第2話 ライブ配信



 意識が、徐々に覚醒していく。

 さっきまでの酷い痛みはなんだったんだろうと思えるくらい、今はとても頭が軽い。


「あれから、どれくらい経った?」


 床に置いてあるデジタル時計に目を向けると、あれからおよそ十分程度意識失っていたことがわかった。

 それよりも、なんでいきなりあんな頭痛が起きたんだ?


「……え?」


 頭痛について考えていると、目の前に『文字が書かれている半透明な板』が現れた。

 幻覚……だろうか?

 頭が痛くなりすぎて遂に頭がおかしくなったのだろうか?


 そんなことを考えていると、その半透明な板はまるで窓を閉じるかのように消え去った。


「消え、た……?」


 思わず目が点になってしまった。

 あれは、いったいなんだったのだろう?

 俺の名前とか年齢、職業とか書いてあったんだが……。

 てか、職業の欄に『無職』って書いてた気がするんだけど?

 流石に無職はないだろ、無職は……一応学生だし。


 てかもしかして、今の板ってRPGとかでよくある『ステータス』というものだろうか?

 もしそうだとしたら、俺はゲームを全くやらないから何もわからないぞ。


「そうだ、スマホで調べるか」


 地震の時、アラームが鳴っていたため場所はすぐにわかった。

 電源を付けると、まず最初にいろんなところで地震が起きているというニュースの通知が目に入った。

 インターネットは切れてない。よかった。


「インターネット使えなくなったらめっちゃ困るからな……」


 もし使えなくなったら、最新情報が手に入らなくなるし、色んなところで支障が出るだろう。

 特に今この状態でインターネットが使えなければ人はみんな混乱するだろう。


 そんなインターネットのことを考えながら、俺は困った時のSNSをひらいた。

 何か困ったらとりあえずネットかSNSがあれば解決するのだ!


「ん? なんだこれ?」


 SNSのタイムラインを見てみると、まず最初におかしな投稿が目に入った。

 その投稿には住宅街の写真が載せられており、タップしてよく見ると住宅街に体長が人間くらいだろうか? そのくらいの大きさで、犬よりも凛々しい顔をしていて灰色で……まるでオオカミのような動物が映っていた。

 その動物は、投稿者の方をジッと見ており、今にも飛びかかって来そうな印象を持った。


「この投稿、二分前か……」


 この後、どうなったのだろう?

 その投稿者のホーム画面に飛んでみるが、続きの投稿はない。

 ていうか、なんで住宅街にオオカミみたいな動物がいるんだ?


 俺はしばらく更新を待ってみることにして、その間に増え続けているコメントを眺める。

 コメント欄にも、この後どうなった? などのツイートが見られていて、みんな気になっているようだ。

 そうしてコメントを眺めていると、『ステータス』について呟くコメントがあった。


「え、あの変なヤツ見えたの俺だけじゃないのか……てか、みんな頭痛も体験したのかよ」


 『みんなゲームのステータスみたいな変な板出てこなかった?』と言うコメントには、たくさんの人が反応していて、色んな人が出てきた! などとコメントしている。

 そして、『頭痛めっちゃ痛かったんだけど』と言うコメントも共感の嵐だった。


「やっぱりあれ『ステータス』なのか……」


 そうしてコメント見ながら『ステータス』について見ていると、ようやく投稿の方に反応があった。

 新しく投稿されたのは、『あのオオカミから逃げ切れた……』と言う投稿と、大量出血をしている腕の写真だった。


「うわ……普通に噛まれたらあんなに出血するのか……」


 犬に本気で噛まれたら写真のように大量出血するのだろうか? いや、多分しそうだな。

 たまにテレビのニュースで犬に襲われて人が死亡っていうものが流れてるからな。


「そんな動物が住宅街を普通に歩き回ってるって……めっちゃ怖いな」


 そうなると、やはり猫が一番だな。

 あの、猫の自由っぷりはとてもいい。それに猫は怖くない。

 猫が怖いなんていう人はどうかしている。


 そんなことを思いながら、俺はタイムラインを漁っていく。

 それと同時に、俺は『ステータス』についてある程度は理解する。


「って、誰かライブ配信開始した?」


 通知で、フォロワーの一人がライブ配信を開始したという通知が流れる。

 こんな状況の中ライブ配信するという事は、さっきのオオカミみたいに何かあったか、単なる暇つぶしとかだろう。

 そう思いながら、ライブ配信のタイトルを見た。


「『紫の謎の小人が現れた!』?」


 タイトルがとても気になる。

 どんなライブ配信だろうと思いながら開いてみる。


「なんだこの生物」


 開いてみると、まず最初にタイトル通り、乗り捨てられた車が複数ある交差点に『紫色の小人』がいた。

 なんで交差点の中央とかに車が乗り捨てられているのかは、不明だ。


 これは乗り捨てられた車の影から撮っているのだろうか?

 影からその生物を映しながら、配信者は実況している。


『あの生物、自分的にはエイリアンだと思うんですけど、皆さんはどう思いますか?』


 配信者はそう言いながら何かを漁っている『紫の小人』を映す。

 カメラがアップで『紫の小人』を映した。

 『紫の小人』を観察する。特徴としては、鋭く尖った頭部に、紫色の皮膚。後は、全体真っ黒な目と子供くらいの身長だろうか?

 動物……という訳では無さそうだけど。やっぱりエイリアン?


 配信を見続けると、『紫の小人』が漁っていたものが小人が身体を移動させたことでしっかりと露わになる。

 だが、それは──




 ──人間の……まだ生きている女性の身体だった。


 『紫の小人』は自分の鋭い爪で人間の皮膚を切り裂き、内臓を漁っていた。

 細長いピンクの何かを取り出す小人は、ニヤニヤと笑みを浮かびながらそれを眺めながら、それにもがく女性を見る。


 その時、女性の顔がゆっくりとこちらを向いた。

 配信者は呆然とした様子で撮っていたが、これに反応してしまった。


『は……はは、嘘だろ? 人間? 人間を喰ってる?』


 静かに、画面が遠ざかる。後ずさっているのだろう。

 だが、この行動がダメだった。


 道路に置いてあった赤いコーンを踵で蹴ってしまい音が響く。


「あ……」

 

 目の前に映る小人がそれに反応し、こっちを見た。

 そして小人は……ニヤリと笑った。そんな気がした。


「う、うわぁぁ⁉︎」


 駆け出してくる駆け出してくる小人を見た瞬間、配信者は走った。

 スマホが揺れ、見ているこっちはあまりの揺れに酔いそうになる。

 だが、画面の揺れは配信者が転んだことによってスマホを落とし収まった。


『だ、誰か助けてくれ……! あ、化け物……こ、こっちにくるなぁ!』


 画面が暗い中、配信者の声が響く。

 そして、ゆっくりとした足音が鳴るたびに、『ヒィッ!』という怯えた声が聞こえ──



『あぁぁぁぁぁあぁぁ!』


 何かを切り裂く音が聞こえ、それと同時に絶叫が響き渡り、呻き声がだんだんと小さくなって、やがて完全に静かになる。



『キヒヒッ!』


 静かになった後のその配信は、最後にそんな声が聞こえ無音となった。

 

 

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