日常 14

「あっ、そうなんですね」



 それなら納得だ、と言わんばかりの透花。ほっと胸をなでおろし、葉月につられて玄関に一歩踏み入れた。とはいえ、普通炊飯器くらいは……と、まだ考えているようだが。


 その途端、魂がブレてしまうような感覚に陥る。ネガが反転したような強い視覚的異常を起こし、目の前の空間が歪みフラついてしまった。



「なに、これ」


「大丈夫? どうしたの?」


「だ、大丈夫です。何も、心配ないから……」



 膝から崩れ落ちた透花に優しく手を差し伸べる。ふと、葉月の顔を見た彼女は、とても悲しそうな顔をしていた。その瞳に対し、昨日の事を鮮明に思い出す。



「葉月ちゃん、どうして、そんなに悲しい顔をしてるの?」


「えっ?」


「今、お別れの時みたいな顔してました」


「き、気のせいだよ、気のせい。さ、中に入って! ジュースでも飲もうよ」



 突然、わざとらしいくらいに笑顔になった葉月に対し、頭から疑問符が取れない。



「ごめんね、座布団なくってさ。適当に座って」



 どっちがいい? と言わんばかりに葉月は小首を傾げて両手で各ジュースを出してくる。



「ありがとう」



 いちごオレを貰って、綺麗なフローリングにごろんと寝転がる。そんな彼女の視線の先。天井に見慣れない何かが貼ってあった。長方形の紙のようなものだが、電気が無くて詳しくは見えない。そして静かに、静かに目を閉じるのだった。



「疲れてるの?」



 葉月の言葉にハッと我に返り、飛び起きた。少し眠っていたようで、葉月の飲み物がずいぶん減っていた。



「今から着てみようか」



 そう言いつつ、葉月がクローゼットから一つの大きな桐衣装箱を手に、透花の目の前に正座する。



「それは?」

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