第25話 勇者とその王国の討滅戦 その4 狙うべきは?

 このミッションを達成する道筋としては、大きく分けて二通りあった。

 最初に本尊を落としてから、周囲を時間をかけて平定していくか、またはその逆か。

 最初に本尊を落とせれば、一番苦労は少なくて済む。ただし、殺せなかった場合、警戒はとても厳しくなり、最悪は次の機会を得られないまま時間切れを迎える可能性すらあった。

 だから最初は、勇者の国の首都からあえて離れ、いくつかの実験を、満足な結果を得られるまで重ねた。


 一つ目は、国に対する忠誠心というか、所属意識を外せるかどうか。

 中世的なファンタジー国家だから、人頭税みたいな手段で全国民を管理してないと、国側から国民の身分証明の何かを与えられて国民になっているわけじゃない。大雑把に、それぞれの町や村の民として数えられてるだけ。

 じゃあどうやってそれぞれの所属意識が成立してるかっていうと、誰の領地に住んでいるかと、その領主がさらに誰に仕えているかの二点。その領主が最終的にはどこかの国の王様や皇帝だったりするわけで、それが勇者の国の場合は、勇者が王様の地位に居たりする。

 つまり、勇者の国の国民を減らすには、勇者を王として認める領主を減らしていくか、そう認識している民を減らせば良くて、それぞれ領主や民を殺す必要は特に無い。問題は、彼らの認識だけだから。

 まぁ、勇者を王として認めないと認識させても、攻められたりしたら元に戻ってしまうかも知れないので、そこはケアが必要だけどね。


 辺境のいくつかの村や町、砦や城の領主や親族やその配下の兵士達を実験台に選び、経過も観察して問題無い事を確認したら急いで首都へ戻った。

 実験に一週間、さらなる実験と経過観察で一週間近くを使い、最初の一ヶ月の残りさらに一週間を使い、首都ハイジマシティー内で障害になりそうな標的の心の中にある何かをひたすらに飛ばポータルし続けた。


 何かって?

 ただの村人や町人であれば、勇者を恐れ敬う心。

 領主や兵士であれば、勇者の国へ帰属する心も。

 勇者のパーティーの仲間であれば、勇者を信頼する心。

 勇者の妻や側室や愛人や恋人の類であれば、勇者を愛する心。


 とか最初は使い分けてたり重ねてたりしたんだけど、勇者に・・・対する・・・関心や・・・心情の・・・一切・・、で省略する事にして、だいぶ効率は上がった。


「悪逆非道だにゃ」


 ニャロスから文句をつけられたけど、


「誰も殺さず、誰も傷つけずに終わらせるなら、この方法しかないって、何度も試行錯誤しながら話し合いつつ決めたじゃないか」


 そう言い返したのに、


「そうにゃけど、ひどい事してるのは変わらないにゃ」


 と不満顔を隠そうともしなかった。

 て、元死刑囚の脱走犯だし、ゼオルゲルさんコレクションの、認識阻害や存在検知妨害の魔道具をいくつか身に付けていて、顔や気配などからニャロスだと認識出来る相手はいない筈だった。(魔道具所有者である自分とその眷属扱いのセリカを除いて)


 とはいえ、最初の期限の一ヶ月の残りも4日。この夜までに首都内の主立った重鎮の処置を終え、城内の衛兵や監視の要にいそうな魔法使い達を。続けて夕餉の後、早々と就寝した勇者の仲間達を。


 一番最後が、今宵勇者ヒデキとしとねを共にするハーレムの美女達。

 ここ数晩監視してたけど、連日連夜少なくて三から五人、多くて十人以上を相手にしてた。そりゃ百人越えてるなら三人ずつ相手だと一ヶ月以上間が空いてしまうのはわかるけど、もろR18な世界がげふんげふん、という感じで、まぁ一番無防備な瞬間を狙いましたとさ。


 最初に何を飛ばすかが一番重要だった。

 魔王からの呪い祝福か。

 勇者としての能力か。

 前世の世界への執着か。

 前世の記憶そのものか。


 ヒントは、ミッションの標的表示だった。

 標的は、勇者ヒデキ。

 つまり、標的が勇者でなくなっても、ヒデキでなくなっても、どちらでも勇者ヒデキという存在は殺される=死を迎える。体が生きていようと、それはもはやどちらでもないか、どちらかではない存在となる。


 ヘルプ機能さんやセリカやニャロス達とも相談や議論を重ねてたどり着いた結論は――――― 

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