第19話 束の間の里帰り その1 セリカと両親の邂逅
「セリカ・ルルシア・ミシュアです。お義母様、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
「え、お義母様、って、ふつつか者って、ハルキ、この人どこで騙して連れてきたの?ちゃんと元のところに帰してらっしゃい!」
「そうだぞハルキ。人身売買は犯罪だ」
折り悪くというか良くというか、父母揃ってしまっていたので、部屋に直行という訳にも行かず、きちんと挨拶を済ませる事にしたのだが。だが!
「違うって、二人とも。セリカさんとはネットで偶然知り合った仲なんだけどさ。意気投合して、たまたま日本に遊びに来るっていうから迎えに行って連れてきただけだって」
「お義母様とか、ふつつか者っていうのは?」
「セリカに、その、そういう相手を両親に引き合わせた時に、大人ならそういう挨拶になるって一般常識的な話をしただけだよ」
お茶を飲んでいた父が盛大に咽せて、鼻からお茶を吹いた。あまりにも想定外だったらしく、しばし呼吸困難ぽい症状に陥って母をも心配させた後、何度も視線を俺とセリカの間で往復させた後に言った。
「悪い、春樹。父さんには、お前が何も知らない海外旅行者を騙して連れてきたようにしか見えない」
「いや、うん。第三者的に、客観的に見れば、俺とセリカの外見が釣り合ってない事は分かる。俺のが断然幼く見えるだろうし」
「そんな事無い!ハルキは、私を救ってくれた人で、とても強い人!竜だって」
「ストーップ!セリカさん!ちゃんと打ち合わせた内容思い出して!」
「覚えてるけど、でもお義父様の言い分は酷いわ!私にはもうハルキしかいないのに!」
父母の意識がこの一言で飛んだ。
「いや、あの、セリカさん?説明したよね?俺がまだ義務教育期間中の子供に過ぎないって。一緒になるとしてもまだまだかかるって」
「それは、
「そりゃ、あっちなら誰にはばかる事も無くって、何言わせるんだ。こっちにちょこちょこ戻ってくるなら、ちゃんと両親ともやってってもらえないと、俺も困るけど、セリカがたぶん一番困るんだぞ?!」
やばい、父母の意識が未だ戻って来ない!セリカとの会話でどんどん現実逃避度を増していってしまってるのかも知れない!
「それは、少し、嫌かな」
「うん。俺もそうなってしまったら悲しい。俺を生んで育ててくれた両親だし、将来セリカと一緒になれたら祝福もして欲しいし」
「そうよね。二人の間の子供が産まれたら、お二人にも可愛がって欲しいしね」
そこでセリカさんが何気無くそっと下腹を撫でてしまったものだから、両親の口から魂が出てきそうな気配を感じた!
俺は強引にでも二人の口を閉じて魂を押し戻し?、肩を掴んで揺すって強制的に彼らの意識を現世に呼び戻した!
二人は夢を見ていたかのような面持ちで、なーんだ夢だったのかアハハー、みたいな視線を互いに交わしたが、
「ハルキとの間に子供が産まれたら、お二人に名前をつけて欲しいです。お願いしますね、お義母様、お義父様」
二人は視線を向けないようにしていたセリカの方に、ぎぎぎぎぎっと錆び付いた何かの様にぎこちなく視線を向け、相変わらずの仕草を続けるセリカを見て、母は気絶し、父はスマホを取り出して警察に連絡してしまった。
俺は最速で父のスマホを取り上げて通話を強制的に終了させ、椅子からずれ落ちそうになった母を支えて抱え直し、寝室へと運んでベッドに寝かしつけてから戻ってきた。
「で、父さん。真面目な話、聞いてくれる?」
「二人は、真剣につきあってるんだな?」
「そうです、お義父様」
「二人がそのつもりでも、ハルキはまだこれから中二になるところだ。最低でもあと7年はかかる」
「何の問題もありません」
セリカさんの揺るがなさに、父が折れた。
「こんな普通な息子のどこがあなたに相応しいのか、父親ながら全くわからないが、それでもあなたが、そして息子も望んでいるのなら、息子を、よろしくお願いします」
「はい。私の命に換えても、息子さんを、ハルキを守ります」
重い!重いってそれ!それ旦那さんになる男性が、妻にする女性の両親になら言ってもそこまで違和感無い台詞かも知れなくても、その逆はちとヘヴィーだって!
父も頬をひくつかせながら、まぁドン引きしてるんだろうけど、
「春樹。こんな素敵なお嬢さんを泣かせるような真似をするんじゃないぞ?」
「俺に出来る限りの事はするさ。んで母さんの意識が戻るまで俺達部屋にいるからさ。戻ったら呼んで」
「ああ。だけど春樹」
「わかってるよ、二人かどっちかが家に居る時は・・」
父はつと俺に顔を寄せて小声で囁いた。
「ちゃんと、
どういう意味かは分かったので、とりあえずうなずいておいた。
父は母を寝かした寝室へ。俺とセリカは俺の部屋へと向かった。
「あまり両親の寿命を削らないでおいてくれよ」
「でも、あれはあまりに春樹に対して失礼!春樹の両親じゃ無ければ、私は本気で怒っていたかも知れない!」
「そうやって腹を立てる度に付近一帯を消し炭にしてたら、もしミッションに呼び出されなくなっても、こちらじゃ暮らしていけないぞ?」
「そしたら向こうで暮らせばいいだけ。私は、なるたけ早くハルキとの間に子供が欲しいし」
「気持ちは理解するし、同じ様な気持ちは俺にもあるけど、俺はまだ子供なんだ。そういう事は出来てしまうし、あっちだと規格外な存在になってるかも知れないけど、それでも年なりに未熟な存在なんだよ」
セリカは、俺のベッドに横たわると、枕を抱きしめて臭いをかぎ始めたので取り上げた。
「ああん、それくらいいいじゃないの!
「もうちょっと自重してくれ。母さん、このまま俺達が戻ってこないような事があれば、自分を責めてしまうかも知れないし」
「両親に認めてもらえなかったから、駆け落ちしてしまった、みたいな?」
「たぶんな」
「二人には、本当の事を話さないの?」
「二人とも行方不明になって野垂れ死んだって思うよりは、どこかで幸せに暮らしてるかも知れない、って思える方がマシだろ?」
「ハルキがそれでいいなら、私もそれでいいけど」
休暇時間が終わるまでの間に、二人宛には手紙を残すつもりだった。遺書ではないけど、戻れなくなるかも知れない事を。そうなった場合、俺達の事は探さないで欲しいという事も、書き添えるつもりだった。
俺は、パソコンやインターネット、テレビ、マンガや小説の類なんかを慌ただしくセリカに紹介した後、尋ねた。
「それじゃ、そろそろ次のミッションについての話を始めるか?」
「そうね。まだいろいろ名残惜しいけど、炎竜の時も準備を怠っていれば私たちの方が殺されてて、ハルキとも一つになれてなかっただろうし」
「言い方!こっちにいる間はほんと気を付けてくれよ。お願いだから!」
「は~い」
俺は机の椅子に座っていたが、その足の上にセリカが座り、俺の胸に背を預けてきた。髪の香りがとても・・・。
「
「ダメ。まだ。せめて、両親が寝付くまで待って!」
「わかった。ここはハルキの家だし、ハルキの意見を尊重する。それで、次はどんなミッションなの?」
「次は、今までよりずっと物騒だな」
「龍神を倒せってより物騒なミッションも無いと思うけど」
「勇者と、彼が建立した国を滅ぼせって内容だからね」
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