第10話 襲撃の夜に



 あれから、俺たちは慎重に俺の家まで目指し、無事に辿り着いた。

 だが、そこで一つ問題が発生。


 綺麗な部屋がリビングだけだと言うことだ。

 他の部屋は窓ガラスの破片や棚から落ちた物などが床に散乱している。


 どうするかを梨花さんに言ったが、梨花さんは気にしない様子で「え? 私は一緒の部屋で大丈夫ですよ? それより、一緒にいた方が安全じゃないですか?」などと言った。

 

 俺は……どこで寝ようか。

 リビングは綺麗だが、他の部屋は汚い。

 リビングのソファは梨花さんに譲って、俺は布団だけ持って床で寝ようか。

 あれ? ソファと床布団ってどっちが寝やすいんだ?

 まぁ、いいか。そんなこと、今は気にしない。


 そうして、俺はなるべく音を立てないように静かに寝る準備をしていると、不意に梨花さんが話しかけてきた。

 

「先輩……ちょっと、いいですか?」


「ん? どうしたの?」


 スマホのライトで照らしながら、俺は布団を準備し梨花さんの話に耳を傾ける。


「明日、おじいちゃんの……あの場所に行きませんか」


 その言葉に、俺は息を呑む。

 あの場所……と言うのは地下室だろう。


 なんで行きたいかは聞かない。俺も行きたいから多分、同じ理由だろう。

 ただ、モンスターが心配だ。

 まだ地下室にいたらどうしよう。


「うん、俺も……行きたかった。行こうか」


 そんなこと、後でいいか。

 今はそれよりも早く眠ってしまいたい。


 とても……今日は疲れた。


「布団準備できたし、寝ようか」


「えっと……見張りとか必要じゃないですか?」


 梨花さんにそう言われて気づく。

 確かに、二人とも寝てしまえば無防備になってしまう。


 やっと寝れると思ったんだけどな。


「そうだね……じゃあ、先に寝ていいよ」


「あ、いえ……私、今それほど眠くないし、先輩眠そうなので先に眠っていいですよ」


 お、それはありがたい。

 正直今にも意識が途切れそうだったから、ここは言葉に甘えよう。


「そっか……ありがとう。じゃあ先に寝るけど、何かあったら直ぐに起こしてね」


 布団に入りながら、俺はそう言う。

 一応、隣にはスコップを置いて何かあった場合、直ぐに対処できるようにする。


「はい、分かりました……おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


 枕に頭を預け、目を閉じる。

 直ぐに俺の意識は、まるで泥のように奥深くまで沈み込んでいった。






「……ぱい……先輩、起きてください」


 身体が揺さぶられ、意識が覚醒していく。

 目を数回瞬きをすると、目の前にはスマホを手に持った梨花さんがいた。


「おはようございます……今、何時ですか?」


「今、午前一時ですよ」


 スマホの画面を見ながら梨花さんがそう言う。

 確か俺が寝たのは午後八時位。あれから五時間寝たことになる。

 んー、正直寝足りない気もするが、しょうがない。

 俺が寝る前に何時に交代とか言って無かったからな。


「分かりました。起きる時間はどうします?」


「私も五時間でいいですよ」


「分かりました」


 梨花さんがソファに寝っ転がる。

 んーソファよりも布団の方が多分寝心地としてはいいんだろうけど……。

 梨花さん、ソファで大丈夫かな?


「梨花さん。ソファより布団の方が寝れると思うんだけど……俺の布団は嫌だよな」


 布団から起き、俺は椅子に座る。

 

「い、いえ。別に嫌ではないんですけど……いいんですか?」


「うん、いいよ。ソファじゃ身体が痛くなるだろうし」


 遠慮しがちにこちらを見る梨花さん。

 身体が痛くなってしまったらこの先大変だろうからね。


「そう、ですね。じゃあお言葉に甘えて……」


 梨花さんはソファから立ち上がり、俺が眠っていた布団へと横になると、布団に顔を埋め息を吸った。

 えぇ、何してんの梨花さん。


「あの、先輩……おやすみなさい」


 そして、なんとも無かったかのように顔を出しこっちを見る。


「おう、おやすみ」


 そうして、梨花さんはしばらくすると寝息を立て始めた。

 さて、俺は何をしようかな。

 スマホでも、見るか……。






 梨花さんが寝静まって少しして、梨花さんが寝言を言っていた。

 俺は、それを聞こうと思っていなかったが、静かな部屋の中ではその声はとてもよく聞こえた。


「おじい……ちゃん……行っちゃ、やだあ」


 寝言でおじいさんのことを言っている。

 一体、どんな夢を見ているんだろうか……。

 やはり、おじいさんとの夢だろうか……?


 おじいさんのこと、好きだったんだな……それなのに、おじいさんの言うことを聞いて、置いていって……俺よりも決断が早くて。

 俺よりも、本当強いと思う。


「はぁ……俺ってば、ダメだな……ほんと」 


 そう言いながら、俺はステータスを開くとそれをじっくり見始めた。

 そして、俺は『称号』のところにある『人殺し』をタップした。


「これ、詳しく見れたんだな」


 そう言いながら、タップして出てきた詳細を俺は読んでみた。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

称号『人殺し』

 人を殺したことがある人に発現する。

 人型の生物との戦闘時、ステータスに補正。

 人型の生物を倒すと、獲得経験値が微量アップする。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 これは……もし、俺があの時おじいさんと一緒に戦っていれば、どうなっていたんだろうか?

 これがあれば、あのゾンビのようなモンスターを倒すこともできたのではないだろうか?


 そんなことを考えながら、俺は次の『称号』も確認した。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

称号『地球の加護』

 ステータスが見えるようになる。

 魔法が使えるようになる。

 さまざまな言語を理解・話すことができる。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ステータスが見えるようになったのは、これのおかげか。

 それに、魔法を使えるのもこのおかげ。

 最後の効果は、外国人との交流ができそうだな。



 そんなことを考えながら、俺はスキルを見たり、魔法を使ってみようと頑張ったりして梨花さんが起きるのを待った。





「んぁ……んー……あ、先輩。おはようございます」


 集中して魔法の練習をしていると、梨花さんが欠伸をしながら起き上がった。

 あれ? もう六時すぎてるじゃん。


「あぁ、おはよう。ごめん、起こすの忘れてた」


 魔法の練習をするのに夢中ですっかり時間を忘れていた。

 それにしても、俺はステータスとか魔法に関して本当に何も知らなかったんだな。


「いえ、大丈夫です……ぐっすり眠れたので」


「そっか……じゃあ、準備できたら……行く?」


「そうですね……行きますか」


 梨花さんは軽く手で髪を梳かすと、眠気を覚ますために頬を叩いた。


「それじゃ、行きましょうか」


 梨花さんはそう言って立ち上がると、ニコリと笑ってそう言った。


 

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