第43話 二度目の里帰り その2 ヘルプ機能さんの例え話
美佳に事情を話す時に、もちろん、ヘルプ機能さんに尋ねた。どこまで話していいのかって。
そしたらなんと、
<お任せします>
という返答だった。両親に対する説明でも、同じだった。
ただし、という条件は付けられた。
<能力を見せるのも、あちこち連れ回すのも全ての事情を話すのもかまいません。最終的な帳尻はこちらで合わせられますし、細かな調整は私の方で行います。あなたはただ、きちんとあなたのご両親やこの美佳さんに約束させ、可能な限り守らせて下さい。そして守れないようなら、あなたが彼らの、あなたの秘密に関する記憶を飛ばすなりして、あなたと彼らの身を守って下さい>
そして、全て話して、見せて、連れ回したりして、何とか、両親は説得した。出来た、と思う。母さんは放心状態だったけれど、最悪、関連した記憶を飛ばすからと父さんには告げて納得してもらった。
問題は、美佳だった。
美佳は、俺の事が、気になってた以上の、好き、だったらしい。セリカ達が現れて、それで急に意識せざるを得なくなったとか、そんな感じかも知れないけれど、セリカ達と別れて自分と付き合ってくれとか言ってきて、無理だと断ると、
「じゃあ、私もセリカさん達と同じ様にしてよ」
そう言って、迫ってきた。
場所は、火山中腹地下室。リビングに二人きりで、ソファに並んで座っていた俺に、しなだれかかってきた。
「ちょっ、お前、
「春樹。私の事、嫌い?」
「いや、嫌いじゃないって」
「オウレアさんやイムジェリアさんの事だって、たいして好きでもないのに、そういう事したんでしょ?だったら、私とだって、いいじゃないの?」
そうして、羽織っていたカーディガンを脱ぎ、シャツのボタンを上からぷちぷちと外し・・・って、手を押さえて止めた。
「どうして、止めるの?」
「落ち着け。冷静になれって」
「無理だよ。春樹が私の立場なら、落ち着けるの?冷静になれるの?私、ずっと、春樹の事、気になってたんだよ?バレンタインのだって義理だって言ったけど、本当は」
「だとしても、義理だって言われて受け取ったし、告白みたいのも無かったじゃん」
「だとしても、私は春樹の事が気になってたの!この鈍感!」
「鈍感って言われてもなぁ。一人で先走って誤解して自爆するとか、したくなかったし」
「春樹が告白してくれてたら、私絶対に断ってなかった。春樹は、どうなの?」
「お前に告白されてたとしたら、断ってなかった、かもな。だけどそれはもう、歴史のIFって奴だろ」
「もうセリカさん達と別れられなくなってるのは、わかった。私も受け入れる。だから春樹も、私を受け入れてよ!」
「だから俺は、明日をも知れない身なんだって!」
「私は、かまわない。だって、春樹をあきらめるよりもマシだもの!春樹が、好きなんだから!」
そして美佳が間合いを詰めて、唇を重ねてきた。
そこで、ヘルプ機能さんから声がかかった。
<ハルキ、時間を止めて下さい>
俺はおとなしく従った。自分でも、どうしたいのか考えたかったから。
<少々、例え話をしましょう>
――それ、今じゃないとダメなのか?
<はい。あなたもたぶん聞きたがっていた情報でしょうから>
――今まで非開示とかってされてた情報か?
<かも知れませんね。あくまで、例え話としてお聞き下さい>
――なんで例え話としてじゃないとダメなんだ
<聞けばわかりますが、説明はできません。この問答を続ける間にもコストは嵩みますが、聞きますか、聞きませんか?聞かないのなら、時間停止を解除して、成り行きに任せるのが良いでしょう>
――わかった。聞くから、例え話とやらをしてくれ。
<では、お話しします。
あなたはかつて問いましたね?
なぜあなただったのか?
