第5話 死体回収とか、ポータルの修行とか

「これでまた下まで行って、狼さんと蛇さんの死体回収か。だるいと言えばだるいなー」


<言っておきますが、今夜しっかり休んでおかないと明日がつらいですからね?>


 俺はいったん両方のポータルを閉じてから、ヘルプ機能さんに尋ねた。


「なあ。どっちかのポータルをずっと出しっぱなしには出来ないのか?」


<今のあなたにはまだつらいでしょうね>


「つらいって事は、やればできるのか?」


<やりたい事は想像がつきますから、川で水浴びして、血を洗い流したらどうですか?滝壺の辺りまで降りても、また別の魔物を呼びかねませんよ>


「それもそうか」


 マイポータルと唱え、蛇の死体を何個か売ると、タオルやバスタオル、着替えなんかは余裕で賄えた。

 川縁まで行き、服を脱いで、川の中ほどに赤ポータルを設置しておいてから川岸でじゃばじゃばと水浴びして血とかを洗い流して、川から上がってから気付いた。


「血を飛ばせばポータルすれば良かったんじゃね?いや血っていうと自分のも含まれちゃうから、魔狼の血って限定すれば、ね?」


<出来たかも知れませんね>


 ま、いいやと踏ん切りをつけて、赤ポータルも消して部屋へと戻った。


「んじゃ、まずは練習っと」


 壁の一面に赤ポータルを展開。ポータルの先は濁ったような灰色で先が見えなかった。別の壁に青ポータルを展開。すると・・・


「おおっ!?これ、くぐってみて大丈夫なん?」


<大丈夫ですよ。というか、これが本来のポータルの使われ方でもありますから。ただ、時間ぎりぎりでくぐろうとすると事故も起こり得るのでご注意を>


 何が起こってるかというと、赤ポータルの先に覗いてるのは、青ポータルの先の部屋の様子。そこには俺の姿も見えていた。


「これって、一方通行?」


<そうです>


「そっか。残念」


<事故を防ぐ為とでも考えて下さい>


 気付けば13にまでスキルレベルは上がっていたので、少しかがんで赤ポータルに腕を通すと、青ポータルの先から腕の先が出ていた。にぎにぎするとちゃんとにぎにぎしていた。

 えいやと思い切ってポータルをくぐると、ちゃんと青ポータルの先へと飛び出していた。意味も無く何度もぐるぐる出入りしてみたけど、やっぱり気になって尋ねてみた。


「なあ、これ、青ポータルの方に入ろうとしてみるとどうなるんだ?」


<物で試してみればいかがでしょう?>


 言われた通り素直に、貯蔵庫に入っていた枝を取り出して、青ポータルの中に差し込もうとしてみると、その先が赤ポータルから出てくる事は無くて、まるで鏡の表面にでも突き当たったように、その先には進めなかった。


「なんか、残念だな。双方向に出入り出来たら、いろいろ便利だろうに」


<あなたが考えているような機能は、将来的には実現されるでしょう>


「将来って、ポータルのレベルが20とか30になったら?」


<さあ。今は非開示の情報です。それより、寝るまでにまだいろいろ試すのでしょう?さっさと用事を済ませて下さい>


「ああ。そうだったな。んじゃ、青ポータルをここにずっとというかしばらく残すにはどうしたらいいんだ?」


<スキルレベル1で持続90秒。そこから1レベル上昇ごとに10秒ずつ延長されて120秒を足して、210秒。滝壺まで降りて死体を回収して廻るには15分ほどもかかるでしょうか>


「確かに、10分だと厳しそうだな」


<では、青ポータルの縁に手を置いて念じて下さい。それなりに気力は消費する事になりますが>


「気力って、MPみたいなもん?」


<おおよそ、そのようなものです>


 俺は、青ポータルの縁に触れて、15、いや20分と念じてみた。ずし、と何か重石が頭に乗ったような感覚と、ちょっとふらつくくらいの目眩がした。


<それが、今の身の丈に合わない事をしようとした時の反動です。覚えておいて下さい>


「わ、わかったよ。んじゃ早速行ってくるか!」


 俺は赤ポータルを消してから再び階段を全速力で駆け下りた。視野中央下には、青ポータルのアイコンぽいものと、設置時間残り14:49と表示されていた。


 あれ、俺の身体能力上がってない?とも思ったけど、今は急いで済ませないといけない事がある!


