第3話 蛇さん達との戦闘
今度は、大きな滝壺を見下ろす谷の上に出現していた。小学校の修学旅行で見に行った何とかの滝と同じくらい?よく覚えてないけど、100メートルくらいを流れ落ちていた。
滝壺の先は川になって流れ出ていて、川沿いはやっぱり深い森に覆われていた。今立ってる谷の上もやっぱり深い森に覆われてて、どちらもどこまでも続いているように見えた。
「んで、ここで何をすればいいの?」
<眼下に見える滝壺に棲息する大蛇とその眷属を全て退治して下さい>
「・・・いつまでに?」
<明日の朝、太陽が登り切るまでに>
「大蛇ってどれくらいの大きさ?眷属って何匹くらいいんのよ?みんな毒持ってたりする?」
<大蛇は全長10メートルほど。眷属はおよそ100匹。全員致死性の麻痺毒を持っており、一度でも噛まれたら死を覚悟して下さい>
「あのさ。そーいうのファンタジーな冒険者に駆除頼んでよ?ていうか、こんな森の奥深くに平穏に住んでる蛇さん達ならそっとしておいてあげないの?誰にも迷惑かけてないんじゃ?」
<あなたの練習台として適切な相手を見繕っただけです。それでは、健闘を祈ります>
「回れ右してここから逃げ出したらどうなるの?」
<あなたが想像もできないくらい広い広い森の中を、あなたが到底対処できないような魔物に狙われながらどこまでもサバイバルし続けたいならどうぞ>
はああぁぁ、と大げさにため息をついてから、俺は覚悟を決めた。とりあえず、今は、今できる事の再確認からだ。
右手から出す赤ポータルは入口、左手から出す青ポータルは吐き出す出口。この認識で大まかには間違ってはいない。
赤ポータルだけ出して石を投げ込んでおくと、後から青ポータルを出した時に、投げ込まれた勢いと方向に石は飛んでいく。
さっきゴブリン達に落とした岩はこの機能を利用した。吸い込んでおくだけなら、特に時間制限は無いらしい。
「たくさんの蛇さん達相手にしないといけないらしいし、またいろいろ試しておかないとな」
赤ポータルを出す。そこら辺に落ちてた枝を差し込む。この時、青ポータルを出していなくても、枝をポータルから引き抜けば、元の形のまま損なわれはしない。
念のため、青ポータルを出して、いつも通り青ポータルから枝の先が突き出ている事を確認してから、青ポータルを先に閉じた。
青ポータルの先に出ていた枝の先が切り落とされて、地面に落ちた。続けて赤ポータルに残った枝の半ばを差し込んだ状態で赤ポータルも閉じると、ポータルの手前までで枝が断ち切られた。
「怖っ!でも、これで戦い方が決まったかな?」
青ポータルを出してみると、さっき赤ポータルに断ち切られたのだろう残りの部分が出てきて地面に落ちた。
ちなみに、念じるだけでも任意の方を先に出したり消せたりするのは確認してあったけど、乱戦の中だと混乱するかも知れなくて、先ほどの戦いはつぶやく事で間に合わせて、無事勝てた。
「ただ、10メートルの大きな蛇さんに、100匹のお仲間だろ?いくらポータルが便利だからって、囲まれて一噛みでもされたら終わりじゃんね?」
しばらくうんうんと唸りながら考えてみて、ヘルプ機能に質問してみた。
「なぁ、何かに触りながらポータルって唱えた時に、指定した何かだけ
<試してみたらいかがですか?>
「ふむ・・・。出来ないって言われなかったって事は」
俺は、足下から枝を拾い上げて、
「水分を
と唱えてみた。まだ生木と言ってよかった枝がからからに干からびた。その辺に落ちてる葉っぱで試しても同じ事が出来た。葉っぱの色だけを飛ばす事も出来た。体で試すのは怖かったから着てた服でも試して同じ事は出来た。
「保険はかけられた、か」
ちなみに、Tシャツはあの後回収したし、ゴブリンリーダーの持ってた剣も頂いてきた。靴は、部屋にいた時は当然履いてなかったけど、転移させられた時にはなぜか履かせてもらっていた。
「で、問題は、止まってる枝ならともかく、飛びかかってきた蛇をポータルに入れる事は出来たとしても、1メートルくらいの奴なら、閉じるまでに入りきってるだろうしなー。剣振るって相手にするのもきびしそうだしなー」
大きいのも一瞬の判断を間違えると、丸飲みされて無事ではすまなそうだし。いや、体の内側からポータルで削って、てのは有効な手段かも知れなくても、できるだけ避けたいじゃん、そーいうの。
「101匹ワンちゃんならぬ101匹蛇さんか。どーやって倒そうか?ていうかさ、あの滝壺までどーやって降りてくのよ?階段とか無いじゃん」
<作ればよろしいのでは?>
「うわ、丸投げだよこの人!いや人かどーか知らんけど」
とはいえ、崖の大半は岩で出来てて、削っていけば確かに階段も作れそうではあった。
「削った物資も確かに無駄にはならなそうだからやるけどさ。ちなみに球状じゃなく四角く削る事も出来るん?」
<試してみればいかがでしょう?>
はいはい。そーでしたね。
俺は、掌を地面に触れて、その先に球状の空間ではなく、横に長い四角い立方体の空間を想像して、ポータル、と唱えてみた。
はい。ちょっと
思いつきで何もない空間に四角く、もっと薄く広くポータルを張れないかと試してみたけど、出来なかった。まだ出来ないだけかも知れないけど、ひとまず後回し。
というわけでさっそく幅75センチ、高さ10センチくらいの階段を崖に刻み始めてみたけど、怖い!怖いよこれ!
