第23話 勇者とその王国の討滅戦 その2 事情聴取
しばし呆然としていた猫獣人、ニャロス・トラストは、周囲を見回すと俺やセリカから距離を置こうとした。が、両手両足が拘束されていたことを忘れていたらしく、つんのめって床に倒れた。
「慌てなくていい。少なくとも、俺達は敵じゃない筈だ」
嘘かも知れないが、とりあえず信用してもらわないと話が進まない。
ニャロスは床から起き上がり、座った姿勢のまま後ずさりした。まぁ狭い部屋だからすぐに壁で詰まるんだけど。
「おまえ達、いったい何者にゃ?」
「あの町にふらっと立ち寄ったら処刑されそうになってた誰かさんを見かけて、ふらっと助けてみた奇特な誰か?」
「何にゃ、そのてきとーな物言いは?」
「そっちこそ、助けてもらってお礼の一つも無しか?」
「元より死ぬ覚悟は出来てたにゃ。でもお礼は言っておくにゃ。ありがとうにゃ」
「で、どうして、勇者を殺そうとしておいて、助けてあげてほしいなんて言ったんだ?」
ニャロスは返答に詰まった。
「複数あるパーティーの一員で、大勢の側室の中の一人だから、勇者に特別に近しい地位にいたかっていうと微妙そうだけどさ。どうしてそんな奴が、勇者を殺して助けようとするんだ?」
「そ、それは・・・」
強情そうなニャロスは口をつぐんでしまったが、その腹の虫がぎゅうううっと鳴き声を上げたので、俺は交換所から、日本の高級キャットフード缶を購入し、プルトップを開けてニャロスの前に置いてみた。
「毒は入ってないぞ?そんなつもりなら助けもしないし」
見れば顔を背けようとしつつも視線はがっつりと猫缶に釘付けで、閉じた口の合間から涎がこぼれ落ちていた。
俺はニャロスに歩み寄り、警戒されたが、両手を背後で拘束していた拘束具を収納して解放し、その手にスプーンを持たせた。
「とりあえず食べるといいよ。食ってからでも話はできるし」
さっきのとは食材が違うらしいバリエーションの猫缶をいくつか買って蓋を開け、ニャロスの目の前に置いてみた。
両足を拘束してる鎖はまだそのままだったので逃げ出す心配はしてなかったが、地上への出口と猫缶の間を視線を迷わせていたニャロスは、ついに猫缶の一つを手に取ると、鼻先を埋め込むような勢いで、一つ、また一つと空にしていった。
合間でペットボトルの水を脇においてやると、それで喉に詰まりそうになったキャットフードを飲み下した。
「ごちそうさまにゃ。美味しかったにゃ・・・」
名残惜しそうな目で空になった缶を見つめるニャロスの前に、俺はとりあえず10個くらい追加の缶を積み重ねてみた。
「そろそろ話をしてもらえるか?お前が、勇者を殺すことが助けになるっていうのなら、俺達が力になれるかも知れない。だから先ずお前が知ってる事情を教えろ」
「・・・・・わかったにゃ。教えるにゃ」
で、末尾にいちいち「にゃ」がつく話を要約するとこうなる。
勇者ヒデキが頭角を顕したのは、およそ六年前。十一歳のヒデキは勇者として認められる為に、難関とされる試練の洞窟に単身で挑み踏破。その後仲間を揃えつつ、魔王軍に戦いを挑み、連戦連勝。
さらに仲間を増やし力もつけ、魔王城にまで攻め込んで魔王を討ち滅ぼしたのが五年前。
魔族をさらに減らしつつ凱旋。したのだが、魔王を倒せば元の世界(転移ではなく転生なのに??)に戻してもらえるという約束を破ったと訴え、共犯者の王侯貴族の大半も討伐しクーデターを成功させ、王座にもついた。
彼はこの世界で生まれ育ったので、「元の世界」と言われても彼の仲間ですら何の事か分からなかったのだが、「ここは俺のいるべき場所じゃない」とか「俺は無理矢理連れて来られたんだ!」とか訴えてたらしい。しかも王様とか取り巻きにもその自覚はあったぽい?じゃないとクーデターなんて成功しないと思うんだが。
ふーむ、鍵はそこら辺にあるぽいな。
にしても、こちらに移されてきたタイミングまで合致してるとなると、もうこれはビンゴかな・・・
「ニャロス、ヒデキが頭角を顕し始める前って、平凡な奴だったのか?」
