第13話 炎竜ゼオルゲル戦 その2 偵察までの下準備

 半日近く斜面を登り続けると、洞窟の入り口のようなものが見えた。それもかなり大きい。


「竜の出入り口かな?」

「たぶん」

「この世界の竜って、魔法も使えるのか?」

「どうだろ。言い伝えに残るようなのには使えるのもいたって聞いてるけど」

「ちなみに、どんな魔法を?」

「伝説に残ってるようなのだと、小さな太陽を生み出して一国を焼き尽くしたとか、海を氷漬けにしてしまったとか」

「今回のミッションの標的は、炎竜ゼオルゲルっていうんだけど、知ってる?」

「ゼオルゲル・・・。どこかで聞いたような・・・、聞いたこと無いような」


 セリカが記憶を手繰っている間に、入り口の目の前まで到達した。

 洞窟というには大きくて整い過ぎていて、幅25メートル、高さは15メートルくらいはありそうだった。


「洞窟っていうより、竜が出入りに使ってる横穴なのかな。上に向かって傾斜してるから、進まないと先がどうなってるかわからない。ただ、鉢合わせした時の逃げ道も無いかも知れない、か」


 セリカはまだぶつぶつと言ってたので、手を引いて少し戻り、出入り口からは死角になる山肌の一角に地下室を築いていった。


「ムオルロン、あれは討伐された筈。キシュエル、あれは毒を吐く緑竜。アズラエルは雷竜・・・」

「ちなみにさ。竜王様みたいな頂点て存在はいるの?」

「居ると言われてるけど、その名前が伝わってきた事は無いわ」


 今はもう地下室を築き終えて、火口方面へ向けてひたすらに上り階段を刻み続けていた。土も岩もいくらあってもいいし、火口ではそこでしか得られない何かが俺を待っていた。


「もしかして竜のねぐらへと直接地下通路を掘っていくつもりなの?」

「いいや?最終的にはそうするかも知れないけど、今はまだ焦る時間じゃないし、自分のこのスキルは使えば使っただけ上がっていくしね」

「じゃあ、今はどこに向かっているの?」

「火口?」

「火山の火口には、溶けた岩が溜まっていて危険だと聞いた事があるけど?」

「だいじょうぶ。そんなところには突っ込まないからさ!」


――信頼してるし!ね?


 視野内に表示される矢印様々であった。


<はぁ・・・。今の内、どんな作戦で挑むのか聞いておいても?>


――とにかく近づかないと話にならないけど、どうせ素直には近づけないんでしょ?


<でしょうね>


――魔法使う竜がいるっていうなら、入り口に監視カメラみたいな侵入を検知できる何かがかけられててもおかしくないしね。


<ノーコメントとしておきます>


 ノーコメントって言ったよ、このヘルプ機能!?

 とは言いつつ、答える事が出来ないという事自体が解答でもあると思えた。


 どうせこのミッションを終えた後もまた無茶なミッションに挑まされるのなら、少しでも役に立ちそうな何かを出来るだけ得ておく事だけが保険になる。そう考えていた。

 途中小休憩を混じえつつも二時間かからないくらいで火口内側の斜面中程に突き抜けた。


「うほっ!すげー眺め!くせーけど」

「確かにすごいわ。溶岩てまさに言葉通りだったのね。って、どうしてそっちへ下り階段を築いていくの?」

「溶岩に用があるから?」

「竜に使うつもり?あまり効果があるとは思えないけど」

「そこは同感だけどな。このミッションの後とかで使い道が出てきてもおかしくないからさ」

「あといくつクリアしたら、あなたの元居た場所というか世界に戻れるかはわからないの?」

「わからない」

「酷い仕打ちね・・・」

「同感だよ」


 俺はさくっと溶岩の縁近くまでの階段通路を火口内の斜面に築くと、縁の一隅を下方面へ削り、そちらへ溶岩が流れ落ちるような間口を整え、赤ポータルを設置して溶岩を受け止めて貯蔵庫へと溜めていった。

 大きさは30センチくらいで、なるべく長時間保つように設定を施して、斜面を登っていき、登り口との折り返し地点で、今度は横方向に、火口内斜面の円周に塹壕を刻んでいった。


「これは、何の為に?」

「なんとなくだけど、あの山肌にあった入り口、竜がそのまま使ってるとは思えなくてね。だから、本当の出入り口を探しておこうかな、と」


 それはあっけないくらいすぐに見つかった。


「さっき山肌で見た横穴?の十倍近く大きくない?」

「直径100メートルくらいは余裕でありそうだよね・・・」

「それほど巨大な竜となれば、名のある古竜なのでしょうけど・・・」


 さて、先ずは普通に覗いてみようか。

 視力を2倍に上げるらしい薬を飲んでみて・・・。おおっ、確かにいつもより倍は遠くまではっきりと見える感じ!それでいて手元近くの視界がぼやけるという事も無かった。

 そうして視界を慣らしてから、匍匐ほふく前進で穴の縁へ。下をのぞき込むと、おおよそ50メートル下くらいから大きな空洞が広がっているように見えた。

 この火口斜面への飛び出し口の直下にある岩場はたぶん離陸着陸に使うスペース。その奥へと続いてるのが居住スペースで、金銀財宝の山かも知れないきらきらした何かの上から発着場へ伸びてきてる尻尾は30メートルくらいはありそうだった。


 俺はじっくりと眼下の情景を目に焼き付けてから、ずりずりと穴の縁から遠ざかって、自分の掘った火口内斜面へと続く階段にまで戻った。


「思ってたより、ずっと大きかった。尻尾だけで30メートルって事は、胴体とか首や頭含めたら、もしかして100メートルに届くのかも」

「・・・それでも、やるのね?」

「逃げても、逃げられないからね」

「・・・もしそうだとして、どう戦うの?」

「小さな飛竜ならともかく、それだけ大きな竜が飛び回れるようなスペースは無いように見えた。何かしくじれば、うまくいってても飛んで逃げられちゃう。そしたらミッションは失敗だ」

「失敗すると、どうなってしまうの?」

「さあね。ろくでもない事にならなそうなのは確かだよ。で。どう戦うか。理想としては、段階的に削っていきたい。まずは翼から。飛ぶ能力を奪えたら、後は何とでもなると思う」

「竜の吐息ブレスは?」

「セリカの火の玉を処理した時と同じ様に対処すれば問題無いかな」

「何か予想外の魔法使ってきたら?」

「手に負えない状況になりそうなら、すぐに山の中腹に作った地下室に逃げ込むよ」

「間に合うの?」

「たぶんね。ただ、何度も通じないだろうから、その間に決定打を入れないといけない」

「・・・私に出来る事はある?」

「とりあえず、今この場で幽体離脱薬使ってみるから、何かあったらなるべく下まで体を運んで?」

「わかった。やってみる」

「よろしくー!」


 貯蔵庫から取り出した幽体離脱薬。偵察用手段なら、ドローンを購入して、という選択肢もあったのだけど、音とかで検知されにくいのはこちら、という事で、濁った紫色のどろどろな毒にしか見えない薬を瓶から一気飲みして、俺はその場に昏倒した。


 そして、気がつくと、セリカに揺すられてる自分の体を少し上空から見下ろしていた。

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