第7話 他の冒険者全員が辞退した依頼を受ける雑草級冒険者
「娘を取り戻してくれ!」
疑うまでもなく、尋ねるまでもなく、ヘルプ機能さんは教えてくれた。
<彼の依頼を受けて下さい>
いや、流れ的にはわかるよ?でもさ、ほら・・・?
依頼を探していたらしい冒険者の何組かが、駆け込んできたおじさんに話しかけた。
「取り戻してくれって事は、さらわれたのか?」
「どこの誰が相手だ?人数は?」
「報酬はいくらだ?」
頼もしそうな連中に囲まれたおっさんは一瞬表情をほころばせたけど、すぐに引き締めて言った。
「金貨五枚!成功すればさらに五枚上乗せしよう!」
おおおおっ!と周囲からざわめきが起こり、次々に自分達を売り込もうとする連中で喧騒が起きてギルド職員が割って入ったけど、冒険者の中でもひときわ強そうに見えるイケメン長髪な人が改めておじさんに尋ねた。
「そこまで報酬を弾むのなら、きっと厳しい相手なのだろう?」
「そ、それは・・・」
いつの間にか喧騒は止んで、周囲からの注目を集めているのを覚悟したおじさんは言った。
「ドコンザー一家だ」
な、なんだってー!?というリアクションが周囲に広がった。
あれだけ押し寄せていた波が一斉に引いていった。
運が無かったな、とか、あきらめろ、とか、一番強そうなイケメンさんも何か悩んで傍に居る仲間らしい人達と相談してたけど、
「相手が悪いな。助けることは可能かも知れない。だが、その後の復讐で無事に済む保証がどこにも無い。済まないな」
「そ、そんな・・・・。くっ、金貨二十枚ならどうだっ?!」
「いや、金の問題ではない。命の値段とつりあわないだけなんだ」
コワモテのお兄さんやおじさん達も引き上げてしまい、
「金貨五十枚、いや、白金貨一枚でどうだ!?」
その声にぴくりと反応する人達はいたけど、ギルド職員さんも含めて、みんなおじさんの傍から離れていって戻ってはこなかった。
て、事は、いいんだよね、もう?
「おじさん、初めまして。自分はポータルっていうんだ。依頼、受けてあげようか?」
おじさんは、一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべたけど、自分の身なりを見て再び絶望して力なく言った。
「思いやりで言ってくれてるなら、ありがとう。だが、ベテランの冒険者たちでも尻込みする依頼なんだ。君に受けてもらえたとして、君が依頼を達成できるとも、娘を生きて連れて戻れるとも思えない」
「うーん、他の人はこの町をベースに活動してるから難しいってのもあるんだろうけど、自分は今日ここに来たばっかりだし、この依頼の後もまた全然違うとこに行くだろうから、後のことは気にしないで済むんだ」
おじさんの表情が少しだけ明るくなりかけたけど、すぐにかぶりを振ってしまった。
「君がその年ですでに中等以上の冒険者だと言うなら、依頼を受けてもらったかも知れない。君の等級は?」
「ついさっき登録したばかりの初等最下級。雑草級っていうらしいよ」
今度こそ絶望したおじさんは、床に両手両膝をついてしまった。
「まぁでも、中等くらいの腕があるなら受けてもいいんだよね。はい、じゃーみなさんどいてどいてー、ちょっとここら辺のスペース空けてくださいねー!」
俺は受付前のスペース10メートル四方くらいから人を立ち退かせると、床に崩れ落ちたままのおじさんの目の前に、大蛇の死体を出してみた。今度こそ、さっき以上の喧騒がギルド内を満たした。
「ば、馬鹿な!ブラックジャイアントスネークじゃねえか?!」
「あれを、あいつ一人で仕留めただと?」
「しかもあいつ、あれをどっから出しやがった?アイテムボックスだとしてもでかすぎねーか?」
とかなんとか。
気をよくした俺は、その周囲に眷属の蛇さんの死体も積み重ねてみた。
ギルド内はさらに騒がしくなって、さっき受け付けしてくれた老人受付員さんが近くに来てたから、訊いてみた。
「こーいうの倒して持ってきたんだけど、まだ雑草級?」
「い、いや。もし本当に君が倒してきたのなら、少なくとも中等の鉄板級には上がれるだろう」
「他にこーいうのもあるよ?」
スペース的にぎりぎりだけど、魔狼とその眷属の死体も積み重ねてみた。ほとんど天井までぎりぎり一杯って感じかな。
「あれは、イビルナイトウルフ!?」
「その眷属もまとめてって、蛇も狼も一人で倒せる量じゃ無―ぞこれ!?」
「これでもまだ中等?」
「ひ、一人で全部倒したというなら、上等にも、なれる、かも」
「まぁ、そういうのは後でいいや。収納」
いつまでも積み重ねてて良いものじゃないし、蛇の死体ねこばばしようとしてた奴もいたから、全部貯蔵庫に戻した。
目の前に積みあがっていた大蛇や魔狼達の死体が幻の様に消えて呆然としていたおじさんに、俺はもう一度尋ねた。
「それで、依頼受けてあげるって言ってるんだけど、どうする?」
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