「安全帯とか、いや、はい、作れって言うんだよね。わかってましたよ、作りますよ。ていうか100メートルの長さとか無理があるよね」
良く考えてみたら折り返す部分の幅も見込まないといけない事に十段くらい刻んでから気がついて、もう一度一番上から三倍、いや四倍の幅で刻んでいった。
「ていうか、外壁を残して削っていけばいいじゃん!」
簡単な真実には、最初の折り返しを怖々と刻んでいた途中に気付いた。けど、結局最初から、位置をずらしてやり直した。大蛇と戦ったり倒したり逃げた後の事をちょっと考えて、ね。
そうやってしばらく刻んでいくと真っ暗な空間での作業になってきて、外壁にところどころ採光用の窓を刻む事で解決したんだけど、気付いてしまった。
「えっと、ちなみにさ。夜になったら暗くなるよね?」
<なりますね>
「夜になったら、蛇と戦うとか無理ゲーじゃないの?辺り真っ暗になるよね?」
<なりますね>
「ダメじゃん!明日の朝までなんだから、今日明るい内に全部済ませないといけないんじゃん!?」
<そうかも知れませんね>
「ぐおおー!日没までの時間を表示しておいて。ついでに明日朝までのデッドラインも!」
こうして、視野の左上済みには、日没まで6時間ほど。明日の夜明けまでは18時間ほどと表示された。
とりあえず必死に階段を刻みに刻んで崖下まで到達した時には、日没までは3時間となっていた。
「うううう、昼飯抜きでこの重労働はひどい。喉も乾いた。でも、これでふらふらと滝壺に水飲みいくと、ぱくりと呑まれちゃうんでしょ?」
<でしょうね>
「で、さ。大蛇はたぶんなんとかなると思うんだけど、お供の蛇達はどうやって見つけるの?大蛇さん倒したら、敵討ちに現れてくれるの?逃げ出したの見つけるのなんて無理だよ」
<心配しないで大丈夫とだけ言っておきましょう>
「ご親切にどうも。んじゃ、さっそくやってみますかね~」
まともに食べるものも無いままに夜を明かしてから戦うよりは、まだ体が動く内に挑んだ方が無事で済む可能性は高い。漠然とだけど、そう考えて、それでも慎重に崖下まで到達した階段から10メートルくらい離れた滝壺まで慎重に向かっていった。ちなみにこの時点まででスキルレベルは8まで上がっていた。
滝壺の手前5メートルくらいで立ち止まり、腰を低くしながら、石を滝壺に投げ込んでみた。
ちゃぽん。
「元々、滝が流れ落ちてるんだから、小石の波紋くらいじゃ気付かないかな~」
小石だといくら投げても反応が無くて、だんだん大きめの石を投げ込み、それでも反応が無くて、ついには両手でぎりぎり投げ込みそうな石を両手に抱えた時だった。
ざばっ!という音が聞こえてきた俺は、背後へと飛び退きながら左手を頭上に掲げて唱えた。
「ポータル!」
瞬きするくらいの間に、滝壺の水面を突き破るように飛び出してきた大蛇さんは口を大きく開けて襲いかかってきていた。
上顎から覗く二本の牙の長さは30センチくらい?噛まれたら毒どうこうじゃなくてオシマイだよね、ってのは伝わってきた。
俺は地面に背中から倒れ込みながら、間近に迫ってきてた大蛇さんの頭上にこれでもかってくらいの岩がどかどかと積み上がるのを見た。
少なくとも青いポータルと地面との間はぎっちりと岩に埋められて、蛇さんの後頭部を押しつぶしていた。
大蛇さんも何が起こったのかわからなかったらしいけど、頭を潰されて生きてはいられなかったらしい。最後に長い舌が伸びてきてぺろりと顔を舐められたのが最後の足掻きだったらしい。いや舌掻き?
