第5話 ステータス


「お主ら、知り合いじゃったのか?」


 俺のことを『先輩』と呼んだ少女に、おじいさんが問いかける。

 俺はこの少女のことは知らない。

 特に、こんな長く綺麗な新緑色の髪を黒いモコモコとしたゴムで結っている青色の目をした少女なんて……。


「い、いえいえ、私がただ一方的に知ってるだけですから……その、気にしないでください」


 少女は目の前であわあわと手を振りながら俺の顔をチラリと見てそういう。

 まぁ……一方的に知られているのは慣れているから別にいいんだけどな……。


「そうじゃったか、それじゃあ自己紹介でもするとするかの」


 扉をくぐって中にはいると、マットの上で靴を脱ぐ。

 部屋の広さは俺の部屋と同じくらいだから……六畳くらいだろうか? 結構広い。

 ただ、そのほかにも扉があるのでもっと広いことがわかった。

 それよりも……


「明るい?」


「あぁ、この灯りか。外は停電しとるが、儂のこの家はソーラーパネルが設置しておっての、電気が使えるんじゃ」


 なるほど、だから部屋が明るいのか。

 電気で照らされた部屋には、椅子が五つに大きなテーブル一つ。その近くには、学校の教室で見るような石油ストーブが一台置いてある。

 そういえば、石油ストーブが教室に置いてあるのは雪国だけらしいな。


 そのほかには、段ボールが壁一面に積まれていて、その手前には毛布が置いてある。


 俺と二人は、真ん中のテーブルを囲むようにして座る。


「儂の名前は長谷部 旬。好きなように呼んでおくれ。一応、この子……梨花の祖父にあたるの……あとはそうじゃな……ゲームが好きで正直、『ステータス』が現れた時はワクワクしたわい」


 そう言って笑いながら自己紹介をするおじいさん。

 呼び方はもう俺の中で『おじいさん』に固定されているが。


 それにしても、ゲームが好きなのか……俺はゲームを全くやらないから、正直今まで『ステータス』のことについて忘れていたし、何なのかも正直まったく把握していない。

 後で教えてもらおう。

 

「私は澤田 梨花です。えっと、おじいちゃんの家に遊びに来てたんだけど、こうなっちゃって……あ、先輩の一個下の後輩です。その……よろしくお願いします!」


 この子は……悪い子じゃ無さそう……でも、やっぱり俺のことを知ってるんだ。

 仕方ないっちゃ仕方ないな。だから、この子は少し緊張してるんだな。


「俺は三神 冬哉です。えっと……高校一年で、ゲームは全くやらないので正直『ステータス』とかよく分かってないし、モンスターも突然のことであまり整理しきれてないです。よろしくお願いします」


「うん、冬哉くんよろしく」


「先輩よろしくお願いします」


 そうして、俺はこの地下室の住民となった。




「さて、『ステータス』についてだったの冬哉くん」


 自己紹介をした後、俺はおじいさんにステータスについて教えてもらおうと、おじいさんに話しかけた。

 梨花さんは部屋の端にある布団が積んでいるところで何かしているが。


「はい、全くわからなくて……あれ、何だったんですか?」


 そう聞くと、おじいさんは小声で何かを呟くと、さっき見た半透明な板『ステータス』が現れた。


「これのことかの?」


 おじいさんがスマホを操作するかのようにステータスを横にフリックする。

 フリックされたステータスは、俺の目の前にやってきた。


「これがおじいさんのステータスですか?」


「これから説明するからこれを見ながら学ぶんじゃぞ」


「わ、わかりました」


 おじいさんのステータスをよく見る。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 名前:シュン・ハセベ

 年齢:63

 種族:人族

 職業:見習い剣士 Lv.1


 Lv.1

 HP 10/10

 MP 10/10


 STR 10

 DEF 9

 INT 10

 AGI 8

 DEX 10

 LUK 46


 SP 163

 JP 0


 スキル

 ・格闘術 Lv.1

 ・剣術 Lv.1


 称号

 ・地球の加護


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ステータスを見ると、職業がしっかり決められていることに気が付いた。

 俺は無職のままなのに。


「まずはわからないとこはあるかの? 流石に『名前』、『年齢』、『種族』くらいはわかるじゃろ?」


「えぇ、まぁそれは分かります。……それで、職業って何ですか? 俺、無職なんですけど」


 無職……というのは実に俺としては恥ずかしい。

 せめて……せめて学生とでも職業を変えて欲しい。

 だけど、おじいさんの職業が『見習い剣士』ってこれなんだ? こんな職業があるのか?


