第20話 束の間の里帰り その2 変事

「勇者と、その国を滅ぼせって、国民もろとも皆殺しにしろって事?」

「そこまでは書いていない。国として崩壊させればそれで済と思うけど」

「ふうん。それで、勇者っていうのは?」

「こっちの物語のテンプレお約束だと、俺みたく異世界から転移させられたり転生させられた誰かがやがて勇者になって、悪の象徴である魔王を討伐するとか、そんな象徴的存在だよ。セリカの居た世界には居なかったのか?」

「少なくとも私は聞いた事無いわ。勇者も魔王もね」

「じゃあ、次は、セリカが元居た世界とは違う世界なのかもね」

「かもね。でも、もしそうだとしたら、今から準備しておける事なんてあるの?」

「あるさ。例えばポータルのスキルを上げる事」

「えっ!?こっちの世界じゃ魔法は使えないんじゃなかったの?」

「スキルと魔法じゃ扱いが違うのかもな。こっちに戻ってきてからも、目に見えないくらい小さな大きさのを出したり消したりし続けてるよ」


 大きさは1ミリ以下。レベル30になってから、ポータルは同時に3組展開出来るようになっているので、1センチくらいまでの最小値をなるたけ更新できるように小さくより小さくを心がけながら続けている。

 セリカの目の前に極小の赤ポータルを出したり消したりして、それでようやくセリカも気付けた。


「確かにそのスキルが私たちの生命線だから、それはそのまま続けてもらうしか無いとして、他には?」

「どっちにしろ長丁場になりそうなんで、この休暇は休暇として楽しんでおくのと、やっぱり、何かあった時の備えをしておく事かな~」

「長丁場ってどれくらい?」

「一ヶ月以上、一年以内って感じ」

「勇者ってのを倒して、それでおしまいじゃないの?」

「勇者を一ヶ月以内に倒せば、猶予が一年もらえるみたい」

「・・・まぁ、それだけ時間があるなら現地に行ってからもいろいろ準備できるからそれは良いとして。今までは、こっちにいない間の時間経過はどうなっていたの?」

「最初のゴブリンと次の蛇さんと狼さんで一昼夜、次のドゴンザー一家殲滅で昼間の大半使って、そこから48時間を炎竜退治。だから少なくとも3日は経ってないとおかしかったんだけどね~。パソコンの日付を確認したら、半日くらいしか経ってなかった」


 そう。あのあくびしてたらいつの間にか森の中に放り込まれてたのがたぶん昼前くらい。その同じ日付の夕方くらいに、俺はセリカと自宅の門前に戻ってきていた。

 どう考えても計算合わないんだけどね~。


<気にされない事をお勧めします>


――気にするなって言っても、一ヶ月とか一年とか留守にしたら親も心配するくらいじゃ済まないだろうし、俺も無事戻れたとしても留年確定じゃねーの?


<都合は合わせますので、ご心配無く>


――全部終わらせて戻ってきたら、まだ春休み中だとか?


<心配される必要はありません>


――って言われてもさ。ドラゴンよかやばい相手なんだろ、その勇者って?死んだら戻ってこれないなら


<ミッションを達成すれば戻ってこれますよ>


――あといくつ達成すれば終わるんだよ?


<さあ。それは非開示情報となります>


「ハルキ?」

「ん、ああ、ごめん。ヘルプ機能さんと話してて、ってて手ー!?」

「私と密着しながら話してた筈なのに、上の空になっちゃうんだもの。だからこれはお仕置き」


 背後からセリカを抱きしめる感じでいた(無難な位置に置いていた)筈の右手は彼女の胸に、左手は一番イケナイところに、彼女の手によって誘導されていた。


「せっかく二人きりなんだもの。キモチイイ事しましょ?」

「だから、そういうのは夜両親が寝てからー!」


 こんこんこん、とドアがノックされ、

「春樹~、母さん起きた、ぞ・・・」


 ドアが開き、父が部屋の内側の様子を確かめた時、セリカが色っぽい表情して俺にキスしていた。もちろん二人の手の位置はさっきのまま。


 硬直した俺の様子を見ると、

「ご、ごゆっくり・・・?」

 と言い残して父は扉を閉めて去ってしまった。


「ほら、お義父様の許可ももらえたし、ね?」


 もうセリカさんの眼光や体温が止まらない感じになってしまったので、その、速攻でごにょごにょしましたとさ!(家庭内やご近所迷惑にならないように配慮はしつつ)



 お陰様で、晩飯の席は寿司やら何やらでやたら豪勢な内容だった。

 何か憮然とした母の様子については、父が「30や40になってもヒキニートのまま二次元のお嫁さんと一緒なんだから寂しくないとか言い張られるのとどっちがマシだ?」と微妙な説得をされてこの状況を受け入れてくれたらしい。


 うん、そういう未来はさすがに自分でも嫌かな。。。

 生魚って事でセリカには無理かとも思えたけど、大丈夫だったみたい。納豆巻きの臭いには驚いてたけど、それでも食べてみたらイケルって感じらしく、お箸の使い方はまだ無理で突き刺してるけど、

「外国人なのに日本語上手だね~」

 と二人にほめられると、

「ハルキと一緒になりたくてがんばりました!」

 と大嘘をしれっとついていた。


 二人の馴れ初めについても当然訊かれたけど、本当に偶然に、セリカのつらい境遇を俺が救っただけで、詳細については伏せさせてもらった。実際にあった事は説明できないし、それらしい話をでっち上げてもボロが出るだけだと思ったから。

 ミッションについては説明できないしね。


 その後お風呂については当然一人ずつ入る予定がセリカは突撃してきたし、何かもうあきらめてしまった二人によって、俺の部屋の床にはもう一組布団が敷かれたが、

「一緒にベッドで寝るので不要です」

 とか言わないでいいからね、セリカさん。止める前に言っちゃってたけど。


「それで、明日は何をするつもりなの?」

「明日は、遊園地でデートとか出来ればいいかなと思ってるけど」

「けど?それじゃ今夜寝るまでの間は?」


 セリカさんは、猫が獲物ににじり寄る様に両手両足を床について迫ってきてたし、口調も茶化してたけど、目はふざけていなかった。俺のTシャツ着てそんな姿勢だと胸元がー!というのはさておき。


「うん、練習しておこうかと思って」

「練習って、さっきの出し入れみたいのじゃなくて?」

「休暇で家に戻る転移される前にさ、あの火山の中腹に作った地下室に、青ポータル一個設置しておいたんだよね」

「でも、数分から長くてその何倍かとかで消えてしまうんじゃなかったの?」

「その筈だったんだけど、まだ消えてないみたいなんだ」


 そう。これは、かなり大きな変化をもたらす筈の変事だった。



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