「病弱だったにゃ。不治の病を煩ってて、十歳くらいまで生きられるかどうか、ってその頃、本当に、死にかけてたにゃ・・・」
「ニャロスはその頃からの知り合いだったのか?」
「お隣さんじゃにゃいけど、ご近所さんで幼なじみだったにゃ。だから、いよいよ危ないって言われてみんなで集まって、とうとう・・・死んでしまってみんな悲しんでたら、生き返ったにゃ」
なんだそりゃ。
ラノベ展開的には時々あるパターンって言えばパターンだけど。
つまりあのヒデ兄は、あの直後に・・・。
「んで生き返ったと思ったら、別人の様になったのか?」
「そうだにゃ。ちゃんとみんなの事も覚えてたから、生き返って病気に打ち勝った事をとにかくみんなが喜んだにゃ。今じゃそこも伝説の一部とされてるけど、中身は、別人になってたと思うにゃ」
「どうしてそう言える?」
「時々他の誰にも分からない言葉をつぶやいてたり、ほとんど寝たきりで家や町の外の事なんてろくに知らなかったのに、遠い異国の事を頻繁に話題に出したり。そういうのも神様から天啓を授かった事にされたけど、性格は完全に別人になったにゃ」
「生き返る前は誰かと戦うなんて考えもしなかったような性格なのに、生き返ってからは好戦的になったとか?」
「そうだにゃ。それどころか、勇者になってからは名前すら変えてしまったにゃ」
「マジかよ。この世界で、自分の名前を変えるなんて普通にある事なのか?」
「無いわけじゃにゃいけど、滅多に無いにゃ。お尋ね者とかが素性隠すとかにゃらともかく」
「本当の自分の名前はこっちだったとか言ってたか?」
「ど、どうして分かるにゃ?」
「なんとなくな理由だよ。説明は難しいし長くかかるだろうから後回しだ。それで、お前はどうして勇者を殺そうとした?どうして殺す事が助ける事につながると考えた?」
「・・・これは、勇者の仲間でも一部しか知らにゃい秘密にゃけど、ヒデキが魔王を倒した時に、死ねなくなる呪いを受けたにゃ」
「呪いっていうか祝福かも知れないけどなそれ」
「ヒデキは、死ねば元の世界に戻れるかも知れないって思ってたから、魔王の呪いは最高の嫌がらせだったにゃ。ヒデキの力は次元に断裂を作る防御不可能な攻撃で相手を切断したり消滅させたりするものだけど、元の世界へつなげる事はどうしても出来ないみたいにゃ。そういう目的で与えられた力じゃにゃいとかなんとか言ってたにゃ」
「んで、王侯貴族とかの話はどう絡んで来るんだ?」
「生きてる勇者をこの世界に呼び寄せるのは、とっても難しいらしいにゃ。だから、魂だけの状態になった勇者ににゃれる誰かを召還したらしいにゃ」
「それが、世界のどこかで死にかけてる誰かの体の宿れば、勇者様の出来上がりか。なるほどな~。でもそんな手段なら、確かに元の世界に戻すとかはもっとずっと難しそうだな」
「それでも、ヒデキはその為にがんばったにゃ。裏切られたから、裏切った相手を全員殺して、国を奪って、死ねなくなったからやらなくていいような事もやって、悪い事をし尽くせば、いつかきっと自分を殺せる誰かを、本物の神様か誰かが送り込んでくれるんじゃにゃいかと、そうつぶやいてたにゃ・・・・・」
だから、殺そうとした。殺して終わらせる事が、本人の望みを叶えて、無用な犠牲を増やさずに済む唯一の道だと信じて、か。
「だから、お前も見せしめで処刑されようとしてたのか?」
「見せしめで殺されてるのは、もっとたくさんいるにゃ。みんなで他の誰かを密告しないと、自分が殺されるかも知れないとびくびくしてるにゃ。そんなの、間違ってるにゃ!」
「話はだいたい分かった。とりあえずここで休んでてくれ。俺はセリカと外で少し話してくる」
「私も」
「いや、必要な事は後で伝えるから。少し、個人的な話も絡むんでな」
そしてニャロスと話してる間、ずっと沈黙を保っていたセリカを連れて、地下室への入り口が見えないくらいに離れると、当然の質問をされた。
「標的の勇者のヒデキって、あなたの知り合いなの?」
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