第9話 ドゴンザー一家殲滅戦 その2 激闘
「レイチェルがいなければ建物ごと崩しちゃうのが一番楽なんだけどなー」
とぼやくと、
<建物が崩壊したくらいではドゴンザーは死にませんよ。ちなみに、まともに戦って勝てるとは過信しないように>
「思わないよー。単なる中二未満だしね、俺」
無言になったヘルプ機能さんは、それでもレイチェルが囚われてるだろう位置を指し示し続けてくれた。
あんなことやこんなことをされちゃってるのかなーとかいう妄想は封印。命懸かってる場面だしねこれ。
地上四階建ての建物の最上階にボスとレイチェルはいるらしく、時にはわざと大きな音を曲がり角とかで立てたりして敵をおびきよせてポータルに落とし込んだり、集団で立て篭もってる部屋の天井を崩しながら、床にポータル空けて胴体や首とかをお別れさせたり。
そんなこんなで、残すは最上階のみ。手下の数は12人。ボス入れて13人。
「きっと暗殺術に長けたり魔法使ってくる連中がいて、ボスと一騎打ちになっても、レイチェルの首に剣突きつけられて、この娘を助けたければ殺されろ!とか言われちゃうんだろうなー!」
とかまた無駄にテンション上げつつ、やってきたのは、階段スペースではなく(そちらは岩とかで埋めておきました)、ボスとレイチェルがいる部屋の直下のスペースへ。
ヘルプ機能さんが示してる矢印は、まっすぐ頭上へ。
「これってボスとレイチェルどっちの位置?」
<うろうろしてる方がボスです>
「うーん、ボスとレイチェルの位置が近い、な。万が一、先にレイチェル助けようとして飛びつかれたりすると面倒か。よし決めた、君からだ!」
ボスの矢印がなるべくレイチェルから離れたタイミングで、床を赤ポータルで掘削、何が起こったか分からないボスが落ちてきます。それでも歴戦のツワモノなのか、すぐにその視線が俺を捉えてにらみつけてくる。
そして床に足をつけるやいなやこちらに飛び掛ってこようと、して、床に足が着く前に着地点の空間に赤ポータルを再展開。何が起きてるか分からないボスの胴体が半分まですっぽり入ったところでクローズ!
「ぐぶっ!?」
即死ですね。即座に死体は貯蔵庫へ。続いて上で硬直してるらしいレイチェルの足元の床を削るものの、惜しい。ベッドの上にいるらしく、続けて床穴を拡大させると、ベッドごとレイチェルが落ちてきたので捕獲。
「助けにきた!」
それだけを言って、天井に空いた穴から降りてこようとした連中にはボスと同じ道を辿らせたし、魔法を打ち込んできた奴にはいったん赤で受け止めてからその手前に青を展開して打ち返してやっつけた。
こっから逃げる方が簡単と言えば簡単か。後ろを追わせる方が敵を誘導できて片付けやすい。
「立てる?自分で歩ける?走れる?逃げるよ?手下の大半ももうやっつけてあるから」
仰天の展開続きで冷静な質問どころではないにしろ、うなずいてついてきてくれた。いやほんとは手を握っての脱出行シチュに惹かれないワケは無かったけど、両手は空けておきたかった。こーいうの、最後まで油断したらダメっての、お約束だし。
地下通路に下りて、買っておいたフード付きローブを渡し、おじさんが待ってる城門で合流してそのまま逃げるよう伝える。
「あの、一緒に逃げては下さいませんの?」
震える声で言われて心まで震えないワケも無かったけど、まだ、手下が3人ほど残ってるんだよね。
「後ろを振り返らずに逃げるんだ。なるたけ、悪者の数は減らしておくから」
勢いで抱きしめて、あげたかったけど、肩を優しく叩いて逃げるよう促してあげるのが精一杯だった。彼女は、何度も頭を下げながら暗い通路の先へと去っていった。通路の中ほどで待っていると、たぶん背後に一人残っていた奴がまんまと蓋を外した落とし穴に落ちていって、キルカウントが一人増えた。
残り二人は邸宅から出て町中の別のアジトにいる仲間に増援要請をかけてまわっているらしい。
視野のステータス情報を確認してみる。
ドゴンザー:死亡
レイチェル:生存
手下:2/44
町全体:147/189
という感じに数字が変動していた。門番とかも買収されたらおじさんとレイチェルが助かる可能性は半々だけど、150人近くに後ろを追われて逃げ切るなんて、たぶん不可能。だから、また牢屋まで戻って残っていた人達に言った。
「ボスはもう殺した。この邸宅にいた連中もほぼ全員殺した。残りも片付けるけど、ここに居残られると邪魔だから、いなくなって?」
抗議しようとした人達もいたけど、ボス他の死体を出して見せると、大人しく指示に従ってくれた。
「百人以上の団体さんを迎撃する準備をしなきゃね。ていうかこれ、もうクリアでいいんじゃないの?」
<レイチェルを生かして逃がして、死なないまま逃がしきるのがクリア条件です>
「きびちーね、それ」