「収納収納収納収納、また収納ひたすら収納っと」


 崖下に落ちていた狼と蛇の死体を集め終わるまでに10分は余裕でかかり、階段に戻った時には残り2分も無かった。


 階段の壁に赤ポータルを展開。その先に地下室が見えてる事を確認して飛び込むと、ちゃんと地下室に戻れた。


「ただいまっと。これ、下に設置してきたポータルって、どう閉じればいいの?」


<まとめて閉じるのなら、青ポータルの縁に手を触れて、クローズと唱えるか、念じるだけでも消せます>


「んー。じゃ、クローズ。ちゃんと消えたぽいな」


 青ポータルの縁に触りながら唱えると、視野下に出ていた青と赤ポータルと残り時間の表示もまとめて消えていた。


「さて、よーやっと、お楽しみターイム!マイポータル!うほっ、入ってる入ってる!」


 大蛇死体1、蛇死体100、魔狼死体1、狼死体33。水沢山。


「まずは空のペットボトルか。大きめのと小さめので。なあ、蛇の死体から毒だけ取り出せるだろ?」


<画面上の操作で念じたり言葉に発したりしながら分解可能ですが、一度分解すると元には戻せないのでご注意を>


「覚えておくよ。したら、たぶん、蛇の死体タップして、毒をドラッグあんどドロップー、ってできたー!」


 一匹の蛇さんからは100ccも無いくらいだった。ちなみに蛇皮と蛇肉と牙とかにも分解出来た。大きめのペットボトルに大蛇の毒が入ったので、さらに小さめのに分割して、交換所に出して値段を確かめてみると、350CCくらいので、十万くらいの値がついたので即売りしてみた!

 眷属の蛇さん達のは、100ccの100匹分とはいえ、体が潰れてたのも多かったので、1.5リッターのペットボトルが三本分くらいだった。値段としては大蛇の1/5くらい?こちらでも数万円を稼ぎ、続いて狼さんの死体へ。

 丸ごとの場合と、毛皮その他で換算した場合、特に現地通貨の評価が違ってる感じがした。


「なあ、これ、どっちのが高いんだ?てか読めるようにしてもらえないのか?」


<いいですが、タダではできませんね。対価をいただきましょうか>


「対価って、何で支払うんだ?貯蔵庫に入ってる物で支払えるか?」


<魔狼の血で、読めるようにして差し上げましょう>


「てーことは、それなりのお値段て事?」


<それなりの筋には、それなりの値段がつきますね>


 魔狼の死体から血を抜き出して、日本円の評価だと数万円だったけど、異国通貨だと、たぶん、もっと高いみたいだった。


「あのさ。転移させられる度に、同じ世界に現れてる保証ってあるのか?無いなら、転移させられる度に、まぁ同じ世界だったとしても、違う文字とか言葉使ってる場合だって普通にあるよな?」


<おやおや、思ってたよりも気が回るようですね。いいでしょう。魔狼の血で文字が読めるように、大蛇の毒で言葉が通じるようにサービスしようではありませんか>


「大蛇の毒は少しだけ手元に残しておいてもいいか?いつか何かの役に立つかも知れねーし」


<では350ミリリットルのペットボトル1本分の魔狼の血と大蛇の毒は貯蔵庫に残しておきましょう。取引はなされました>


 確かに貯蔵庫からそれらが持ち出されて消えたのと同時に、異国通貨表示が読めるようになった。


「ちなみに通貨の価値観も教えてくれませんかね~?こーやって前振りしてきてくれてるって事は、次のミッションは町中なんだろ?」


<ご名答です>


 んで、聞いた説明まとめると、こんな感じになるらしい。

  半銅貨(20円)→5枚で銅貨1枚(100円)

  銅貨10枚→小銀貨1枚(1000円)

  小銀貨5枚→銀貨1枚(5000円)

  銀貨5枚→小金貨1枚(25000円)

  小金貨4枚→金貨1枚(十万円)

  金貨10枚→白金貨1枚(百万円)

  白金貨100枚→虹金貨1枚(1憶円)

 って感じらしい。

 だから軽食なら銅貨数枚、安宿が小銀貨2-3枚て感じらしい。

 ただ、換金ていうか交換先で当然価値は違ってくるみたい。


「狼の死体まるごとで、日本円なら千円から二千円くらいにしかならんのに、この国の通貨なら安くて小金貨2枚から金貨1枚か。大蛇の死体丸ごとなら、金貨25枚、魔狼の方は金貨45枚か!日本円ならその半分以下か~。利用法がよーわからんていうかUMA愛好家とかなら喜んでもっと高値つけそうだけどなー」

 とか言いつつ、川で汲んだ大量の水を、1.5リットルのペットボトルに入れると、この国の通貨だと半銅貨2枚にしかならなかったのが、日本円だと100円くらいで売れた。


<今日はなるべく早くお休みになる事をオススメします>

.

