですが現在、太陽が謎の黒い霧に包まれているようです』


 アナウンサーがそういうと、テレビの画面が外の風景へと移り変わった。

 そして、カメラが太陽に向けられいつもと様子が違う太陽が映る。

 太陽の周囲にはアナウンサーが言った通り黒い巨大な霧に包まれ始めていて、外は次第に暗くなっていた。


「なんだ……これ?」


 朝食を食べながら思わずそう呟いてしまう。

 俺が生きてきた十六年間、こんなことは一度も起こらなかった。そして、こんなことが起こったことは歴史の中でも確か無いはずだ。

 あったら歴史の中で大事件だし。


 そんなことを考えているうちに、画面の中の太陽はどんどん覆い隠されていき、空が段々と昏くなっていく。

 テーブルの上のデジタル時計を見るが、まだ午前七時。

 これじゃあまるで夏の午後七時のような暗さだ。

 

 窓へ移動し、外を見る。

 窓からでも太陽を覆い隠す霧がハッキリ見える。

 完全に太陽が隠れたら真っ暗になるだろう。

 そうなる前に部屋の電気をつけて暗闇に備えるか。


 テレビを見ながらSNSを眺めみんなの反応を見る。

 SNSでは、さまざまな憶測が飛び交っており、世界の終わりだとか、太陽の寿命だとか、どこかの国の極秘軍事兵器だとか様々な議論が進められている。

 俺的にはどこかの軍事兵器説に一票……だが、あの声はなんだよ。


 そんな時、ちょうど日本の裏側に滞在している現地のアナウンサーと連絡がついたようだ。


『えーたった今、ブラジルにいる田中アナウンサーと連絡がつきました。田中アナウンサー』


『……あ、はーい! 今私はブラジルにいるんですが、こちらでも日本と同じく黒い霧に太陽が包まれ始めて暗くなってきております! 現在、手元にライトの光があってやっと周囲が見える程度で、完全に夜のように暗くなったと言ってもいいでしょう』


 テレビに映るアナウンサーは、手でスマホのライトをつけて自分の姿を照らしながら喋っている。

 てか、照らし方が怖すぎる。なんで顎の下からライトを照らしてんだよ! 肝試しか!


 外を見てみるが、今は夕方くらいの明るさだ。

 こっちはついさっきまで朝だったからブラジルは夕方だったのだろう。だからこんなに暗くなってしまっている。

 日本も、もう少しで完全に暗くなってしまうだろう。

 いや、月や星も出ていないから夜よりも暗くなるだろう。


 しばらく、俺はテレビとSNSを同時に見ながら完全に暗くなるのを待った。

 太陽が全て隠れてしまう瞬間を、ジッとテレビで見る。

 この運命的な瞬間を、俺は見逃さないぞ……。

 



 刹那──俺は宙に浮いていた。


 

 何が起こったのか一瞬、何も分からなかった。

 暗闇の中地面に落ち、ようやく自体を把握する。


 揺れていたのだ。地面が。

 黒い霧で太陽が隠れた瞬間、地震が発生した。


 周りを見てみると、最初の衝撃がよほど強かったのか、家の電気が切れてしまっていて、辺りが暗くて何も見えない。

 だが、宙に浮いた瞬間手放してしまったスマホは地震を知らせるけたたましいアラームがなっていてその場所を知らせてくれる。

 どうせならアラームと一緒にライトもついて欲しい所だけど……揺れが強すぎて場所がわかったとしても取りに行けねぇ。


「いや……そんなことよりもまずは自分の身を……」


 暗いなか、テーブルに避難しようとするが、一瞬戸惑う。

 この築何十年か不明な家が安全な保証どこにもないのだ。

 この家が崩れて俺が生き埋めになるのだけはなんとしてでも避けなければ。

 生き埋めなんかになってしまえば、救助が来るまで待たないといけない。

 だが、俺はそんなもの待つ気合なんてない。なんとしてでも無事に生還しなければ。


 俺はリビングにある大きな窓から庭に出るために大地震の中、這いずって移動する。

 こんな強くて縦に揺れる地震はここ最近……いや、歴史を振り返ってもないはずだ。

 

