日常 17

「へ? いえ、別にそんな大きな物は作ってないと思いますけど?」


「ふぅん……。だったら、普通に返事くらいしてもいいと思うんだけどね」



 どうしよう、何か突然変な事言い出した。透花の顔がそう言っている。


 住宅街から出ると、すでに縁日の屋台が軒を連ねていることに気付く。最初に飛び込んできたのが、お化け屋敷。透花の顔が固まった。



【ほら! ほらほらほらほら! お化けが呼んどるぞ! さぁ入った入った入った入った! どなたも続いてご入場いただけまァす! はい、どうぞォ!  はい、どうぞォ!】



 だみ声のおじさんがマイクを片手に舌を巻いている。



「ねぇ、透花ちゃん」



 袖をくいっと引っ張る葉月。



「あっ、りんご飴の屋台がありますよ」


「透花ちゃんてば」



 ぐいぐい。



「お好み焼きもありますね」


「ねぇねぇ、お化け屋敷……」


「アウトレット行きましょうか」



 お化け屋敷にて寺で鳴るような大徳寺りんの重圧な音がコーンと響く中、あくまで白を切る様子の透花は、視線を一切お化け屋敷に移そうともせずにアウトレットへ向かって歩き出した。



「やっぱり、だめ? 嫌なの? 透花ちゃん」


「い、いい、嫌? ななな、何がですか? おおお化けとか、そ、そんなの、い、い、いるわけないじゃないですか」


「じゃあ一緒に入ろう」


「嫌! じゃなくって、やだ!」



 どっちも同じ言葉だ。



「なんでお金払って罰ゲーム受けなきゃいけないんですか!」



 ぷりぷり怒りながら葉月を引きずっていく。



「大丈夫。私が支払うから」


「ちが……そういう問題でもなくって……!」


「いいじゃん、別に。待ち合わせの時間まで、まだしばらくあるんでしょ?」


「ありますけど……」


「はい決定!」


「もう……! 分かりました。分かりましたけど……あなたの動機が全く分かりません」


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