日常 25

 残りの十メートルを全力疾走した時、聞き覚えのある声が外から聞こえた。



「おおきにな、優斗」



 出口から出たところで、小さく笑っているだみ声のおじさんから声がかかっていた。



「……えっ? 優斗?」


「かまへんでー、おっちゃん」



 すぽっとリアルなチョンマゲマスクを脱いだ優斗。訳が分からない。



「ほら、嬢ちゃん脅かしてくれた追加のバイト代や。遊んできぃ」


「……バイト?」



 封筒を受け取る優斗に、切れ長になった目を向ける。



「わはー。すまんな、透花。今日一日、ずっとバイトやっとったんや」


「へぇ。そう……」



 透花の圧力が溢れ出ている。



「じゃあつまり、このお化け屋敷の全てのトラップを知っておきながら、わざと驚いてたわけ?」


「テッテレー」



 『ドッキリ大成功!』という段ボールと棒きれで作った貧乏くさくて簡易的な小道具を使われて、彼女は思わず失笑する。この文字、優斗の文字だ。この時の為にせっせと作ったのかもしれない。そう考えると、ちょっとかわいい。



「そう怒んなや。お好み焼きおごったるから」



 つられて優斗も含み笑い。



「たこ焼きじゃないの?」


「たこ焼きィ? そんなん家で作れるやろ。今度ウチでタコパやんねん。来ぃや。下準備係、材料買う係、焼く係、どれがええ?」


「材料買う係……」



 発明家の作るたこ焼き。気になるところだが、変な材料を入れられて体調不良を起こしても困るので材料と言ってみた。もちろん、疑っているわけではない。ちょっと。ほんのちょびーっと心配なだけだ。



「ところで、さっきのお友達はどうしたんや?」



 お化け屋敷の正面にあるお好み焼き屋さんに並びながら、透花に団扇を向けている。



「葉月の事?」


「葉月?」


「ほら、昨日紹介したじゃない。転校生。葉月なら、用事があるって帰っていったよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る