第40話 90日で終わらせる対宇宙帝国反乱戦 その3

 セリカがヘルメットを外した途端に竜人族達の雰囲気が急激に悪化したのには驚かされた。

 すぐにセリカを結界で覆い、警告を発したのだけど、それでも食い下がってきた。


 どうやら、竜人族の祖である彼らの竜神を殺したのが人間族の英雄達で、その英雄を唆して殺させたのがエルフの妻だったらしい。


 俺が人間なのは、まだ耐えられたらしい。だけど、竜神でもある俺の妻がエルフだってのが、彼らには耐え難いらしい。そう言われてもなぁ・・・。


「帝国は人間族が支配層でエルフとか一部の別種族も参加協力してるけど、人間族の姿から離れれば離れるほど差別されて苦しめられてるってのはわかった。だけど、セリカはこの世界のエルフじゃない。俺も、この世界じゃない世界で生まれた人間だ」

「しかし、あなたは竜神でもあられる」


 竜神を倒したとか言うとまたこじれそうなんだけど、う~む。セリカとぼそぼそと内密に相談してから話し合いを続行。


「そうだ。だけど元々は、ただの人間だった。生まれた世界では、まだ成人の年にさえ至っていない」

「だが、すでに妻を迎えているのでは?」

「それはセリカの郷里での話だ。彼らにとって俺の年は問題ではなかった。セリカはセリカですでに成人してはいる。俺の世界の郷里で彼女を妻に迎えるのは、やっぱり元の世界での成人の年を迎えてからになるだろう」


 話がそれた。ので、元に戻す。


「お前達の祖である竜神を殺したのは人間で、そそのかしたのはエルフだったかも知れない。だけどお前達は、人間族やエルフ族を根絶やしにするつもりなのか?」


 この質問にはそう間を置かずに返答された。


「いいや。我々もそこまで禍根を引きずるつもりは無い。末祖が殺されてからも数千年が経ち、かつて強勢を誇っていた竜人族の数も減りすぎた」

「俺は、お前達の反乱戦争を勝利に導く為に遣わされた。その期間は三ヶ月。それが過ぎれば、俺もセリカもこの世界から消える」


 これには、あちこちから悲嘆の声が上がった。


「また、我々を置き去りにされるのですか?」

「違う。俺はお前等の遠祖にも末祖にも関係が無い。俺はかつてゼオルゲルという竜神と一対一で戦い、これを倒し、竜神としての存在を継いだ。セリカはあくまでも補助を務めたけれど、彼女が得た竜神の加護はゼオルゲルからだ。俺からじゃない」

「そんな・・・」

「疑うならお前等で確かめろ。誰かいないのか。祭司とか、竜神の加護を確かめられる奴は?」


 そこで進み出てきたのは、あのお姫様だった。


「竜神の血を引く私であれば・・・」

「余計な手出しはしないと誓えるか?」

「はい、誓いましょう。けれど、もし叶うのならば、一つ、お願いをしとうございます」

「俺にお前を娶れとかいうのなら、それは出来ない。あれだけセリカに敵対的だったお前等を側に置きたくないからな」

「娶って頂けるのであればこの上無い喜びとなったでしょうが、すでにエルフを娶られているハルキ様に無理はお願いできませぬ。私の願いは、もしこの反乱を成功できたのなら、ハルキ様に竜神の加護を与えていただきたいのです」

「まぁ、それくらいなら」

「ありがたき幸せ。新たな竜神様に加護を授けて頂くのは、我ら竜人族の、末祖が亡くなられてから後数千年の悲願でした」


 イムジェイラ姫は、セリカに近寄り、じっと見つめ、何かを確認した。


「間違いございません。我らの祖の物では無いものの、竜神の加護が与えられております。あなた、セリカ殿でしたか」

「ええ、そうだけど何か?」

「あなたは、竜化は出来ないのですか?」

「やろうとしたことも無いし、あまりしたくも無いんだけど、たぶん、出来ないんじゃないかな?ハルキはどう思う?」

「訊いてみるよ」


――ヘルプ機能さん


<出来ません>


「出来ないってさ」


 それで何故かイムジェイラ姫も、まだ気を保ってた竜人族その他も、かなり安堵していた。エルフが竜化とかしたら、もしかしたら発狂してたのかもね。怒りで脳の血管がぶち切れたりして。


 それはさておき。


 俺はイムジェイラ姫に断ってその額に指を触れさせてもらい、彼らの本拠地があるという宙域、なんだか深宇宙とかいう未踏宙域の際にある場所をイメージしてもらい、そのイメージからこの宙域からつながる緑ポータルを展開。(ちなみにこのイメージや記憶の共有から移動先へつながる緑ポータルを作るのは、レベル80に達した時のスキルボーナス)

 動かせる艦は全てその緑ポータルをくぐってもらって移動。

 本拠地での会議の詳細は彼らにほぼお任せしたけど、反乱軍に味方してくれそうな存在の近くに在留してる帝国の艦隊とか基地とかを明日から連日潰して、説得工作をかけるからと伝えた。動ける艦は同道するようにとも命じた。ちょっとでも参加してもらえれば、自分一人でやったことにはならないからね!