 這いずりながら窓を目指して床を移動していると、指先に鋭い何かが刺さる。


「痛っ!」


 慌てて指先を確認する。傷口を触ってみると、鋭い破片が指先に刺さっている。

 これは……多分ガラス片だ。

 暗い中、窓ガラスがあった部分をジッと見るが、何も見えない。

 だが、これだけはわかった。


「窓ガラスが割れてる……」


 これほど強い地震だ。窓ガラスが割れていたって不思議じゃない。

 しかし、床に視点を向けてみるが真っ暗で何も見えない。

 多分、床には無数のガラス片が散らばっている。なのに暗くて見えないからどこが安全かもわからない。 


 これじゃあこのまま這いつくばったまま移動すると、体のあちこちにガラス片が刺さり怪我をしてしまう。


「クッソ……テーブルの下に避難するしかないか」


 まだ地震は収まらない。

 収まるどころか、段々地震が強くなってきている気がする。

 いや、確実に強くなってるな。


 黙って来た道を再び戻り、テーブルの下に避難する。

 ただ黙って下にいるとテーブルが動いてしまうので、しっかりとテーブルの足を手で固定して過ごす。





 地震が収まったのは、それから十分を過ぎた頃だった。


 床にはテーブルの上に置いていたデジタル時計がちょうど落ちてきており、それを見て地震の長さを測っていた。

 幸いにも、俺自身には指先以外目立った怪我はない。

 だが、家中の家具や窓ガラスがあちこちに散乱していて、これから片付けをするのが大変そうだ。


 そんなことを思いながら、俺はあることに気づく。


「いつの間に明るくなったんだ?」


 先ほどまでは何も見えないほど暗かった室内は、いつの間にか光が差し、部屋の惨状が分かるくらいには明るくなっていた。

 ガラス片を避けるように庭へと近づいて空を見る。


「雲ひとつない空だ……」


 黒い霧なんてどこにも見当たらない。

 さっきの黒い霧が嘘みたいに晴れている。

 そう思いながら視線を部屋の中に向けると、部屋の惨状からこの後の片付けがとても憂鬱に感じられた。


「めっちゃ散らかってるじゃん……」


 壁一面が大きな窓で庭につながるようになっているリビングは、大きな窓は無残にガラス片となり床に散らばり、テレビ台からはテレビが落ち、本棚からはたくさんの小説や雑誌、辞典などが散乱していた。

 リビングだけでこれだ。他の部屋のことを考えると、とても憂鬱で仕方がない。


「寝てから片付けでもするか……」


 部屋の中で、窓からも遠く被害を全く受けていないソファの上に移動し寝っ転がる。

 この地震の大きさだと学校は休校だろう。ラッキー……とはとても思えない。

 ソファのも下に落ちていたリモコンで部屋の電気をつけてみるが、停電しているのか全く付かない。


 嫌な予感がし、俺はキッチンに行って水場の蛇口を捻る。だが、水も出てこなかった。

 

「水もダメなのかよ……」


 これじゃあ昼にカップラーメンも食べられないじゃないか。

 かといって、俺は簡単な料理しかできないし、そもそも食材がない。


「はぁ、めんどくさいな……」


 そう思いながらフカフカのソファに移動してすぐに微睡に着く。



 ──頭に鈍い痛みが走った。


「ん? なんか頭が……?」


 その痛みは、徐々に強くなっていき、ソファの上でジタバタと頭を押さえて暴れ回る。


「クッソ……なんだよ、この痛みィ」


 あまりの痛さに視界がぼやけ、暗くなったり明るくなったりを繰り返す。


「これ……少し、やばい……かも」


 そう言い残し、俺はあまりの痛さに意識を手放したのだった。


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