あなたでなければならなかったのか?>
確かにそんな問いかけをした覚えはあった。
<彼女は、芹沢美佳は、自分でも気付かない内に、自覚していた以上に、あなたに惹かれていました>
そうみたいだったな。全然気付かなかったけど。
<もしあなたがこの春休みにミッションに巻き込まれていなかった場合、あなたは何度か彼女と出会い、この最終日に彼女からちょっと一緒に出かけるよう誘われ、そこで何となく良い雰囲気になった時、もし明日同じクラスになっててもなってなくても、付き合わないかと提案されます>
おい、まさか・・・。
<あなたはすぐに応える事は出来ず、翌日返事をするからと伝え、その翌朝。彼女は一緒に登校するのを避ける為か、いつもより早く出て、気もそぞろだった為か、途中の信号がまだ青になりきらない内に歩道を渡り始め、信号が切り替わる前にと突っ込んできていた車に跳ねられて、死亡しました>
・・・・・・・
<あなたは当然、後悔しました。あなたが春休み中に出歩いて、彼女に合わなければ。春休みの最終日にあんな会話を交わして、回答を保留しなければ、たぶんあんな悲劇は起こらなかったのではないかと>
・・・これは、本当に、例え話なのか??
<そしてあなたは願いました。自分はどうなっても構わない。神でも仏でも悪魔でも誰でもいい。誰かどうにかしてくれ。俺は、彼女を助ける為なら、何でもする、と>
・・・本当の、話なのか?
<あなたに確認する術はありません。アマラに見せたような当時の映像を見せたとしても、それが本当に起きた事なのかどうか、あなたに判別はつかない。記憶や感情にしても同じです。それが与えられたものかどうか、あなたはすでにその情報を失っているから>
――今日、ここで、美佳の思いに応えなかったらどうなる?応えたらどうなるんだ?
<これらはあくまでも例え話です。その延長線上で答えるのであれば、あなたがその答えを知る事はありません。時間停止を解除して、どちらかの選択肢を選ばない限り>
――でも、原点回帰のスキルを使えば
<絶対に、お勧めしません>
――なぜだ?
<あなたが自分の選択肢を信じられなくなるからです>
――どういう事だ?
<あなたが彼女の思いに応えるのは、そうせざるを得なかったから、という事になりませんか?>
あ・・・・
<帝国皇女や竜人族の姫達は、そういった存在で、だからこそあなたも割り切れた。だけど、あなたは、芹沢美佳に対して、そう、割り切れますか?>
――でも、死んでしまうかも知れないのなら
<あなたがどちらを選ぼうと、彼女が明日死ぬ事はすでに回避されている、としたら、どうしますか?>
――それは、本当の話、なのか?
<繰り返しますが、あなたに確認する術はありません。かつ、例え話の延長線上としてお話しするのであれば、それはきっと、あなたがそういう状況を構築するよう選んだからでしょうね>
――俺が?どうして?
<例え話の中では、あなたの目的が、彼女を助ける事だったから、ですよ。でも、そうですね。あなたが彼女の思いを受け入れない事を選び、明日でなくとも数年後なり数十年後なりに不慮の死を遂げた場合でも、あなたは結局あなたの選択肢を後悔する>
――じゃあ
<逆に、受け入れた場合、あなたはこう考えるでしょう。こうしなければならなかった。こうしなければ、彼女は死んでいたかも知れなかった。だから自分は、彼女の思いを受け入れるしかなかった。でもその場合、あなたは本当に彼女の思いを受け入れた事に、なるのでしょうか?>
・・・わからない。
<これも例え話として。あなたが問いかけられた、ミッションがいつまで続くのか、ですが、あなたが運命を変えて助けた命が、その寿命を遂げるまでの年数が答えになるのかも、知れません>
――途中で失敗した場合は、どうなるんだ?
<さあ?ご想像にお任せします>
――答えろよ!
