第21話 束の間の里帰り その3 遊園地デートと、避難テスト

「どういう事?まさか、試すつもり?」

「もちろん。最期の保険として機能するかも知れないし」

「追いつめられても、違う世界の安全な場所にいつでも逃げられるって事?」

「そう。ただし、ミッションクリア後に設置した最期のポータルだけが残るのかどうか分からない」

「最悪の場合、避難場所から逃げられなくて詰む感じ?逃げ出したミッションがクリアできなくて間接的にでも殺されてしまうとか?」

「行き来できるポータルを設置できたとして、敵も追ってこれたら殺されちゃうかも知れないしね。とはいえ、試しておく価値はあると思う」

「試す価値があるのは認めるけど、危険過ぎない?」


 俺は、当然、ここで交わしている会話どころか思考も読まれていて逃げ場なんて無いという前提で、全てをセリカに打ち明けた。


「最初がゴブリン5匹。次は大蛇1に眷属の蛇百匹に魔狼1に眷属の狼33匹。次は街を支配して冒険者ギルドも抑え込んでしまってるマフィアの殲滅。次は炎竜てか龍神。いくら何でも難易度の上がり方がおかしいと思うし、この法則で言うと、ミッションの難易度が前回より下がる事は無い。だから、そろそろ、来ると思うんだ」

「何が?」

「天敵。俺のポータルというほとんど唯一の武器を封じてしまうだろう何かを持ち合わせてる相性最悪の相手。しかも勇者なら反則チートスキルを複数持ってて不思議じゃない。装備も技術も、そして国を支配してるっていうなら、味方なんて一人もいない場所に叩き込まれる。ま、セリカが味方なら、数万の敵でもものともしないかも知れないけど、勇者ってそういう理不尽の頂点に立つ存在として設定される事が多いから、セリカの全力の一撃もどうにかしてあっさり無効化されてしまう可能性がある。というか、高い。ものすごく」

「なんていうか、あなたがこんな境遇に陥ってなければ私も助けられてなかったから微妙なんだけど、とても底意地が悪い神様なのかもね。慈悲深い神様なのかも知れないけれど」

「で、自分のポータルって、時空系にたぶん分類される。そして勇者とかが持ち合わせてるだろうスキルの一つに心当たりがあるんだ。次元斬っていって、次元に断裂を引き起こすから防御不能。スキルの相性的に言って、あちらの攻撃を受け止めて返す事も可能かも知れないけど、ポータルが切られて機能しない可能性もあるし、切られたポータルは二度と復活しない可能性すらある」

「もし復活しなかったら、ほぼ完全に詰むでしょうね」

「ヘルプ機能さんていうか、自分をこんな境遇に落とし込んだ誰かさんの思惑次第なんだろうけどね」

「対策はあるの?」

「期間が長いからね。杞憂に終わる可能性もあるし、相手の能力を把握して何度か挑戦できるかも知れない」

「その再挑戦の為に、違う世界へ逃げられるかどうか試しておく必要があるのね。理解したわ。今から試す?」

「ううん、せっかくの休暇中なんだ。明日遊び倒して、余った時間を使うくらいでいいと思う。残るのならずっと残っててくれないと、いざとなった時に頼れないし」

「じゃあ、今夜は?」

「明日に向けた体力はきちんと残す事。明日を一日遊んで過ごして、次のミッションの世界に移ったら、いきなり修羅場が待ちかまえてる可能性もゼロじゃないし」

「わかった。善処するわ」

「何その検討する事を検討するみたいな」

「だって、次のミッションで二人とも死んでしまう可能性もあるのなら、今この瞬間は二度とやってこないのよ?なら、出来るだけ、今を二人で出来るだけ分かち合って魂に焼き付けておきましょう?」


 やばい。もう何度目か知らないけど、彼女に惚れた。そしてこの後、滅茶苦茶に(以下自粛)。


 翌日は、そうだな。人によって好みは分かれるだろうけど、異世界転移/転生で巡り会った理想の相手と、元の世界で理想のデートが出来たらどんな風になるか、想像してみてくれ。

 一地方にある寂れた感じの遊園地でも、セリカには刺激に満ちあふれたワンダーランド!コーヒーカップもメリーゴーランドもゴーカートも椅子に座って空中をぐるぐる回されるのもジェットコースターも、アトラクションは二周して、三周目に挑もうとするのをさすがに止めた。

