日常 6
私は、お母さんから買ってもらったキーホルダーのぬいぐるみを取られてしまって、泣きながら取り返そうとしていました。
『うるせぇ! ブスのくせに、テディベアとか持ってんじゃねぇよ』
どうしていじめっ子の男子がテディベアとかいう言葉を知っているのか、それは今となっても分かりません。ですが、三人の間でキーホルダーを投げられて、からかわれ、思い出の品がボロボロになった頃、関西弁の少年が現れたんです。
少年は、言葉数少なく、いじめっ子に殴りかかっていました。
私は、呆然と見ている事しか出来ませんでした。たった一人で、三人相手に殴り合う少年は修羅のような眼をしていたんです。
ですけど……ちょっぴり怖かったけど、私は、彼に救われました。
いじめっ子を撃退した後、倒れた彼に向って走り寄り、傷の手当てをしました。いつもいじめられてましたからね。消毒液とか絆創膏は、ランドセルの中に入れてたんです。
『どうして、助けてくれたの?』
『ただ、弱いもんいじめがムカついたんや。泣いとる女を三人でもっと泣かせて、ただただ見てて気分が悪かったんや。この子……ボロボロになってもうたな。堪忍な』
「そう言って取り返してくれたのが、このテディベアです」
透花は、そっと鞄から手のひらサイズのテディベアを取り出した。五年前のもの。泥などが付着していた痕があったが、綺麗にされている。が、取れかけた耳などはそのままだ。
「時間にして、三十分あったかどうか……。私は、その日以来、当時名前も知らない優斗に対して、とても好意を持ったんです」
「えっ……? じゃあ、透花ちゃんは青木さんを追いかけてこの大阪に引っ越してきたの?」
「大阪に引っ越したのは、父の仕事の都合です。本当に偶然としか言いようがありません」
「青木さんは、知ってるの? 透花ちゃんの事」
「多分、覚えてないと思います。ほとんど私の顔とか見てなかったと思うし」
突然ガタンとカウンター席を立ち上がった葉月に対し、周囲が小さな悲鳴をあげる。
「手伝うよ!」
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