<一般常識的に、あなたの世界でも、支払いが滞れば、支払いの対価となっていたサービスは止められますよね?>
――そういうことか・・・
<選択するのは、あなたです。さて、一度に止められる時間停止の限界もそろそろ近いのでは?心は決まりましたか?私から最後にアドバイスできるとしたら、心は、あなたのものです。あなた自身がその心に従って判断を下す事でしか、あなたの本当の後悔は拭えません。それでは、あなたが時間停止を解除して、選択肢を選ぶまで、私は質問の受付等を停止します>
ありがとう。
そう心の中で言ったけど、ヘルプ機能さんの応答は無かった。例え話が本当かどうかは、わからなかった。
例え話を例え話としてでも、美佳に伝える事は、止めておいた方がいいなと思えた。
なんでかって?例えば、そういう話をした後で、彼女が信じて、そういう関係になったとしよう。でもそれは、互いの感情が故ではなくて、そうしないと死んでしまうからとか、それもそうなるかどうかわからない未来のあやふやな情報を元に脅迫して選択させているのと、何も、変わらないから。
例え話をして、彼女が信じなくて、そういう関係にならずに、彼女か明日か、そうでなくても未来のどこかで死んでしまった場合でも、自分で因果関係を確認する事は実際的に、不可能だ。
もちろん、何かまずい事態に陥った場合、最後に設定した原点に回帰した時点、この休暇開始の一時間前にまで戻ってやり直す事は有効な措置と言えるけど、休暇明けでミッションに戻る際には、どうしても、原点は再設定せざるを得ないし、その原点はミッションをクリアするごとに更新されていく。
そして、未来のどこかの時点で、美佳を見捨てなければならないポイントは出てくる。自分か美佳かでなくても、例えばセリカか美佳かどちらかを選ばなくてはならなくなった時、今の俺は、必ず、セリカを選ぶし、彼女と添い遂げられなくなった自分をやり直すからだ。
だから、俺の心は決まった。
時間停止を解除して、美佳の両肩をつかみ、体を引き離した。
途端に、また美佳の瞳の端に涙が溜まっていく。
「ごめん、美佳。もしそういう関係になるとしても、俺は絶対に、セリカを見捨てない。彼女と添い遂げると誓ったから。原点回帰のスキルもその為だけに再設定し続ける。いつか、ミッションから解放されるまで、だ」
「私じゃ、ダメなの?私の方が先に春樹を好きになったのに」
「俺は、美佳の事は嫌いじゃなかったし、たぶん、美佳が俺の事を気になってたのと同じくらいには、美佳の事を気になってたかも知れない。それでもはっきりと好きになったのは、セリカだったんだ」
「やだ。そんなの、いやだよう・・・」
ここで、ヘルプ機能さんから聞いた例え話をする事を、心の片隅をよぎったけれど、その思いは振り切った。
だけど、一つの可能性だけは潰しておかないといけなかった。
「それでも、どうしても、お前が俺をあきらめられない、そういう関係になりたいって言うなら、一つだけ条件がある」
「何?どんな条件でもいいよ?」
「明日、学校に行くな。始業式を休め。外に、出るな」
「え、それって・・・?」
何かを勘違いしただろう美佳の顔が真っ赤になった。
「え、と・・・。もし春樹がそうしたいのなら、私も、そうしても、いいけど・・・?」
「ダメだ。ここで、そういう事をしたら、ちゃんとお前の家に送る。ご両親が心配する前の時間には送り届ける」
「・・・それっきりでお別れにならないなら、春樹の言う事を聞く。秘密も守るよ。だから」
「わかってる。俺も約束を守るよ」
そう言って俺は美佳を抱きしめた。
うん。心臓の鼓動の速度が、互いにどんどん速まるのを感じると、たぶん、俺も、美佳の事は、意識してるって以上の存在だったんだろうなと思えた。
美佳は俺に抱きしめられたまま、上目遣いで、お願いしてきた。
「そういう時は、嘘でもいいから、好きだよ、美佳、て言うんだよ?」
「・・・好きだよ、美」
佳まで言い切る前に、唇で唇を塞がれて、ソファに押し倒されて、そのまま―――――
美佳の気の済むまで致した後に、家まで送り届けた後は、タクシーで、セリカ達を泊まらせた高級ホテルのロイヤルスイートとやらというほぼ最上階の一室というかフロア全体貸し切り?みたいな部屋に移動した。
あの三人には帽子とサングラス着用した上で別途移動してもらったけど、それでもどこのモデルさん達だ!?と騒ぎになったに違いない。
俺は俺で、父さんの名前で取ってもらった別室でチェックイン。エレベーターで彼女達の部屋へと移動。ほぼ偶然を装う感じでオウレア達と合流して専用エレベーターでね。
もちろん、彼女たちは偽造パスポートでチェックインしました。交換所便利だね!って事で一つ。
部屋でセリカに抱き留められるように迎えられた俺は、彼女を抱きしめて、一言つぶやいた。疲れた、と。
セリカは俺を抱きしめ返して、お疲れ様と言って、頬にキスしてくれた。
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