 不満そうだったけど、最後にとっておいた観覧車に乗って、次のミッションに飛ばされるまで2時間切ったと伝えた。


「ここが、ハルキの生まれ育った街なのね」

「そうだよ」


 春の夕暮れにさしかかろうとしている町並みは、平穏そのものだった。


「ミッションは、ずっとは続かないのよね?」

「ヘルプ機能さんはそう言ってる。ただ、あといくつかは教えてもらえない」

「じゃあ、戻れるなら時々戻ってきて、息抜きしましょ?ショッピングていうのも、映画館でーとっていうのもしてみたいし」

「そうだね」

「それで、さ」

「ダメ。絶対」

「えー。絶対にいい思い出になるのに!」

「過去の思い出になって、二度と乗れなくなっちゃうからダメ。変なフラグも立てたくないし、ミッションクリアする度に戻ってこれたら記念に乗りに来ようよ。二人でまた次のミッションを乗り越えられるように」

「そして最後のミッションをクリアした後を二人でお祝いする為にね!」


 俺は、どんなフラグも立てたくなかったから、正面に座っていたセリカを抱き寄せてキスだけした。だけだからね!?

 その後観覧車が地上にまで降りて係員の人が扉を開けるまでどんな状態が続いたのかはご想像にお任せ。


 部屋までゆるゆると帰って、残り1時間半。

 

「じゃあ、始めるぞ?」

「うん。気を付けて」


 俺はセリカにうなずいてみせてから唱えた。

「ポータル」


 赤いポータルが壁面に現れ、その向こう側には、対炎竜戦の拠点とした地下室の様子が見えた。


――向こうに行って戻ってこれなくなるとか、ある?


<ありません。心配はご無用です>


――いつか行き来できるポータルを設置できるようになるってこの事?


 今までは、同じ様な質問をしても答えてもらえなかったのだ。先ずは休暇を楽しんで下さいとかはぐらかされて。


<ミッションをクリアする度、一カ所に設置できます>


――だから消えてなかったの?


<はい>


――じゃあこれは、今出し入れ出来る3組の中の一つとしては消費されないの?


 こちらに戻ってきてから、万が一にでも消さない為に、訓練はずっと赤ポータルだけで続けていた。


<いいえ。消費されます。つまり、あの固定ポータルを残置し続けるなら、あなたの使えるポータルの枠は、三組ではなく二組になると捉えるべきでしょう>


――緊急時に三枠目も使おうとするとどうなるの?確認メッセージとか出してくれる?


<確認メッセージは出せます。ただし三組目をあの場所へつなげるものと固定したとして、その赤ポータルで魔法その他を吸い込んだ場合、あの地下室にその吸い込んだ対象はそのまま吐き出されるのでご注意下さい>


――なるほど了解。あくまで緊急避難措置を確保する為に、一組を犠牲にする感じね。


<そうです>


 俺は部屋にあった何かに紐を結んでポータルの向こうに投げ入れ、それがあちらの部屋の床に落ちたので、紐をたぐり寄せて、そのまま手元に戻ってきたのを確認。

 外見上や中身的に影響を受けた様子は無かった。


 そして手だけ、足だけを差し入れてみて問題無いのを確認してから、体ごと飛び込んでみた。

 単純に、あの火山の中腹に刻んだ地下室に戻ってきていた。若干埃みたいのが溜まってるかなと思えたけど、自分にも特に異常は無く、元の部屋にも戻れた。

 赤ポータルだけを消して、また出して、時間を少し空けながら何度か同じ事を、セリカと一緒にとか、セリカだけとかでも試してみたけど、残置した青ポータルが消える事は無さそうだった。


――ちなみに、あの青ポータルをこの部屋に移す事は出来るのか?


<出来ません>


――んじゃ、今後の為に似たような機能のをこの部屋に設置できるようになるのか?


<まだ非開示の情報とだけ申し上げておきましょう>


――どうして?


<今後控えているミッションの内容から、今開示すべき情報ではないと判断されるからです>


――了解。ヘルプ機能さんがそう判断したんなら、信用するよ。


<信用して頂き、ありがとうございます>


 そして、ヘルプ機能さんと脳内対話した内容をセリカにも伝え、火山の地下室に物理的な貯蔵庫も作って、セリカだけが避難してきたとしてもしばらくの間は生活できるように物資などを蓄えたりすると、残り時間はほとんど無くなってきた。


 ヘルプ機能さんと相談して、次の世界で目立たないようお揃いの地味なフード付きローブを購入しておいたり、龍神の便利アイテムから役立ちそうなのを見繕って身につけたりして、時間は来た。


<準備はよろしいですか?>


「いいぞ。行こう、セリカ」

「うん、ハルキ!」


 そして手をつないだ二人は、次の世界へと転移させられた。


 勇者とその国を滅ぼすミッションを与えられて。

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