第32話 セリカの故郷への里帰り その3 猫魔獣との対決
エルフは意固地で、いざ何かあっても中々物事を決められないとかテンプレもあるらしいけど、セリカの両親はこの里でもそれなりのご意見番だったらしくて、おそらくはスムーズに住人を里の広場に集めてくれた。
本当は木の上にある避難所めいた建物の方が防御力は高いのかも知れないけれど、本当の意味で閉じこもってしまうと持久戦になってしまうし、自分のスキル的にも屋外の方がたぶん有利になるという計算もあった。
ゼオルゲルからもらった探知魔法は、自分を中心とした直径1キロの範囲の存在を探知できる。もちろん、上下の範囲もカバーするし、土や岩といった非生物を探知の対象から除外もできる。つまり自分がやってた下準備作業はやっぱり見逃してもらってたんだなぁとしみじみするものを感じつつ、勇者からもらったスキルをちびちびとでも育つつつもあった。
「倒せるのかね?」
そう尋ねてきたのは、セリカのお父さんのミシュアさん。
「追い払うだけなら、たぶんもっと簡単なんですけどね」
「それはダメよ。倒せるのなら、倒しておかないと」
自らを危険に晒してでも危険を取り除く発言をしたのは、おっとりしてるように見えるセリカのお母さんのルルシアさん。エルフの名前の付け方は、自分の名前ーお父さんの名前ーお父さんの部族の名前ーお母さんの名前ーお母さんの部族の名前、とかになるので、長ったらしくなるらしい。ちなみに部族によって男親と女親の名前と部族の順序の後先は変わるらしく、この里の場合はお母さんの方が前に来るそうな。前後の順に特に深い意味は無くて、だから略す時も、自分の名前ー母か父の名前ー父か母の名前になるんだって。
それはともかく。
自分は同感だとうなずいてから、発言した。
「相手の位置は捉えてます。ただ、一度シトメ損なってるんで、次しくじると、たぶん倒せなくとも逃げられてしまう可能性があります」
自分は今エルフ語でしゃべっているらしく、だったら自分が囮になるという勇ましい立候補がいくつもあって、そこにはセリカもその両親も含まれていた。
けど、全部却下した。
「俺がいきます。皆さんは、防御結界みたいな魔法があるなら、それを張って待ってて下さい」
セリカ自身もそうだけど、その連れ添いだという自分についても、口々に噂だけで情報が広まってるみたいだけど気にしない。
里での生活に飽きたエルフが外に出て、伴侶を得て帰ってくるというのも珍しくないみたいだし?
「私も一緒に行く!」
というのはセリカ。申し出としてはもちろん嬉しいんだけど、
「ダメ。俺を除けばたぶん一番強くて、あいつ倒せる可能性高いのはセリカだし」
申し出は却下。ただし、抱き寄せておでこにちゅっとする事で、ご機嫌メーターの低下は半分程度で済んだらしい。
「ほら、俺は不死だし?」
「死んだら、ただじゃおかないからね?」
とか脅されて、俺は里のエルフ達から離れて、俺は猫魔獣へと直線的に近づいていった。
さすがに、探知魔法で探知されている事は
もしそうだったら、さすがにお手上げだったかも知れない。距離が縮まればまた違ったとしても。
ただ、一箇所に集中しすぎたエルフ達を相手に、どう手出ししたものか、猫魔獣も考えあぐねてたらしいし、集団の中でずばぬけて要注意な俺が一人向かってきたのも好機と捉えたらしい。隠密と回避に特化した奴だから、何かあっても絶対に逃げられると踏んでいたのだろう。
エルフ達だけが相手だったら、その判断はたぶん間違いじゃなかった。どんな歴戦のエルフが相手でも、奴は逃げおおせていただろう。
およそ100メートルの距離を空けて、俺と奴は対時した。間には直径数メートル以上の幹を持つ木々が何本も生えてて、直接の視野は確保されていないけれど、お互いが互いを感知できる距離だった。
ふと、猫魔獣の気配が探知魔法の反応から消えた。
ステルスモードに入ったって事かと想像した。
首を跳ね飛ばされても生きてるだろうけど、頭部を貪り食われて違う頭が生えてきてもそれは今までの俺自身と同じ存在と言えるのだろうかと、哲学的な疑問が浮かんできたりもした。
それはさておき。
この戦闘は、勇者との戦闘をズルで避けた自分への補習みたいなものとして捉える事にした。
まぁそれでも勇者からもらった危険察知スキルのお世話になったりはするんだけどね!
しゃがむ。わずかに遅れて頭上を風の刃が通過し、毛先の何本かを短くされた。
続けてさっきのとは逆に背後から別の風の刃が迫った。地を這うような低さのそれをほんの僅かに地面から跳ねてかわした。
宙に浮いた状態。つまり普通ならそこから落ちるか、地面に足を着けるまで身動きの大半を封じられた筈の俺の頭上から、奴は見えない爪撃で頭を跳ね飛ばそうとしてきた。俺は危険を察知した方向へ最小限の大きさの赤ポータルを展開。奴の右手の先を飲み込んでそのままクローズして切断しようとしたけど、超反応で手を引っ込めて空振りさせられた。
肉を噛ませて骨を断つ的なオプションもあったのだけれど、出し惜しみしたのをちょっぴりと後悔しつつ、相手の体の位置と体勢をおおまかに把握、頭上を右から左に薙ぐように次元斬を放ってみた。相手はその次元の断裂の刃の軌道を空中で避けた。自分から観て面側か背中側かのどちらかしか避ける方向は無くて、どちらにも大きめの赤ポータルを挟み込むように展開。蚊を両手で叩くように打ち合わせてクローズ!
だけど猫魔獣は逃げ場が無かった筈のポータル・サンドウィッチ攻撃をどうやってだか回避した。短転移でも持ってるのかな。
ただし、姿を消しながらのステルスモードは無呼吸運動みたいなものらしく、一連の回避行動が奴にとっても無茶の連続だったせいか、左前方数メートル先に姿を現した。
そこで四本の足下に赤ポータルを開いてみたけど、足の筋力ではなく、海老が水中を急速後退するように空間を後方へと退避。
逃げ道を塞ぐように青ポータルを展開し次元斬を十字に放つ。ただの海老ならそのまま四分割された筈が、またしても短転移で目の前に現れ、俺の頭部をあんぐりと開いたお口で首元から刈り取ろうとしてきた。
俺が相手じゃなければ成功していただろう。
セリカでもどんな魔法使いが相手でも、普通は相手の口に頭部が飲み込まれる瞬間に無詠唱でも魔法を放つことなんて出来ない。だいたいにおいて、魔法って杖の先とか手の先とか任意の空間から放つから、そんな生死を分ける一瞬にどこから放つとか考える間に、頭を食い千切られて終わっていただろう。食われてきたエルフ達はたぶんそうやって終わってきたのだろうし。
でも、だからこそ、心の準備をしておけた。彼らの犠牲を活かせたとも言える。
絶対の自信を持っていたであろう、短転移からの頭かじり取り戦法を破ったというか無効化したのは、当然、ポータル。
頭部から首元までの全周を覆うように出したポータルで相手の両顎を受け止めてからクローズ。同時に相手の頚椎に向けて次元斬を放った。俺の頭を歯無しで
俺は巨大な躯を収納し、返り血などの汚れを飛ばしてから、セリカ達の元に戻って告げた。
「害獣は倒しました。もう、心配する事はありません」
そして歓声が森の狭間に爆発した。
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