第41話 90日で終わらせる対宇宙帝国反乱戦 その4

 帝国第321代皇帝ルルシュガイア(これもどっかの何かで聞いたようなことがあるような名前だけど気にしない!)は言った。


「正直、ハルキ殿。竜神たるあなたは得体が知れなさ過ぎる。辺境星系に姿を現し、滅ぼされる寸前の反乱軍艦隊を救ったのと同日に、この首都星系駐留艦隊と要塞までを含めて多くの基地などを崩壊させ、それ以降も多くの拠点や艦隊を奪われてきた。宇宙的規模の距離的制約を全く無視して、だ。

 そして、帝国守護騎士の母星の件だ。あれももとあった位置から唐突に消失して、深宇宙の未踏領域に放り込まれた挙げ句消滅させられた。それもあなたがやったことだろう?」

「そうですね」


 皇帝は、額ににじみ出る汗を拭いながら続けた。

「だが、あなたには何故か、時間的制約がかけられている。あの辺境宙域に現れてから三ヶ月。その間に反乱を成功させなければならないと伝えられたそうですね」

「否定はしません」

「この場での艦隊戦が帝国側の敗退に終わっても、首都星が落とされても、帝国はまだ滅びません。徹底抗戦を続けるのなら、続けられるでしょう。それこそ数十年以上の単位で軽く」

「でしょうね」

「あなたには時間が残されていない。しかし滅ぼすだけなら、この短期間にあなたはもっと甚大な被害を帝国に与えられたのにそうしなかった」


 俺はただ肩をすくめてみせた。あまり詳しく説明する必要性があるとも思えなかったので。


「あなたは竜神でもあるが人間でもある。そちらの妻であるというエルフの女性も含めて、それぞれが異なる世界からこの世界へと訪れたと聞いています」

「そうですね」

「あなたがこの世界を訪れた理由が、三ヶ月以内に反乱を成功させることだったとして、その後この世界を去るのも確定事項だったとして、さらにその後、この世界に戻ってくることも可能なのでしょうか?」

「可能です」


 そこで皇帝は天を仰ぎ瞳をぎゅっと閉じて眉間に皺を寄せてから、自分の両脇に控えている皇女と宰相とに視線を向けた。


「初めまして、竜神ハルキ様。私は第一皇女のオウレアと申します」

「ただのハルキでいいよ」

「いえ、この場ではそういう訳にはいきません」


 この場では、って、イムジェイラがいるから?

 そう思ってちらりと彼女に向けると、オウレアが尋ねてきた。


「つかぬことをお伺いしますが、彼女、竜人族の長にして、この世界の竜神の末裔でもあるイムジェイラ様を后として娶られるご予定は?」

「無いよ。反乱が成功した暁には、加護を与える約束にはなってるけど」

「では、反乱を成功させる条件、和平の証として、私を娶っては頂けませんか?」


 そう来たか。

 それも、昨日ヘルプ機能さんと話してからセリカと相談した和平や反乱が成功したと判定される条件の一つになるかなー、という話は出ていた。


「竜神たるあなたと、皇帝たる余の娘との間に子が産まれ、皇位を継ぐとなれば、竜人族とて帝国を割るとまでは言わぬだろう?」

「むう・・・・」

 イムジェイラは、悔しそうに俺を見つめてきた。

「もし、もしもハルキ様がそこの人間族の姫を娶り子を為すというのであれば、この私も娶り、子を為して欲しい」

「それはハルキ殿次第だな。帝国皇室としては、その点に関しては関与しないと誓おう」


 うーん、と悩んだ俺は、自分とセリカとを結界で包んで相談することにした。


「セリカ的に、どうなの、この提案?」

「ハルキ的には、どうなのよ?私は、ほら、もちろん他にお妾さんみたいの持って欲しくはないけど、一番大事なのは、ハルキがミッションを失敗したり、私でない私があなたと別れを強制させられたりするのを避けられれば避けることだから。他に大事なことなんて、無いわ」

「俺も、あんな思いをするのは、もう二度と、イヤだ・・・」

「なら、ヘルプ機能さんに確認してみて」

「わかった」


――で、どうなのこの提案?


<お一人かお二人かを娶り、あなたに提示された版図の自治権を獲得する。その条約が交わされ、あなたと彼女達との婚儀と契りまで為されれば、反乱は成功したと見なされるでしょう>


――条約だけだとダメなの?


<和平を固定する楔としては、弱いですね。特に、あなたがこの世界から去った後は>


――そろそろ、無茶ぶりが立て続けだったから、休暇が欲しいんだけどな~?


<考慮しておきましょう。お一人かお二人を娶るどちらにするかは、あなたにお任せします>


――え~?


