日常 18


「え、暇つぶしと好奇心だよ? 私ってお化け屋敷、今までに一回も入ったことがないんだ!」



 大きな目を輝かせて今度は逆に透花を引っ張っていく。興奮しすぎだ。鼻息が荒い。



「それは、私も同じです」



 怖いから、という理由で。しょーがないなぁ、もう。



「おじさん! 高校生二人だよ!」


【さぁ入った入った! 女子高生も勇気を出して挑戦や! そこの大人! 見てみぬふりかい? 助けてやんなァ! 高校生二人で二千円やで。はいはい毎度ー】 



 葉月が先導する。


『泥よけマットで砂を落としてご入場ください』と書いてあり、葉月は素直に泥よけマットに足を踏み入れた。



 ──ガタン!



「ぎゃあぁぁぁ!」



 どうやらトラップだったようだ。三角頭巾を額に巻いた死装束の首吊り死体が天井から落ちてきた。


 顔が引きつっている葉月に対し、透花はぽかんと口を開けている。



「や、やめようか、透花ちゃん……」


「え? まだ入口ですよ?」



 ずるずると天井に戻っていくチャチな作りの【お化け】を見上げながら、比較的冷静な透花は腰の抜けた葉月の手を取る。


 どうしてお化け屋敷が苦手だと思い込んでいたんだろう。これなら、ただの大きなびっくり箱だ。学園祭の延長線上のようなもの。


 手は繋いでいるものの、葉月の足がピタリと止まった。入り口までの威勢がまるっきり無くなっている。



「先に行きましょうか?」


「い、いい。ダイジョブ……」



 これなら普通に行けそう。


 じっとりと汗ばむ葉月の手。薄暗い通路の中、ただ繋いだ手だけが葉月にとっては救いだった。


 もう無いよね? 足で踏むようなトラップは無いよね? そう言いたげな先導者。じりじりとすり足で進む彼女の後ろから、透花は普通に歩いて葉月の様子を見ていた。


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