ぼやきながらも団体さん歓迎準備は進めていた。まず屋上に岩を積み上げ、その上にボスの死体の上半身を置いておく。さらに正面玄関に大きな落とし穴(深さ25メートルくらい)と、裏口にも小さめの落とし穴(深さ15メートルくらい)を掘っておいてから、屋上へと戻って、死体の傍で団体さんを待ち受けた。
すると一時間も待たない内に、邸宅の全周囲を百五十人近くのむくつけき男達が取り囲んでひたひたと迫ってきた。
俺はただ、ヘルプ機能さんに尋ねた。
「おじさんとレイチェルさんに追っ手はかかった?」
<一人だけ。まだ街の中に留まってますから、逃げ切れる可能性はありますね>
「そっか、幸運を祈っておこう」
さて、眼下に集まった男達が何かわめいて、一部の連中は弓やら魔法やらを放ってきた。俺は体の表面を覆うように展開した赤いポータルで受け止め、連中の頭上に向けて出した青ポータルから吐き出してやり、何人かはそれで倒せた。
屋敷の壁や窓に取り付こうしてる連中の頭上から土石やレンガその他を降らして数を減らしていく。玄関から入ろうとした連中の二割くらいは落とし穴に落ちてくれた。
お宝(ボスの死体)を収容し直し、迎撃戦に移行。基本は階段で。ただし人間は蛇や狼と違って真っ直ぐ向かってきてくれない。壁をよじ登ってショートカットしてくる連中もいるから、階段を崩し落としつつの撤退戦。二階放棄時には81人、三階放棄時には39人、四階放棄時には18人。そして屋上には彼らの真打さん達が待ち構えてくれていたらしい。
正面から切りかかってきた奴。投げナイフを立て続けに投擲してきた奴、吹き矢で狙ってきた奴。背後から特大の火の玉魔法ぶっ放してきた奴。
とりあえず投げナイフはボスの死体をかざして受けて、そちらに目を引かれた瞬間に屈みつつ背後から来たファイアボールをポータルで受けて、吹き矢野郎に向けて放つ。正面から来てた奴と投げナイフの方は心の準備してたみたいだけど、吹き矢の方は自分に来るとは思ってなかったらしい。火達磨になって、キルカウントが1増えた。
ボスの死体を収納しつつ、水風船に入れてた何かを取り出して、目の前に迫った剣士の足元へぶちまけた。すでに剣の間合いに入っていた彼は、避けるよりも俺を至近距離から仕留める方を優先した。
俺は剣先を避けて屋上を転がった。トドメを刺そうと向きを変えた剣士は足元の油に足を滑らせた。何とかバランスを取ろうとするが、俺はその軸足の下に赤ポータルを展開。男の左足の大半がいったん飲まれたところでクローズ。さらにバランスが崩れて右半身が崩れ落ちる空間に赤ポータルを再度展開。抗う術なく上半身を飲まれた彼はクローズされて終わった。
ちなみに、まだ俺は屋上の床を転がり続けていた。ぎりぎりのところをナイフが立て続けに襲ってきていたから。
剣士を倒したところで、ナイフ使いと魔法使いに向き直ろうとしたところを狙われた。うん、タイミング的にはばっちりだったでしょ。左右背後の死角からの同時攻撃。赤ポータルでも同時には受けきれない。そんな読みもあっただろう絶妙な位置取り。当然、攻撃しつつも、赤ポータルで受けられた攻撃が青ポータルで自分達に向けて出てくることを想定して、警戒もしてるだろう。
なんで死角の動きにそんな詳しいんだって?
ヘルプ機能さんが矢印とかで教えてくれてたから。
ていうか考えてくれ。つい先日まで一般中学生やってた男が、わずかなチートスキルもらって少しばかり身体能力強化されたからって、冒険者達でさえ忌避する百五十人近く(正確には二百人近く)の集団とがちでやりあえると思うか?
俺は思わないし、ヘルプ機能さんも思わなかった。
俺が死ぬのを楽しんで見る為に何かしてるのなら、手間をかけ過ぎてるし、気をかけ過ぎてる。だから、頼れるだけ頼った。そんで応えてくれてる。それだけの話。
前転し、背後からの同時攻撃を避けつつ、ひっくり返った天地の視界の中で、二人の踏み込んだ足が幅30センチ、長さ2メートル50センチくらいのスペースに揃ったことを確認し、赤ポータルを展開。
これまで一度も見せてないやり方で二人の片足を呑みこんでクローズ。重心を移しつつあった足を失えば、当然、倒れこむ。
ここで剣士を倒したのと同じやり方も出来たけど、俯けに倒れてた自分に投擲されてたナイフ2本に対して、最小限の大きさ、といっても安全マージン取って直径30センチくらいにしたけど、その二つ同時に出した赤ポータルで吸い込み、倒れこむ背後の刺客二人の喉元に青ポータルを二つ出してナイフがそれぞれに突き刺さり、キルカウントが2増えた。
ドゴンザー:死亡
レイチェル:生存
手下:0/44
町全体:14/189
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