日常 13

「ン。透花ちゃん。いらっしゃい」


「え、葉月ちゃん?」



 普通に小学生かと思ってしまった。しかし、透花を見上げる顔は昨日出会った葉月そのもの。



「暑いね。飲むでしょ?」



 どうやら、コンビニでジュースを買ってきてくれたらしい。



「ありがとう! いいの?」


「いいよ。早く涼みに行こうよ」



 解錠し、手招きしてくれている。


 だいぶ古いマンション。セキュリティ面で不安だ。自分が住むわけではないのだが。


 エレベーターで上階へ行き、歩いてしばらくして立ち止まる。



「ここだよ」


「おじゃまし……マス……」



 ニコニコと笑顔でドアから覗いた顔が、どんどん真顔になっていった。



「ここ? 本当に?」


「んっ? そうだけど?」



 何もない。部屋は趣味を映し出す空間。どんな物があるのかと楽しみにしていたのだが、冗談だと思うくらいに、本当に何もない。ただ一つを除いて。透花の影が、少し怯えているように見えた。



「あれだけ……ですか?」



 部屋の片隅に、ミラー付ドレッサーテーブルが置かれているだけ。



「そう……だけど。何か変かな?」


「えっ? いえ……」



 変といえば、とてつもなく変だ。


 普通だったら、ベッドも置いてあり食事用のテーブルなども置かれてあるだろう。本当に生活しているのであれば、調理器具などもあるはずだし、ゴミも普通に出てくるはずだ。


 それに比べ、この部屋はだいぶ一般人とはかけ離れている。


 ミラー付ドレッサーテーブルしかないのだ。三種の神器であるテレビ、冷蔵庫、洗濯機さえ存在しない。


 謎だ謎だとは思っていたが、ますます謎に包まれる。



「どんな生活してるんですか?」


「……ごめんね、荷物、まだ届いてなくってさ。今のところは、これだけなんだよね」


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