第10話 ドゴンザー一家殲滅戦 その3 セリカとの出会いと、最後の一人

 一人はたぶんここには来てないとして、二人は今ここにいるナイフ使いと魔法使い。とすると後は十一人かな。


 ナイフ使いが尋ねてきた。

「複数、出せたのか?」

「ん、ああ。わざわざ教える必要無かったしね」


 とりあえずこの場の残りは二人、ってことで俺は起き上がり、魔法使いに向かって走り始めたけど、魔法使いは、

「降参、降参するから助けて!」

 と言って、両手を宙に上げた。

「愚かな」

 とナイフ使いが言って投擲したナイフは4本。魔法使いは避けるそぶりを見せなかったけど、俺は走り寄りつつ直系5センチくらいの赤ポータルを次々と展開。ナイフ使いの体のすぐ傍に同じ大きさの青ポータルを出して次々とナイフを持ち主の体に返した。

 ぐふぅっ、と呻いてナイフ使いは倒れた。流れ出てる血の量からも致命傷だろう。

「お前は、何者なのだ?これだけのことをして、ただで済むとは」

「思うわけないじゃん?もちろん全部毟り取るよ?そちらの構成員を全滅させた上でね。ちなみにあんたが死んだら、もう十人ちょいしか残ってないから」


 まだ何か言おうとしてたけど、赤ポータル展開してナイフ使いの体も分断してクローズして死体収納。残り13人。


「そんで、降伏するって、助かると思ってる?」

「私は、奴隷にされてたんですっ!ほら、これ、隷従の首輪!あなたなら、どうにか出来るんじゃないかって。ねえ出来るんじゃないの?」

 ローブのフードを跳ね除けて出てきたのは、エルフっ娘の魔法使い!耳長い、金髪、顔立ち整ってる!ていうとこより前に、なんか禍々しいお約束のアイテム出てきましたよ。

「もしかしてさ、それが残ってる限り、契約相手の位置とか分かったりしない?」

「ええ。私は手出し出来ないけど、残ってるご主人様が誰でどこにいるかは分かるから、全滅させて。そしたら私は自由になれる」

「組織に対して隷従させられてるなら、そうなるよね。いいよ、その条件で受けてあげる」


 そんなわけで、奴隷エルフ魔女っ娘というか魔法使いのセリカちゃんと言うらしい。本当はもっと長―い名前らしいんだけどね。逃げた相手をどう探すのかという難題をこれで解決!他のアジトを強襲して一人また一人と片付け、お駄賃もがっつり頂きつつ、最後にやってきましたよ。


 予想通りの冒険者ギルドへと!


 俺はすでに有名人になっているのか、カウンターの前の人垣がざざざざっと左右に分かれた。その中には地下牢から助けた人も複数混じってたかも知れない。よくぞ無事でとか声かけてきてくれたけど、とりあえずは無視。


 俺はあの老人受付員さんのところに歩いていき、セリカに尋ねた。

「この人?」

「ううん、違う」

 そう言ってセリカが3階の方を見上げたから、

「あー、やっぱしかー」

 と声が出てしまった。

「んじゃ行く?」

「行きましょう」

「待て。どこに何をしに行く?」

「ドゴンザー一味の最後の一人を始末しに行くんですよ」

 老人受付員さんも視線の先を辿って意味合いを理解してくれたらしい。

「最後の一人と言ったな?他の連中は」

「またいちいち全部は出さないけど、ここら辺は知った顔じゃないの?」

 そしてドゴンザーや、屋上で戦って倒した連中の死体もカウンターの上に並べた。

「上等黄金級パーティーの・・・」

 そう、あのイケメンさんとそのお仲間さん達。たぶんこの街一番の腕利きで、ギルドマスターまで抱きこまれてれば、誰も抵抗しようとしないよね。

「私もついていこう」

「死んでも責任は取れませんからね?」

「責任と言えば、私の責任でもあるだろうからな」


 先代だったりするのだろうか?

