第2話 出会い


「それじゃあ、行ってきます」


「おう、気をつけてな」


「気をつけて行ってきてください」


 朝起きて、リュックに必要なものを詰めてから俺は外に出た。

 すると、そこには今野さんと桐崎さんが先に来ていた。


「『転移』」


 二人に別れの挨拶をし、俺は魔法を使う。


 目の前の光景が一瞬にして変わり、懐かしく思える光景が飛び込んでくる。

 俺が転移したのは自分の家だ。

 ここには、汚れたままで気持ちが悪い自分の服を変えにきた。それと予備の服のために。


 家の中に入ると、相変わらず物が散乱して汚い有様だ。


「……ん?」


 『気配察知』が反応した。

 この気配はモンスターではない……人だ。

 でも、なんでこの家に人が……はっ! もしかして空き巣か⁉︎ いや、こんな世界になって空き巣はないか。

 価値とか変わったしな。


 気配がするのは2階から。

 『危険察知』が反応していないので大丈夫だろう。


 2階に恐る恐る登って様子を見る。

 気配があるのは俺の部屋。


 ドアが空いているのでソッと中を覗いてみる。


「なんだこれ?」


 俺の部屋の中には、巨大な氷の塊が。

 それも綺麗な半円のドームのような感じだ。

 しかし、この中から人の気配を感じる。

 これは……魔法で作ったのか?


 そう思っていると、突如氷は綺麗に砕け散った。

 キラキラと、氷の破片が宙を舞い──その中から氷の柱が飛び出してきた。


「あっぶね!」


 咄嗟に『危険察知』が発動してくれなかったら串刺しだったぞ!

 横に避けると、その柱は壁を盛大に破壊し、砕け散る。


「避けられ……た?」


 先程の氷のドームがあった場所から声がした。

 振り返ってみると、そこには布団に包まった女の子。


「いや、避けられたとかじゃなくて当たってたらどうすんだよ! あれ死ぬぞ?」


「不審者でしょ。死んで当然」


 布団に包まりながら、少女はそう言う。

 その少女は眠たそうに目を擦りながらこちらをみた。


「俺不審者じゃないけど? ここの家の住民だけど? お前の方が不審者だろ!」


「あーそうなの。戻ってきたんだ……それで?」


「いや、それでじゃなくて! なんで君はここにいるのさ」


 俺がそういうと、少女はのそのそと布団から出てくる。

 その布団は俺の布団だ。その布団で女子が寝ているのをみると、少し恥ずかしい。


 布団から出て立ち上がった少女の背丈は小さく、身長が174センチある俺の首元くらいの大きさだ。

 髪は腰くらいまであり銀色のような綺麗な髪の色をしている。俺の髪は真っ白だが、彼女の髪は光り輝いている。

 美少女……かと聞かれたら100%美少女と答えるだろう。そんな容姿だ。


「誰もいなかったから」


「はぁ……それなら避難所に行こう。そこの方がここよりも断然いい」


「人がいるとこは苦手。だから一人がいい……だからほっといて」


 人がいるところが苦手って。それじゃあこの世界で生きていけないだろ。

 この部屋をよくみると、カップラーメンの空が至る所に落ちている。

 そして、俺の近くにはカップラーメンが入った段ボールが置いてある。


 あの日から今日までこの少女は一人で生きていたのだろうか? 両親は? そんな考えが頭の中を巡るが、誰しも聞かれたくないことだってある。聞かない方がいいだろうか。

 人がたくさんいるのが嫌……か。それなら──


「はぁ……お前、俺と一緒に来るか?」


「え?」


 俺なら一人だ。大丈夫だろう。

 それに、こいつは見たかぎり魔法使えるしな。それも属性は氷か? これなら冷蔵庫として使える。

 まぁ、美少女だからって言うと梨花がなんて言うかわからないし……。


「って、なんで体隠してんだよ」


「私を襲う気?」


「襲わねーよ⁉︎ 襲うならもう襲ってるわ」


「確かに……だけど、襲った瞬間氷漬けだから」


「はいはい、それで? 行くか?」


「しょうがない、そんなに私にきて欲しいなら一緒行ってあげる。肉壁はいた方がいい」


「俺肉壁じゃないけどな……」


 そう言いながら、俺は少女の方に歩み寄る。


「俺の名前は三神 冬哉。よろしくな」


「待って、これ以上近づかないで……臭い」


 少女が手をこちらに向け俺を止める。

 そして、俺は気づいた。自分の格好と、シャワーなどを浴びていないことに。


「え、そんなに臭い?」


 そう俺が問いかけると、少女はコクリと頷く。

 まじか。このまま梨花さんを探し出して見つけても臭いって思われたら……。そう考えて、俺は急いで自分の部屋にあるクローゼットから自分の服を取り出す。


 そこで、俺は気がついた。

 服を変えたところで体を洗わなければ臭いは取れないことに。


「えっと……君って水出せたりする?」


 振り返り、布団でぬくぬくとしている少女に俺は聞く。


「君じゃない。私は古織 氷華。呼び名はなんでもいい」


 古織 氷華ね。覚えた。呼び名はなんでもいいって……氷華でいいか。なんかこんな感じだし。


「なぁ氷華は水魔法って使えるか?」


「使えるけど?」


 おぉ! これで水の確保ができた! それにしても水魔法で作った水って飲めるのかな?

 まぁ、それは後で検証しようか。


「じゃあ悪いけどこの家の風呂場に水出してくれないか?」


「え? めんどくさいから嫌だ」


 氷華は俺がそういった瞬間手を振り答えた。

 その本人は布団で横になっている。


 はぁ、コイツ……めんどくさいな。


「じゃあ、俺がバケツ持ってくるからそれに水を入れてくれ」


「それくらいならいいよ」


 その言葉を聞いて、俺は下の階にバケツを取りに行った。

 この先の氷華とのことを考えながら。

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