100メートルの高さから折り返しつつ削ってきた岩はまだまだ残ってたから、大蛇さんの顔の下から這い出して、念の為頭部を完全に潰しておいた。
画面左下隅には、大蛇討伐1と、眷属討伐残100と表示された。崖下までの階段採掘で8まで上がってたポータルのスキルは9に上がった。
喜ぶ暇は無かった。
滝壺の中や森際とかから、うぞぞぞぞっと眷属の皆さんが這い上がってきたから。
「皆さん十分大きいですって!蛇ってそんな大きいんだっけ?!」
とか叫びながら、青いポータルから岩を吐き出させつつ、階段へ退きながら数を減らしていった。平均して1メートルの長さの蛇に群がられるとかホラーでしかない!
階段の途中でも、ちょっともったいない気もしたけど、岩を小出しにしながら通路を完全には埋めないよう注意しつつ数を減らしていった。
うん。後になって冷静に考えてみたら、100メートルの高さって余裕で高層ビルとかマンションの高さに等しいよね?そこを蛇の大群に追われて退治しながら崖上まで登り切った俺はほめられていいと思う。
「残り48匹!さらにつぶして47匹!そしてここで!ポータル!」
右手を階段の出口に向けてかざして赤ポータルを設置。そこだけは回り込まれないよう岩で狭めてあった。
「そしてさらにポータル!」
左手を崖上の何も無い空間にかざし、その先の虚空に青いポータルが崖下に向けて出現。
階段の出口から次々と這いだし飛びかかってくる蛇さん達は、残らず赤いポータルに飛び込んで青いポータルから飛び出して、崖下へと転落していった。
うん。崖削った岩の残りが積み重なった音してたし、さすがにタフな蛇さん達もお亡くなりになったと信じよう。信じたい。
そして蛇さん達のキルカウントは順調に積み重なっていった。油断は出来なかったけど、準備もしていた。
そろそろ設置したポータルが消えるという頃に、蛇の列が途切れたのを見計らって赤と青のポータルをいったん消して再度設置。
残り数匹という段階になって日がほとんど落ちて真っ暗になって焦ったけど、ポータルさんありがとう。ちゃんと最後の蛇が落ちていって。
眷属討伐残0と表示が変わって、スキルレベルも10に上がった!
<おめでとうございます。スキルレベルが10に到達した事で、マイポータルが利用可能になりました>
「マイポータルって何?お腹空いたし喉乾いたし、これから食べ物探せって言われても無理だよ。明かりも無いし火も起こせないでどうしろっていうの?」
<水は滝へ流れてる川から飲んで下さい。安全な水です。それから食べ物については後から説明しますので、先に階段を作ったのと同じ要領で地下に部屋を築かれれば良いでしょう。それから夜目はおまけで効くようにしておきます>
「そりゃどーも。優しくて涙が出てきそうだよ」
<どういたしまして>
「・・・・・・」
どー感謝しろって感じだけど、助けられてるのも事実ではあった。真っ暗闇が、明るい月夜くらいの視野になってくれたので、とりあえず川辺に歩いて行き、喉の乾きを癒した。
「ふー。さてと、寝床を作りますかねー」
崖の岩場まで戻り、地下へ通路と階段を刻んでいく。元祖サンドボックスゲームのごとく、十分な高さというか深さにまで到達したら、部屋にするスペースを掘削していった。ほぼ50センチ四方くらいの大きさで。
そして5メートル四方くらいの空間を作ったら、壁際に一つずつ小岩をポータルで積み上げていき、天井以外は岩に囲まれた地下室が出来上がった!
「やばっ!また少しテンション上がった!」
と自分を再度励まし、外に出て適当に木々を伐採。乾かして適当な大きさに切って、地下室に設置。大ぶりな葉っぱとかは見当たらなかったので、雑草とかを水分やかぶれる成分なんかを飛ばしてから量をつみ取り、木のベッドの上に敷いて布団代わりにした。
「うおっ!すごくね!?
とはいえ、ドアはさすがに無理だったので、岩を積み上げて入り口を塞いだ。
<お疲れさまでした。さて、それでは、マイポータルについて説明します>
「ぜひ!して!お腹!減った!死にそう!」
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