「そうじゃな、その『職業』じゃが、設定をしなければ最初は誰でも無職表示になる」


 なるほど、だから俺は無職なのか。

 よかった……俺だけ無職なのかと思った。


「そうなんですね……ところで、この『見習い剣士』って何ですか?」


「あぁ、それはじゃな、剣技を上手く使える職みたいなんじゃ。詳しくはまだわからんのじゃけどな……梨花の職業には『見習い剣士』はなかったみたいじゃしな」


 その声に、布団が置いてある場所で自分のステータスを開いていた梨花さんがこっちを見る。


「え? 私の職業は『見習い回復術師』にしたけど……まぁ回復魔法は使えないんだけどね」


 あはは、と笑いながら梨花さんは俺とおじいさんがいる、テーブルがあるところへとやってきて、椅子に座る。


「回復術師って……魔法とか、使えるようになるんですか?」


「多分、使えるようになるんじゃないですかね? ステータスを見る限り、魔法って欄はありませんけど」

  

 梨花さんは自分のステータスを見ながらそう呟く。

 んー使えるとしたら使ってみたいな。

 ゲームとかはあんまり俺はやらないが、ファンタジーは好きだ。

 魔法くらい憧れるだろう?


「そうだ、『ステータス』ってどうやって出すんですか?」


 二人は今ステータスを開いているが、俺は最初に出たあの時だけしかステータスを見ていない。

 これは一体どうやってだすんだろう。


「それはじゃの、簡単なことじゃ。ステータスと頭の中で念じるか、もしくは『ステータス』と呟きながら見たいと思うと現れるようじゃ」


「なるほど、ありがとうございます」


 見たいと思えばステータスが見れるのか。

 それなら……。


「あ、でできた」


 俺がステータスを見たいと心の中で思っていると、目の前にステータスが現れた。

 今度はしっかりとみよう。

 前は少ししか見れなかったからな。

 


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 名前:トウヤ ミカミ

 年齢:16

 種族:人族

 職業:無職 Lv.1


 Lv.1

 HP 10/10

 MP 100/100


 STR 8

 DEF 7

 INT 12

 AGI 13

 DEX 11

 LUK 68


 SP 116

 JP 10


 スキル

  〈スキルを選択してください〉


 称号

 ・地球の加護

 ・人殺し


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 ステータスをよく見ると、二人には見せられないような『称号』が目に入る。


 『人殺し』。この称号は、俺にまるで「罪は一生消える事はない」といっているようだった。

 これがバレて仕舞えば、俺はこの二人からなんて言われてしまうんだろうか……。


「どんなステータスじゃったか?」


 おじいさんが聞いてくる。

 おじいさんと比べてみると、ほぼ同じ。

 違う点があるとすれば……。


「MPが、おじいさんの十倍ありますね」


 称号のことは言わない。

 言ってしまえば、おじいさんや梨花さんに幻滅されそうだから。

 いや、もしかしたら梨花さんは知っているかもしれない。

 一個下だそうだから。

 俺が、中学校で受けていた扱いや、なんで中学校一年の途中で引っ越してきたか。


 それを知った上で、梨花さんは黙っているのではないか?


「おぉ! MPが十倍じゃと⁉︎ 羨ましいわい。それで、『職業』がまだ未選択じゃったかの」


「はい、そうですね」


 早く、無職を卒業したいものだ。

 できれば、魔法職がいい。俺は剣とか持ちたくないし、まず刃物が怖い。


「それじゃあ、『職業』の欄をタップするんじゃ。なれる職業が表示されるぞ」


 おじいさんのいう通り、『職業』の欄をタップすると画面が切り替わった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

選択可能な職業

 ・無職

 ・平民

 ・農民

 ・冒険者

 ・見習い剣士

 ・見習い魔法士

 ・見習い闘士

 ・学者

 ・盗賊

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「どうじゃった? とりあえず、この紙にかいて考えるかの」


 そういって一枚の紙を取り出し、おじいさんはそこに『職業』と書いた。

 

「えっと、出てきたのは『無職』『平民』『農民』『冒険者』『見習い剣士』『見習い魔法士』『見習い剣闘士』『学者』『盗賊』でした」


 出てきたのはそれだけ。

 梨花さんの『見習い回復術師』は出てこなかった。


 それも仕方ないだろう。

 誰もが回復魔法が使えるとは限らないのだ。


「ふむ、ところで『職業』の選択がまだじゃったら、当然取得できる『スキル』も見てないんじゃろ?」


 そう言われて、俺は『スキル』の欄を見る。

 確かに、選択制になっているしまだ決めていない。


「そうですね。まだ『スキル』を決めていません」


「それなら、まず取得できる『スキル』を見てみようかの、いいスキルがあれば職業もそれに合わせた方がいいじゃろうし」


 なるほど、確かに強い『スキル』があればそちらに合わせるのもいいだろう。

 そう思いながら『職業』を開いた時と同じように、俺は『スキル』をタップした。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

取得可能スキル

 ユニークスキル

 ・刃神


 スキル

 ・調理

 ・投擲

 ・格闘術

 ・精神強化

 ・ストレス耐性

 ・恐怖耐性

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「ユニークスキル?」

 

 スキルを開くと、一番最初に普通のスキルではないものが表示され、俺はそれを思わず呟いた。

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