 会議後も、反乱軍に参加してる皆さんの故郷や親戚、仲間や知り合いなど可能な限り広範囲の星系を思い浮かべてもらってそこに小型艦で転移して、例の檄文映像を拡散して反乱勢力に参加・糾合するよう広めてもらった。

 何せ、通信だけでも普通なら数日から数週間かかったりするらしいから。銀河の端から端まで伝播するまでには。


 そうやって自分でも可能な限り多くの星系や主要惑星や宇宙ステーションなんかに自前でポータル開けるように準備をしつつ、小規模の艦隊を伴って各星系の駐在艦隊なんかを無力化したり拿捕したりして、反乱軍の味方に加わるよう説得を重ねて仲間を増やしていき、徐々にだけど確実に反乱軍の勢力は増していき、一ヶ月後くらいまでには、勢力比で59対41くらいにまで迫っていた。

 あまり手を出し過ぎないよう、それでも所々で補助しながら反乱軍の連戦連勝をお膳立てして、その内容が都度檄文映像に盛り込まれて更新されつつ、最初の日から三ヶ月後の一週間前の日に、帝国首都星系に集合して帝国打倒を呼びかけ続けた。


 で、それらとは別に、あの結界を切り裂いたジ○ダイだか○スだかの騎士達への対応があった。幸か不幸か、彼らが宇宙服着て光剣振りかざして襲ってくることは無かったけど、決戦の前に連中を潰しておく方が安全だとセリカとも話し合い、深宇宙でそれなりの準備を整え、決戦予告日の一月前には彼ら帝国守護騎士の母星を処理・・した。


 十万光年以上をまたいだポータルの運用だったけど、うまいこといったとだけ今は書いておこう。決戦はこれからだしね。

 ○○の復讐とかみたいな事態はどうせ起こるんだろうし、まともに相手しない為の手間は惜しまない。

 3ヶ月で宇宙反乱戦争成功させろってのが土台無茶な話だから、連日どこかの星系に移動したり戦ったりその他下準備したりで、時間は早送りのように過ぎていった。


 そして迎えた決戦の前日。この銀河系の方々から首都星系目指して反乱軍は集結した。帝国軍はすでに首都星周辺に展開を終えた約10万の艦隊。反乱軍は総勢約8万近くの艦隊。このミッション開始時には百隻くらいしか残ってなかったのを考えれば、しみじみと良くがんばったな~、と感慨に浸った。反乱軍の艦隊の半数近くは、この3ヶ月で拿捕した帝国軍の物だしね!(もちろん、再掌握されない為の安全処置は終えていた)


 ここまで来れば、帝国政府内でも、抗戦派と和平派がぎりぎりの攻防を続け、皇帝その人も判断を迷っているらしいと伝わってきていた。

 自分も迷ってたと言えば迷ってたしね。

 なぜかって?


――ヘルプ機能さん、反乱成功の条件は?


<単純な、和平ではありません>


――単純な和平って何?単純じゃないのとどう違うのさ?


<単純な和平とは、例えば停戦ですね。竜人族他の母星を解放し自治権を認めるとか>


――えーとそれだと、今のままの帝国支配がほぼ続くから?


<そうですね。例えば帝国議会に反乱勢力からの議員をそれなりの数送り込めるとなれば、和平案としてもかなり譲歩した内容となるでしょうけど、それでも議会の圧倒的多数は人間族とその傘下に置かれた種族によって占められていますから、やはり実質的な帝国支配は揺らがないでしょう>


――じゃあ、その議会の議席が半数近くくらいになるまで譲歩させないとダメってこと?


<このミッションの目的は、反乱の成功・・・・・ですよ、ハルキ。もっと単純に考えればいいのです。それに、帝国皇帝からもあなたへの提案があるでしょうから>


 その具体的内容は、うん。帝国軍と反乱軍の艦隊がにらみ合う中間で、帝国皇帝とその第一皇姫とエルフ族の宰相、俺とセリカとイムジェイラ姫とのトップ会談を行うことになり、そこで明らかになった。


 序盤のジャブみたいな挨拶の応酬が終わった後、皇帝、黒いフードマント被った白い肌のしわしわのじいちゃん皇帝ではなく、壮年前くらいの年に見えるいかめしい顔つきをした人間の男性は、俺に言った。


「この銀河の半分近くをくれてやる。それで矛を収めてくれないか?」と。


 うわお、それ、どっかの竜王様の台詞じゃなかったっけ?おら感動しただ!(ぷち嘘

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る