「明日の朝、日が昇る前に起こして。ていうか目覚ましかってセットするか。何時間後かは出てるから、タイマーのがいいのかな。ここが一日24時間か知らんし」


 視野のタイマー表示では、明日の太陽が昇りきるまでの時間が8時間を切っていたので、交換所から一番安いキッチンタイマーみたいのを買って、枕元にセット。ついでに寝袋も買ったし、現地、次の転移先で無理なく溶け込めるような平民の服や靴なんかも買い揃え、荒事への備えもいくつか買い込んでおいた。


「ちなみにさ、離れたとこ、見えないとこにポータルの設置って出来る?」


<今のあなたでは、若干厳しいでしょうね>


「若干て事はできるんだね。どうやればいいの?」


 ヘルプ機能さんのため息が聞こえた気がした。ていうか、ため息つくヘルプ機能って何なんだろうね。普通に会話してるし。


<川岸まで地下道を掘って下さい。掘りすぎるとここが水没しますのでご注意を>


 そうして視野に、ご親切な矢印が現れたので、その方向と角度でさくさくと掘り進めて、

いったん地表に穴を開けて頭を出した。


<この地表から何者かに襲われないように、土や岩で周囲を覆って下さい。・・・よろしいでしょう。そうしたら、次は、水面を見つめて、出来るだけ離れたところにポータルを設置して下さい>


 そうして、手を伸ばせばぎりぎり川岸から1.3メートルくらい離れたところに赤ポータルを設置できた。けど、


<手を伸ばしてはいけません。その為の練習でしょう?>


「う、そりゃそうだけどさ」


 もったいないので、大型ペットボトル10本分くらいの水を採取してから、いったん消して、川面をじっと見つめながらポータルを設置したけど、さっきよりはだいぶ手前寄りだった。すぐに消して何度か試したけど、あまり距離が伸びなかった。


「なんか、ヒント、無いの?」


<・・・川面から飛び出してる部分、無駄ですよね?>


「そうか!川の深さは1メートルも無いくらいだったから」


 そうして大きさを3割くらい抑えると、ほとんど水面から隠れるくらいの大きさで、これまでより3割くらい遠くに設置できた。さらに大きさを絞って50センチくらいの大きさに押さえると、さらに倍くらい遠くに設置できた。視野の下を見ると、大きさを小さく絞るほど、遠くに設置できて、しかも長持ちするらしかった。


「これなら、たくさん水をゲットできるぜ!」


<離れたところから、その場所を見ずにポータルを設置できるようになるのではなかったのですか?次のミッションでも、きっと役に立つでしょうに>


「・・・そうだったね」


<先ずは、今設置してある、水中のポータルの位置や感覚を確かめて忘れないようにして下さい。次は、その場所を直接は見ずに設置出来るようになる事です>


 夜の暗い水の中にだってポータルは設置できたのだ。ポータルが消えるまでの間、その位置や感覚をじっくりと心の目の中に焼き付けて、時間切れでポータルが消えてから、目を閉じたまま唱えた。


「ポータル」


 そして目を開いて位置を確かめてみると、さっきよりは若干手前にずれてた気はするけど、ほとんど成功していた。成功に気を良くして、何度も試しつつ少しずつ地下通路へと引き下がりながら、同じ事を繰り返し繰り返し試して、最終的には直径5センチくらいのなら地下室に居たまま設置できるようになった。


<おめでとうございます。それでは、次のレベルに向けた練習をしておくべきでしょうね>


「スキルレベル、いつの間にか14になってるね。次は何をすればいい?」


<部屋の真ん中に立ったまま、周囲に任意の形と大きさのポータルを、言葉を発さずに設置、撤去できるようになる事です>


「不意打ちとかに備える為かな?いいねっ!テンション上がるね!?」


 自分で自分のキャラが変わってきてる気もするが、異世界転移なんてものに巻き込まれてそのまんまでいられる方がおかしいと思う。ことにして、練習を続けた。


 言葉にせずにポータルを設置したり消したりするのは、今までも無意識的に出来てたこともあるので、難しくは無かった。形や大きさを変えて離れたところに出したり、中二的に、手の動きに合わせて出したり、あえてそちらをフェイクにするような位置や角度で出したり、体の表面ぎりぎりで出したり、近ければ大きめに出せるのも分かってたから、四角い平面で出して逆U字に平面を曲げて体を覆うように出してみたり。


 さらにイメトレ的演習を重ねていく。自分を攻撃してきてる誰かの背後から青ポータルを出したりとか、正面から攻撃してきた誰かの攻撃を、背後から攻撃してきた誰かへ、その逆のパターンや、ベッドに寝た状態で体の表面で受け止めて、相手の背後から返したりという想定とか。テンションが上がり過ぎてなかなか寝付けず、最後には直径3センチくらいのポータルを川の中に設置して、朝まで保つように維持設定したら、倒れるように眠れましたとさ。


 明け方。地下室から地表への階段を塞いでいた岩とかを収納して、川面で顔を洗いうがいをして、交換所であんぱんと牛乳を手に入れ、流れ落ちる滝の中央に赤ポータルを設置しながら、昇ってくる太陽を見守った。


「うん、今日もいい一日になりそう!」


 学校とか家族の事とかがちらりとでも意識に上らなかったのは、言うまでも無かった。


<それでは、次のミッションの場所を転移します>


「おう、がんがんやっちゃって!」


 てわけで調子に乗っちゃってる自分が転移させられたのは、異世界情緒溢れる、端的にはエルフやドワーフやハーフリングや獣人みたいのがそこかしこに見えて、日本や地球のどこの国でも見た事が無いような、それでいて城壁に囲まれた中世風の町並みの中だった。

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