第29話 勇者とその王国の討滅戦 その8 乱入者の顛末

 運命神としての権能そのものは奪えなかった。

 ヒデキと同じように、名前を奪う?いや、神様なんて複数名前持っててもおかしくないし、実際、さっきはヘルプ機能さんに教えてもらったのとは別の名前に反応があったから、期待薄。人間以上に、効果が読めないし。

 いたずら心を飛ばす無くす?それでもっと酷薄な性格になったら手が付けられない。だからやらない。

 ここに放置する?その手もあるけど、避難場所を失いたくないし、残置したポータルに何かしらの細工をされてトラブルに巻き込まれるとか出来るなら避けたい。うん、いやだ。安心して使えない避難場所なんて。

 とすると・・・


――ヘルプ機能さん。ランダムな世界の適当な場所にポータル開ける?さっきもらった権能で?


<今回は特別に協力しましょう。方々から目をつけられてる存在ですしね>


 んじゃ、どっか適当な場所異世界へ。


 俺は、イラシュトリアの両腕をつかんだまま、二人の足下にポータルを出して、その下へと落ちていった。


「ハルキ?」

「心配しないで。すぐ戻るから」


 んで、やってきたのは、なんか宇宙空間ぽい背景に、ぽつんと小さな白い平面だけがある、壮大で寂しげな場所。

 うん。脳裏に浮かんだイメージは、神様用の監獄?


 両腕を捕まれても平然としてたイラシュトリアだけど、この異世界というか空間に現出してからは、顔色が真っ青というか真っ白になって震えていた。


「だ、だめじゃだめじゃここだけは!すぐに戻るのじゃー!?」


 とかわめいてたけど、ぺいっと、白い平面に向けて放り投げると、すぐに平面から白い鎖と足かせが現れてイラシュトリアの両足を拘束した。


「なんでもするっ!なんでもするからここから助けるのじゃ、連れて戻るのじゃーーーっ!!!」


 とまさに悲鳴を上げてたところに、やんごとなき荘厳な雰囲気のポータルめいたものがいくつも出現していた。そこからどんな方々が現れようとしているのか、ヘルプ機能さんに聞かないでもわかったので、俺はさっさと自分用のポータルを開いて、


「がんばれ?」


 と無責任な声だけかけて戻り、ポータルを両方閉じた。


<当面、あの相手を気にする必要は無いでしょう。被害者の会の神々から、それぞれお礼の申し出を受けていますが、どうされますか?>


「ヒデキっ!何にもされなかった?大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。何かされてたら、真っ先にセリカとの縁なんて断ち切られてただろうし」

「それもそうね。で、あの運命の神様はどこに連れて行かれたの?」

「神様を閉じこめられる留置場っていうか牢屋みたいな場所。いままでいたずらされて苦い思いさせられた神様達にこれから折檻おしおきされるみたいだよ?」

「自業自得ね」

「で、そんな神様達から、お礼の申し出があるらしいんだけど、何か欲しいものある?」

「・・・・それは、当然、ハルキのミッションからの解放に決まってるでしょう?!」


――だそうだけど?


<残念ながら。それ以外の選択肢でお願いします>


――方々の神様からの申し出でも解けないって、どんなお役目罰ゲームなんだかね・・・


<非開示情報なので。申し訳ありませんね>


「それは無理みたい。他にある?」

「他って、それより他に大事なものなんて無いのに!」

「絶対だってさ。理由も教えてもらえない」

「ん~~~。そしたら、ハルキとの間の、子供、とか?」

「それはもうしばらくの間我慢しようよ。自然に授かったのならともかく、身重だと一緒に動いて回れなくなるぞ?」

「うーー、それは、確かにそうかもだけど」


 まぁ、それで思いついた願いめいたものはあった。


――あのさ、今まで行った世界とか場所には、自由にポータル開けるようにしてもらえる?


<許容範囲と認めましょう>


――やった!それじゃ、もし今回喜んでくれた神様達が許してくれればだけど、その神様達の世界にもポータル開ける?


<打診してみましょう。許して下さる神も少なくないでしょうね。あまりいたずらが過ぎなければ、閉ざされる事も無いでしょう>


――そこは気を付けるよ。あ、元の世界には?


<まだ、ダメです>


――了解


「セリカ、とりあえずだけど、今まで行った世界、俺の元の世界は除いてだけど、に自由にポータル開けるようになったみたい。あと、今回お世話した形になった神様の世界にもだけど。だから、セリカが望むのなら、里帰りも出来るよ?」


 セリカは、見えない何かに頭を殴られたようにぐらりと揺らいだけど、俺にしがみついてきた。


「それ、ほんと?」

「嘘ついてどうする?何なら、あのドゴンザー一家のつぶした屋敷にでもすぐ戻ってみる?」


 セリカが迷った末に、こくりとうなずいたので、俺はポータルを開いた。縁取りは、紫色になっていた。


――これは?


<一つで行き来出来る特別製です。異世界との行き来にはこのポータルで行って下さい。残置する必要もありません>


 俺はセリカと出会った場所に、セリカの手を引いて再度訪れた。何度かポータルに出入りして、移った先からも火山地下室へ戻れるポータルを開ける事を確認してから、改めてポータルを消して、セリカに尋ねた。


「んじゃ、とりあえず里帰りしておく?セリカが俺の両親に挨拶したなら、俺もしておかないとだし?」


 セリカはうれしそうに微笑んで俺の腕に抱きつき、頬にキスしてくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る