第11話 ドゴンザー一家殲滅戦 その4 次のミッションへの準備
この世界、というかこの国の冒険者のランクはおおまかには、初等、中等、上等、そして極一部の特等に分けられるらしい。一番下が9級で一番上が1級。数字だけだと味気ないって事で適当な呼び名が付けられたそうな。
初等は雑草、若木、
中等は青銅、鉄板、玉鋼。
上等は白銀、黄金、白金。
特等は存在してるかどうかも怪しいファンタジー金属の名前なので省略。
俺は登録当日にして白銀級にまで引き上げられた。暫定的にギルマスに復職した元ギルマスだった老人受付員のじっちゃんやギルドの職員さん達が調べてくれた限り、最短記録、かつ最年少記録らしい。
次のミッションへの転移時間まで2時間しか残ってないと知らされた俺は、復職したギルマスにかけあって、金に糸目はつけないから最高の防具屋と道具屋を紹介しろとかけあって、紹介状と地図を書いてもらった。ポーションの類も買えるだけ買っておいた。
セリカは当然の様に俺についてきて説明を求めてきた。
「あの、大切な話があるのだけど、どこか落ち着いたところでお話できないかな?」
「悪い。無理。時間が無い!」
「そこを何とか・・・」
「話があるなら、歩きながら品定めしながらで!」
だいぶ不満顔だったが、仕方なかった。
「どうしてそんなに急いでいるの?」
「もうすぐまたどっかに転移させられるから」
「どっかって、どこよ?」
「さあね。この世界のどこかっぽいよ?それもとっても危険なところらしい。あった、ここだ防具屋!」
俺はカウンターにいた若い兄ちゃんに頼んだ。
「店長呼んできて。今すぐ」
金貨一枚を手に握らせたけど、
「何の用だ?これっぽっちの金で
「時間が無い。信じてくれないってんなら、これ新しくギルマスになった元ギルマスからの紹介状。金に糸目はつけないから、ドラゴンと戦えるだけの装備が欲しい。特に、耐火耐熱性能に特化したのを。それから、気配遮断系の装備なりアイテムがあったら欲しい」
うさんくさそうにしてたけど、銀製のギルドタグを見せると、紹介状にざっと目を通して冗談の類じゃないと店の奥に引っ込んでいった。
「ポータル、ドラゴンと戦うの?一人で?」
「無茶だって言いたいんだろ?同感だ」
「なら、止めればいいじゃない。もうどこでだって裕福に暮らしていけるだけの財貨は得たでしょう?どうして命をかける必要があるの?」
「俺もそう思うよ。てか、セリカ、頼まれてくれない?」
「私に出来る事なら何でもするけど」
「ギルマスから紹介してもらった道具屋に行って、千里眼か、なるべく遠くを見れる道具なり薬なり何でもいいからそれを実現できる何かを手に入れてくれ。予算は、とりあえずこれだけあれば足りるか?」
白金貨5枚をセリカに渡すと、わたわたと慌てた。お姉さんぽい外見してるけど、実際俺よかかなり年上なんだろうけど、かわいい。惚れそう。でも、そんな事言ってられる余裕は無かった。
「これを持ち逃げするとは考えないの?」
「別に構わないよ」
「へっ?」
「それだけの迷惑をあいつらにはかけられてたろうから。そんなもんじゃ足りないだろうけどさ」
「いや、あいつらに受けた虐待の数々に関して、ポータルには何の落ち度も無いし。とりあえず、行ってくるね。合流はどっちで?」
「行き違うと怖いから、そっちで」
「わかった」
んでもって出てきた店長さんは、むくつけきおっさんの体付きにインテリぽいシャープな面影にきらりと光るメガネをかけたハイブリッドタイプなおっさんだった。誰需要?
「竜と戦って死なない装備が欲しい。竜のブレスをやりすごして、とにかく気付かれずに可能な限り近寄りたい」
カウンターにどんと置いた銀貨金貨白金貨が雑多にたくさん詰め込まれた袋の存在感はそれなりに効いただろう。
自分の雰囲気も、この町に転移してきた時と今とでは別人の物になってるだろうし。俺の必死なアピールを受けて、金だけ積めば何でも買えるだろうと札束で相手のプライドを買いたたくような輩とは違うとも感じてくれたようだ。
そして一時間くらいかけて、炎竜の皮膚製というフード付きのクロークと、遮音と存在隠蔽効果のあるブーツ、体温調節機能付きのシャツ、ドラゴンのブレスにさらされても炎を吸い込まないで済む仮面。着てるだけで傷が癒えていくリジェネ機能付きの鎧。溶岩に触れても溶けないという触れ込みのグローブ一対を買って、念のためミスリル製のインナーチェインメイルまであつらえて全身に着込ませてもらった。
ものすごい金額を悪徳マフィアからぶんどった筈なんだけど、その総額の1/4が吹っ飛んだというところで買った物の価値を想像してもらえるとうれしい。
次の道具屋に向かいながら、俺は気付いてしまった。遠くを見るのに便利なマジックアイテムがあればそれが一番だけど、双眼鏡とかの類でも用は済むかも知れず、それはマイポータルで買えば良かったのじゃないかと。
けどそんな杞憂は、セリカと合流した道具屋で、目が良くなって普段の二倍の距離が見える薬と、それから火傷の治療薬、臭い消し袋、それから一番の目玉が、幽体離脱できる薬で解消された。
「効き目は10分前後で、値段は金貨3枚って」
「それ、あるだけもらおう」
「本気!?」
「命の値段には換えられないだろ?」
「でも、使ってる間は、体が完全に無防備になるんだよ?」
「んー、まぁ、そこはたぶん、何とかなるかな」
支払いは白金貨2枚ちょっとで済んだので、残りはセリカに取っておいてもらう事にした。
「これでとりあえずの用事は済んだのよね?あなたが転移させられるまで残り時間は?」
「30分ちょいくらいかな」
「じゃあ、その時間を私にちょうだい。あなたには、決して損はさせないから」
「あ、ああ。別にいいけど?」
そうして鬼気迫る感じのセリカに圧される感じで、腕を取られた俺はそのまま一番近くにあった宿屋の二階の一室に連れ込まれた。
「とりあえず座って」
ベッドに腰掛けたセリカが、自分の隣をぽんぽんと叩いたので、一人分くらいの間隔を空けて、隣に座った。
が、そんなへたれな気の回し方はほとんど無意味だった。
セリカが俺の方に体を向けて上半身をぐぐっと近づけてきたから、俺はやっぱり圧されてのけぞったけど、セリカは真剣な表情で言った。
「私にも、あなたを手伝わせて」
えっと。正気?てのが正直な感想だった。
「無理じゃないかな?」
「無理って、誰が決めたの?」
俺は素直にヘルプ機能さんに訊いてみた。
――どうなの、この申し出って?
