第24話 勇者とその王国の討滅戦 その3 クリア条件と注意点
「知り合いっちゃ知り合いかな。ニャロスじゃないけど、ご近所に住んでた兄ちゃんて感じの」
ニャロスを助けた広場の中央には、たぶん勇者のものだと思われる銅像が立てられてた。死に別れた時から何年も経ってるし、あちらは別人に転生してるけど、ヒデ兄の雰囲気は何となく感じられた。
「そうなんだ。殺せるの?そんな相手を」
「かつての姿そのままだったり、幸せな家庭築いててとかだったら無理かも知れなかったけど、状況的にそうじゃないらしいし、当人も殺してほしいらしいからな。でも、ポータルで分断しても生きてたらどうしよ」
「元の世界に連れて帰ってあげられたら、それで済むんじゃないの?」
<それは不可能です>
「不可能だってよ。ヘルプ機能さんが即答してくれた」
「どうして?」
<このミッションをクリアしない限り、次のミッションへの転移は無く、その間にハルキの元の世界へのポータルは開かないからです>
俺は一言一句そのままをセリカに伝えた。
――でもさ、殺せるの?死なないんでしょ?
<あなた次第です>
悩んでると、やはり隣で考え込んでいたセリカが言った。
「死んだ事にして、ポータルに入れていずれ持ち帰ってあげるっていうのは?」
「仮死状態が殺したって認められる可能性は」
<無いです>
「無いってさ」
「じゃあ、例えばだけど、首から上と下に分断した状態でポータルに入れるとかは?普通なら死んでる状態だし、運が良ければ元の世界に戻った時に元通りになるんじゃない?」
「・・・」
俺はヘルプ機能さんからの即レスが無い事を確認してから言った。
「ヒデ兄は、いったん、死んだ人なんだよ。元の世界ではな。だから、別人の姿になって生まれ変わって戻ってきたなんて言っても、その家族に受け入れられるかっていうと、たぶん無理だろ。家族に受け入れてもらえないのに、無理して戻る必要性なんてあるのか?俺もこんな状況にいるし、ずっと面倒見るなんて無理だぞ?何度も言ってるけど、俺まだあっちの社会じゃ子供扱いなんだし」
「ハルキが言いたい事もわかるわ。私みたいのでも故郷に戻ってもろくに歓迎されないかも知れないしね。じゃあ後は、ハルキがどうしたいかだけだと思うな」
「いったん会って、話してみて、本当にヒデ兄かどうかは確かめてみたい気もする。だけど俺のスキル的には、警戒されてない状態からの不意打ちが一番効果的だし、それで殺せない事を確かめてからでも遅くない気もする」
「いったん殺そうとしたら話し合いなんて普通は無理なんじゃないの?」
「死にたがってるんだろ?なら話は変わる。ニャロスから事情を聞いた事にすればいいし」
ラノベ的には、死なない相手の不死属性を外せば何とかなる場合もある。今回の場合なら、魔王の呪いを外すかどうにかすれば、かな。
あとは勇者を片付けられたとして、国を崩壊する手立てをどうするか、か。
――勇者の国を崩壊させるってさ、どうせ殺すだけじゃ終わらないんだとして、何か具体的な達成値とかあるのか?国民の数が半分以下に減ったとか敵国に攻め滅ぼされたとか一定数以上の都市を占領されたらとか、そういうのある?
<達成条件はいくつかあります。お好きな物をお選び下さい。
・全国民の殺戮
・勇者を倒した後、王を僭称し、国民投票で選ばれて正式な王として即位する
・過半の国民か
――全国民の殺戮って・・・。ここの人達を放っておくと世界を滅ぼしちゃうの?それなのに王様になれば全員そのままでもいいとおかしくない?それに俺ここに残れるの?
<勇者とその国民が存在し続ける限り、永続的に拡大継続する呪いがかけられているとでも思って下さい。その呪いはやがて世界の垣根を越えて、他の世界にも影響を及ぼしていくでしょう>
――その呪いを解除するには、勇者を殺した上で、俺が王になるか、この国を無くすか成り立たなくすればいいのか?国全体を崩壊させても、誰か一人でも国民のままで残ってたらどうなるんだ?そもそもの話、何万人だか何十万人いるんだか知らないけど、そんな数殺して回りたくないぞ?
<おや、物理的には単純ですよ。火山でセリカが使った魔法。あれを勇者の国の都市や町や村に使っていけばあっという間に終わるでしょう>
――そりゃ、やれって頼んだり、渋っても命令すればやってくれるかも知れないけど、悪者でもない人達をそんな風に虐殺したくないんだって!
<やれやれ。ではあなたが王様になるしかありませんね。ちなみにここで王様になったら、基本的に残れますよ。セリカも一緒に。時折ミッションに出張してもらう必要はありますが>
――俺が死なない筈の勇者を殺して次の王様になったら、俺が次の感染源みたいになるんじゃないのか?
<ふむ、その視点は慧眼ですよ。被験者。あなたが勇者に対して試そうとしている事を実行すれば、そうなる可能性はあります>
――それが絶対じゃないのは?
<あなたが勇者その他の誰かに殺される可能性もあるからです>
――魔王の呪いとやらを
<特に勇者の持つスキルは凶悪です。あなたのスキルでも完全に封じ込めるのはむずかしく、身体的に生きてはいても次元の狭間なんてところに放り込まれたくはないでしょう?>
――でも、俺のスキルなら戻れるんじゃないの?
<もし無事でいられたら、でしょうね>
ふむ、としばし考え込んで、考えて、ギルマスやゼオルゲルの経験や知識なんかも総動員して検討し続けて、一つの質問が浮かんだ。
――つまり、さ。勇者の国が無くなって、国民が一人もいなくなれば条件は満たせるんだな?
<はい。最低条件として、勇者ヒデキが
「おっけ、セリカ。なんとかなると思う。いったん戻って、ニャロスと戦略を練ろう」
俺はヘルプ機能さんと話した内容をセリカとも共有し、ニャロスからハイジマシティーやヒデキ城(ふざけた名前だ)、勇者パーティー(全部で7つもあり、親衛隊扱いらしいけど、衛兵はまた別にいるようだ)のメンバー構成やスキル、必要になりそうな情報は何でも思いつくまま根ほり葉ほり尋ねつつ、今回のミッションで一番
戻り方?
ゼオルゲル倒した時のボーナスと、休暇の間の訓練で、レベル40にまで上がってて、その特典でいったん設置した後でも、ポータルのサイズを変えられるようになっていた。
しょぼい?いやいや。そんな事は無い。
例えば、今だと1/10ミリ単位の大きさでポータル出せるのだけど、素で直径4メートル、480秒の持続時間が、1/2の大きさなら960秒、1/10なら4800秒、1/100なら48000秒、1/10000の0.4ミリなら4800000秒。電卓で計算すると、8万分。約1333時間で、約55.5日。今だと0.1ミリの大きさのポータルは苦もなく出せるので、さらにその4倍は軽い。
出入りする時だけ必要な大きさに戻せば、維持にも負荷はかからないし張り直しも必要無い。
大きさを可変できるポータルを、自在に動かせるんだよ?しかも、赤とセットにした青なら、視野も確保しながら?んでもって、40に上がった事で、同時に出せるのも4組まで増えてる。緊急避難用に一組は取っておかないといけないけど、数キロから最大数十キロの彼方から、偵察もポータルの設置まで自在に出来るようになった。
ていうか、これが出来るようになってなかったら、今回のミッションは完全に無理ゲーだったと思ってる。
うん。自己鍛錬は、自分を裏切らない。覚えておこう。(自分向けに言ってるのであしからず)
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