 死体を収納してから、三階へと階段を上っていく。途中邪魔は入らず、ギルドマスターの部屋には、ドアを蹴破って入った。椅子に座ってたギルドマスターが立ち上がった。その足元は机の陰になって見えなかったけど、今日の乱戦続きで得た経験で、それくらいは障害にならなかった。


「ポータル」


 ギルドマスターの巨体が床へと沈み込む。突然視界が沈んでいくのだし、踏ん張りも利かないのだから、唖然としたまま机の向こう、ポータルの虚空へと体の大半が呑み込まれた状態で、首を絞めるようにポータルの口を閉じた。完全にではなく、呼吸も会話も出来るだろう状態で。


 歩み寄り、立派な木製の机を収納する。

 毛の深い絨毯の表面に赤いポータルに首を縁取られたギルマスの姿があった。首から上だけだけど。


「バルカス、貴様、堕ちておったのか・・・。見抜けなんだ私の落ち度よ」

「オヤジ・・・」

「こいつは、孤児だが見込みのあった冒険者での。義理の息子として迎えたのだが」

「いや、そーいう愁嘆場要らないから。セリカ、こいつで間違い無い?」

 セリカは鬼の形相でギルマスを睨みつけながらうなずいた。

「んじゃ収納っと」

 セリカを縛っていた隷従の首輪は消えて失せた。俺の格納庫の中へ。

「普通のアイテムボックスだと、そんな機能無い筈なんだけどね」

「ん?戻して欲しいなら戻すよ?」

「バカ、そういうんじゃないから」

 セリカは思い切りギルマスの口元につま先を蹴り込み、蹴り込み、蹴り込み続け、ギルマスの歯が全部折れて顔や顎の骨もぼろぼろになったんじゃないかと思うくらいにようやっと止まった。

「どうする?ここで殺す?」

「そういえば、まだ名前も聞いてなかったわね。あなたの名前は?」

「ポータル、って名乗ってる」

「それたぶん、あなたのユニークスキルの名前で、本当の名前じゃないでしょ」

「ばれたか」

「ま、後で教えてもらえればそれでいいわ。それで、先代ギルマスの意見は?」

「私としては法で裁くべきだとも思うがな。手下は全て殺され、おそらくだが貯め込んだ財宝の類も全て奪われたのだろう?」

 俺は何も言わずにただ肩をすくめた。

「組織を丸ごと潰したのは、ポータルだ。なら、ポータルが決めるといい」


 て言ってるけどどうする?、とヘルプ機能さんに訊いてみた。丸投げともいう。


<あなた次第ですね。すでにミッションとしては完了した状態ですから、好きにしたらいいと思います>


 ここの行動次第で、何か次回ミッションの難易度とか変わってくる?、と尋ねた。


<あなた次第ですね>


 こういう風に含みを持たせるの好きだよな、この人。ていうか人かどうかも知らないんだけどさ。

 ふむ、そしたら・・・


「この人、俺の好きにしちゃっていいんだよね?」

「構わないわ」

「好きにしろ」

「ななな、何をする気だ助けてくれっ!」

 わめくギルマスの口に本を噛ませ、その額に手を触れて、考えてみる。対象から水分を飛ばせる。服からは血の染みを含めて汚れを飛ばせた。その飛ばした水分や汚れは格納庫の中に収納されて、選択して削除を選べばどことも知れないどこかへと消えていった。


 ならば、冒険者としてのスキルや経験値はどうなのか?自分も明確なHPやMP表示とか無いけど、敵を倒すごとにスキルレベルは上がり、身体能力も上がっていった。ちなみに今のスキルレベルは20。あのイケメン剣士を倒したことで到達。複数展開も出来るようになった。いずれ出来るだろうとは思ってたけど、実際試して出来るようになったのは、20到達後からだったのが真相。


 んで、このおっさんも、ギルマスで、有能だった筈、なら。

「お前の有用な能力を飛ばす」

 直後、ギルマスが何割か萎んだような気がしたが、たぶん気のせいじゃない。俺の体格はそのままに、身体能力とかがその分増した感じがした。

 マイポータル画面を開いてみると、その要因らしき何かが出ていたが、とりあえずの検証は後でいいだろう。


「恐ろしい奴だな、君は」

「これでも雑草級なんで」


 嫌味はクリティカルヒットしたらしく、先代ギルマスは苦笑して言った。


「まずはその処理からだな。登録から一日で上等の級に昇格など、ほとんど史上初めての筈だ」

「ほとんどってのは?」

「私が記憶している限りという意味だ。全世界の記録を当たってみないと確かな事は言えないからね」

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