日常 19



 なんだか、見ていて面白い。あれだけ大見得を切ってお化け屋敷に入ったのに。



「離れないでね、透花ちゃん。危ないから」


「離れないでいてほしいんですね、怖いから」


「……そうとも言う」



 薄暗さが増してきて、とうとう真っ暗になってしまった。



「ねぇ、何も見えないよ! どうしよう」


「そこに電気とかあるみたいですよ。ほら、スイッチ」


「あっ、ほんとだ」



『暗いので電気をつけて進んで下さい』


 立て札が近くにあり、かすかな光でそう見える。


 ──ぱちっ



「比ィ嗚呼亜あぁぁ!」



 それは電気ではなかった。


 スイッチを挟んだ壁の穴から出てくる青白く発光した二本の手が、葉月の手に絡まってきた。笑いをこらえるのに必死な透花。 



「もうやだ! なにこれ!」


「お化け屋敷だと思いますけど?」



 意外と早く拒否反応が出てきた。お互い別々の意味で声が震えてる。鼻をすすっている葉月の気配に、透花はやりすぎたと感じた。



「先導しましょうか?」


「……やだ。もう進みたくないよぉ」


「えぇ……」



 まさかの脱落。うずくまって泣いてしまった。



「戻ります?」


「イヤ……。戻るのも怖い」



 困った。非常脱出口なんてあるのだろうか。それにしても、こんなお化け屋敷で泣くのは小学校低学年くらいまでだと思っていたが。


 必死に腕にしがみついてくる葉月が、たまらなく愛おしく感じた。


 頭をよしよしと撫で、一言『大丈夫ですよ』と言い、付け加えた。



「私が護りますからね」



 とはいえ、本当に怖くなったらどうなるのだろうか。


 長い長い沈黙の後に、素直に頷いている葉月の手を引く。


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