 俺が考え込んでると、セリカが尋ねてきたので、ヘルプ機能さんの回答を共有。彼女もしばし悩んだ上で、オウエラとイムジェイラへと尋ねた。


「ええと、詳しくは後からハルキ自身から説明があると思うけど、ハルキはいろんな使命を与えられて、世界を転々としてるの。今回みたいに数ヶ月とかそれ以上に長い期間を与えられることもあれば、数日とか数時間てごく短い場合もある。だから、まともな夫婦関係が築けるわけも、無さそうなんだけど、それは構わない?」

「子を為す暇が時折与えられるのであれば、不都合は無いでしょう。というか、あなたと同じ様にその使命に同道できれば、それに時折こちらに戻って来れるのであれば、問題は無いように思えます」

「私も・・・、同感だ。この身を竜神様に捧げられる以上の幸福は無い」

「じゃあ、後はハルキ次第ね」


 そしてセリカが撫でた下腹は、うっすらと膨らみを帯びていた。もちろん、オウエラとイムジェイラもそこをガン見している。


 うん。言い訳をするつもりは無い。原点回帰のスキルを得てから、やり直しが発生する可能性について、とことんセリカと話し合った。そして自分はやり直せたとしても、ミッションが失敗した世界でのセリカとは永遠にお別れする事になる決心もつけた。

 もしかしたら、別れた彼女の世界にもポータルをつなげられるかも知れなくても、この後いくつのミッションに挑戦させられ、また失敗してやり直しを余儀なくされるかわからず、その度に別れたセリカの数は増えていく事になる。

 だから、その別れが発生する前に、二人の愛の証が宿るまで、単純に言えば、がんばった。それはもうひたすらに。原点回帰のスキルをフル活用して、なんとか、その時の次のミッション開始時までには、間に合わせたのだった。そして覚悟を決め、二人の間で別れる事になってもそれを受け入れてミッションを達成していき、最終的なセリカと別れずにミッションからの解放を目指すと約束したのだった。


 だから俺は、セリカの手を握って、皇帝達に向かって言った。


「提案を受け入れようと思う」


 そして倍速くらいだった日々が三倍速から五倍速くらいになって、提示された星系を竜神系として自治権を認める事。竜神に帝国皇帝の娘と、竜人族の姫が輿入れする事で、和平条約が結ばれ、期限の前日までにその調印式と結婚式が帝国の城と、かつての竜人族の母星とで行われ、それぞれの姫とも契りを交わして、はい、反乱は達成されたと認められました。


 それはいいよ、いいけどさ。

 このミッションの後に休暇期間がもらえたのもうれしいさ!

 エルフの宰相さんにお願いされて、セリカの郷里に転移してからその宇宙空間に出て測定して、やっぱり別銀河や宇宙どころじゃなく、全くの異世界だねって確認が取れたりとか、例のゼオルゲルの火山島に帝国のテラフォーミング部隊を派遣してそこに竜神の宮殿を建てようとかになったのもまぁ許容範囲だとしよう。(もちろん、島の外への進出や探索なんかは厳密に禁じた)


 だけどほら!

 セリカを連れて帰るだけで卒倒してた母とかさ、セリカが妊娠してるだけじゃなくて、他にも二人のそういう関係の女性を連れて帰るとかさ、それもう罰ゲームじゃなくて何なのさ!?


<あなたに拒否権は無いようですね。ははっ>


 とか笑ってくれやがりましたよヘルプ機能さんは!!!

 いやね、ほら、皇帝陛下とか竜人族の重鎮その他とかでも、俺の両親に挨拶したり故郷を目にしてみたいとか言われたけれども、説明がほらそもそも難しいし全部言えないし!


 でもまぁ、その説明ももう避けられないんだろうなぁ・・・・・・。

 オウレアはともかくイムジェイラは、加護を与えた事で竜化できるようになり、それだけでも竜人族は三日三晩くらい感涙に浸った、いや比喩とかでなく。そしてイムジェイラから懇願されて、竜化した状態でも(以下自粛)。


 それに当てられたのか、三人中自分だけが竜神の加護を得ていない事を不服に思ったのか、性生活が激しくて加護を得てないと無理だと判断したのか、オウレアにも請われて加護を与えた。彼女はあの帝国守護騎士系の力も持ってたらしく、それでいろいろやばい事にもなりかねなかったんだけど、彼女が自粛してくれたらしくそちらはまぁ気にしないでもOKになった。


 ミッション終了間際までに、二人を里帰りに同行しても地球規模の騒動が起きないよう、ゼオルゲルの遺産をフル活用したのは言うまでもない。

 イムジェイラは俺からの加護を得た後、角も尻尾も無い、ほぼ人間状態にもなれるようになったんだけど、地球上のどの民族にも合致しないような獰猛な感じの顔つきと頑丈そうな体つきをしてたので、うん、まぁ、両親は絶対にびびるだろうね。

 帝国の御姫様たるオウレアも、普通に外出歩かせたら、どこの海外王室の王女様?みたいな騒ぎになるのは絶対不可避だろうし。


 はい、そしてまた、自分の実家の玄関前に転移させられましたよ。その一時間前には原点回帰のスキルをセットし直して、基本的にやり直しは自分かセリカしか理由としないというのを、オウレアとイムジェイラには納得してもらった。

 ただ二人とも、絶対に、この里帰りには同道すると言って聞かなかったしね。ははっ。


 もうどうにでもなーれ、とあきらめた俺は、家のチャイムを鳴らしてから、玄関の鍵を差し込んで回し、ドアを開けて言ったさ。


「ただいま」って。


 そして出迎えてくれた母親が、俺と、セリカと、その後ろに控える二人の女性を見て気を失ったところまでお約束だね!


 うん、だけど、そのお約束だけじゃ済まなかったのは、さすがに、想定外だったとだけここに書いておこう。

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