第22話 勇者とその王国の討滅戦 その1 どこか見覚えのある・・
転移した先は、町中だった。
それはいい。いいのだが・・・。
「なんか、ハルキの故郷に似てなくもない?ちょっぴりだけど」
「まぁ、勇者の出身地が似たような世界だったのかもな」
時代劇に出てくるような和風家屋があるかと思えば、現代日本の建て売り住宅みたいのから、ビルめいた長方形の建物までが、セリカと出会ったような中世から近世的欧州風町並みの中に混在していた。
――なあ、あれって、勇者の影響だよな?
<そうですね>
――つまり、ここが?
<はい、勇者の座す街、XX市です>
偶然と思いたかった。
ミッションの目標として視野に表示されている勇者の名前は、ヒデキ。今時の日本なら、数千から数万は居てもおかしくないほどありふれた名前だ。
だから、気にしないようにしていたし、ヘルプ機能さんにあえて問い質す事も避けていた。
だけど―――
行き交う人々の会話からセリカが町の名前を拾い上げて、俺に突きつけてくれた。
「へえ、ここって、ハイジマシティーっていう町なんだって。確か、ハルキの故郷も同じ名前じゃなかった?」
「ああ・・・」
「どうかしたの、ハルキ?なんか顔色悪いよ?」
「そこは、顔が悪いよっていうのがお約束なんだけどな」
「どうして私がそんな事を言わないといけないの?ハルキの顔は悪くないよ?私好きだよ?」
「ごめん、ありがと。単なる悪ふざけ、冗談だよ」
その後も表面上はセリカとだべりながら、町中に混入されたのであろう異物の建物にかけられた看板が目に留まった。そこに書かれた文字を読んで、全国どこにでもいる他人のヒデキじゃなくて、もしかしたら自分の知るヒデキかも知れない確率が、ぐんと上がった。
ここもセリカと出会った街の様に、亜人や獣人、さらには魔族めいた姿まで混じっているのだが、学ラン姿のドワーフ、チビTシャツとホットパンツ姿のエルフ、江戸時代の町人風装束のリザードマンとか、そんな人波に紛れながら、街中を練り歩き、さらに情報を集めていく。
「今日は、ハレの日だな」
「ああ、くわばらくわばら。関わり合いにはなりたくないもんだよ」
「おい、あまり迂闊な事言うなよ。誰が聞いてるかわかったもんじゃないのに」
「今日はどこで?」
「○○町でやるみたいだぜ」
それは自分が住んでた町の隣町の名前だった。
変に胸の動悸が高まるのを感じながら町の人々の表情を伺うと、笑顔もどことなくひきつってるように見えたし、互いが互いに怯えているかのようにも見えた。
「なんか、みんなぴりぴりしてる?」
「理由がありそうだけど、うかつに訊いたらダメそうだね。とりあえずこのまま何気なく向かってみようか」
「わかった」
――てわけで、隣町でやる何かってとこまでガイドよろしくね。
ヘルプ機能さんが無言で表示してくれた矢印に従って街路を進む。町の規模はたぶん故郷の市よりもずっと大きい。東京ほどとも思えないけど、歩いてても境や城壁が全然見えてこない。
ただし町の中心には白亜の城壁に囲まれた立派な日本風のお城が建っていて、違和感が半端無かった。どうせなら城壁も揃えて欲しかったけど何らかの事情があったのだろう。あまり知りたくもないけど。
セリカと二人して聞き耳を立てながら歩き、小声で情報交換しながら進み続けると、やがて見えてきたのは広場。町の中心部に設けられてて普段は屋台とかフリーマーケット状態になってるけど、何かイベントがある時はそこで行われるって場所。
広場の中心には櫓が組まれて、その周囲は西洋騎士風のたぶん衛兵さん達が固めていた。櫓の上に後ろ手に拘束されて
彼女の両脇に控えてるのは侍姿の戦士っていうのかなあれは。さらにお役人の姿は時代劇に出てくる裃。手にしてるのは羊皮紙の巻紙で、どこまでもここはちぐはぐだった。
「皆の者、静粛に。勇者ヒデキ様のお言葉を伝える」
その一言で、広場周囲に集まっていた数百人以上が完全に沈黙した。異常だった。その光景を当然のものとして受け取った役人は口上を続けた。
「この者、ニャロス・トラストは、ヒデキ様の第5パーティーの一員として引き立てられ、後には第103側室として迎えられるという厚遇を受けながら、ヒデキ様暗殺を企み、実行しようとしたがヒデキ様により防がれて失敗。今日ここで見せしめの為に処刑されることになったのである!」
いろいろ突っ込みどころはあったけど、現行犯逮捕かー。良くその場で殺されなかったよねーというか、そうしないだけの余裕があったからこそ捕まえられて公開処刑の生け贄にされたっぽい。
まだつらつらと壇上の役人は処刑されるニャロスの罪状を言い連ねてる間に、広場の端から中心部の櫓へとじりじりと近付いていった。
お役人の長々とした口上が止んで、ニャロスに問いかけた。
「最期に言い残すことは?」
彼女は広場を見渡すと、大声で叫んだ。
「誰か、ヒデキ様を助けてあげてにゃ!」
とたんに広場が罵倒の声で包まれた。
「何言ってやがんだ?手前が殺そうとしたんだろうが?!」
とかそんな類。
でも、それで自分の心は決まった。
広場の端に設置しておいた極小の青ポータルから周囲の屋台に出力を絞った炎の魔法で火をつけた。
途端に、群衆と衛兵の注意は広場の外側へと向く。
そこで櫓を囲む衛兵の足下や襟首や籠手なんかも別の青ポータルから次々に熱してあげて悲鳴を上げさせ、一気に櫓の下へ。
――ヘルプ機能さん、よろしく!
<仕方ありませんね>
頭上で示された円に沿って櫓の壇上の床を極小の青ポータルから放った熱線でくりぬく。すると、跪いたままの猫獣人ニャロスが落ちてきたので、着地点に煙玉を放ち、赤ポータルも展開。
彼女がポータルの向こう側へ消えたのに続いて、自分とセリカも飛び込んだら赤ポータルを閉じた。
転移した先は、あの火山の中腹の地下室。まさかこんなに早く避難場所を使うことになるとは思わなかったけど、勇者ヒデキを知る関係者を確保できたのは大きい。監視社会ぽかったし、下手な聞き込みを続けて目立つのも可能なら避けたかった。
まだ唖然として状況の変化についていけてない猫獣人の前に腰を落として、俺は挨拶した。
「こんにちは初めまして、あなたの命を救った者です。勇者ヒデキについて、知ってること全部教えてもらえませんか?」
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