日常 26



「あぁー、あいつやったんか! 小学生やと思ったぞ。あいつ、変な奴ちゃなぁ。聞き慣れん事言っとったわ」


「んっ? 聞きなれない事?」


「せや。ひーりん……なんとか?」


「はぇ?」



 よし、意味が分からない。話題を変えよう。



「でも、突然すごい突風だったね」



 変な緊張してるせいか、重言してる事に気付いていない。馬から落馬のような言葉。



「せやな。二人して飛ばされとったわ」


「怪我しなかった?」


「葉月は傷だらけやったな。擦り傷がえげつない事なっとったわ」



 怪我? と透花は星空を見上げる。目立った傷どころかかすり傷一つないように思えたが。もしかしたら別人なのかもしれない。



「おいちゃん、お好み焼き二つ」


「アイヨー。二つで千円な」



 財布を取り出す透花を手で遮り、優斗は封筒から千円取り出す。



「えっ、なんで? いいのに……」


「今日だけは……せめて今日だけは、俺に出させてくれ」


「どうして?」


「透花が、いつも俺のために気を遣ってくれてるの、なんとなく分かっとったんや。俺のために美容院行って、俺のために外見整えて、俺のために細かいところまでボディメンテして、俺のために他の男からの告白も断って……」


 透花は、自分が恥ずかしくなった。


 ここまで理解してくれているのに、自分は何も気付いていなかったなんて。



「せやからな、俺から言うわ。……透花、俺と付き合ってくれ。必ずお前を幸せにしてみせる。せやから、この先一生、ずっと俺の側にいてくれ」



 真っすぐ優斗に見つめられる。そんな台詞に、『はい』以外の言葉はない。そのはずだったのに、その言葉が出てこない。ただただ彼女は嗚咽交じりの涙と共に、頭を縦に振る事しか出来なかった。


 ずっと不安だった。もしかしたら自分に興味なんてないのかもしれないと。どんなに自分を磨いても、優斗にずっと振り向いてもらえないのかもしれないと。


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