<本来なら、論外な申し出、ですが>
――ですが?
<彼女自身が命を賭けてまでも同行したがっているのであれば、承諾する、される可能性はあります>
――なぜ言い直したし?
<深い意味はありません。残り30分を切りましたよ>
「命懸けてもいいなら、無理じゃなくなるみたいだけど、死ぬかも知れないよ?」
「あのまま奴隷だったら、私は生きながら殺され続けてるようなものだった。あなたは助けてくれた。恩返しをしたいの」
またぐぐぐっと前に出られて、その分のけぞってベッドに倒れ込んだら、上にのしかかられた。
「えっと、あの?」
「私じゃ、ダメ?」
「ダメというか何というか、あと30分でもう二度と会えなくなる可能性低くないし、そうでなくなったとしても、せっかく助けた人に死なれて嬉しがる趣味無いんですけど」
「男の人だと、後腐れが無くていいとか言うんじゃないのこういう場合?」
ぐぐぐっと顔が迫ってきてた。
ちょーきれいかわいい好み!
だからこそ!
俺は彼女の頬を両手で挟んで、ぐにゅっと押しつぶして変顔にして、シリアスな空気を打ち砕いた!
「自分自身の身だけでも守れる自信なんて無い。そこで好みの女の子に死なれるとつらい。死ななくても全身火傷とかされたりしても俺が死にたくなる。自分を許せないし殺すかも知れない。もし竜に勝てたとしても、同じようにまたどこかに飛ばされて、もっと鬼畜な奴の相手をさせられるかも知れない。その時にはもう一緒にいられないかも知れない。そんなのつらすぎるし、耐えられる自信も無い。だから、助けた誰かにはそのまま無事でいて欲しい。てのは、ダメなの?」
セリカは、自分の頬を押し潰していた俺の両手を掴むと、俺の顔の両脇に押しつけた。て、これ、男女逆なシチュじゃないの?!
「ポータルが、私の身を案じてくれたのはうれしい。好みの女の子と言ってくれたのはもっとうれしい。でも、だからこそ、一回だけでも、一緒に行けるのなら行きたい。そこでどんな傷を負おうと命を失おうと、それは私自身が決めた事。ポータルのせいじゃない」
「でも、もしもそうなってしまった時、俺は俺を責めるよ。だって、俺が拒否してればそれは起こらなかった事だし」
「ポータルは、優しいな」
俺は、優しくなんか無い。ちっとも。
そんな言葉は、セリカの唇に俺の口が塞がれて、言葉にならなかった。
ぎゅっと抱きしめられて、そっと抱きしめ返した。
何度も唇と唇が触れ合う間、彼女の涙が俺の頬を濡らした。
そんな風に残り時間が過ぎていって、次のミッションに向けて転移させられた時、俺は、セリカは、一緒に荒野めいた山肌の地面に出現して、重なるように横になってたのもあってしばしの距離を転げ落ちたけど、
「ポータル」
と唱えて、自分とセリカの転がる先へと赤ポータルを設置。同時に頭上の空間に地面と垂直に青ポータルも設置。
赤ポータルに転げ込んだ俺とセリカは、青ポータルから縦に排出されて、何が起こったかわかってないセリカを俺は山の斜面で抱き支えた。
「これが?」
「そ。あの屋上でも見てたろうけど、これが、ポータル。俺が与えられたスキルで、戦う力。んで、戦う場所に強制的に転移させられて、準備時間は与えてくれるけど、逃げられない。ようこそ、このくそったれなミッションの世界へ。せめて、今回は一緒に切り抜けよう」
「違うよ、ポータル、というか、まず名前を教えて。それも後回しかな。今回は一緒にじゃなくて、これからも一緒に、だよ」
「もしもそれが叶うなら、な。俺が転移させてる訳じゃないから、約束はできないんだ」
「竜と戦わされるのなら、それなりの準備時間は用意されるんでしょう?ならその間、歩きながらでも話せる限りの事情は全部聞かせて」
「小川春樹。それが俺の名前だよ」
「セリクァエル・ルルシア・ピオチュエル・ミシュア・ニジュエルジュ。覚えきれないだろうし、普段話す時にも長すぎるから、セリカでいいよ」
こうして俺とセリクァ(以下略)なセリカは、ヘルプ機能さんが視野に指し示してくれた方角へと、火山の火口の方へと、手を取り合いながら歩き始めた。
討伐対象:炎竜ゼオルゲル 1
残時間:47時間58分12秒
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます