日常 15
「約束のブツだよ。開けてみて」
つまり、浴衣らしい。コキュコキュと小さな喉を鳴らして、いちごオレを飲み干し、葉月と同様に正座をして桐の衣装ケースを開けてみた。するとそこには、薄いピンク色の浴衣が入っていた。薔薇の柄で、碧い色をした帯も入っている。
「これは……」
「立って。着付けてあげるね」
そして……プロかと思ってしまうほど手際よく着付けてくれている葉月。サイズもぴったりだ。
「すごい……。教室とか通ってたんですか?」
「ううん。完全自己流だよ。何回も何回も同じ人に浴衣を着せてたら、上手になっちゃったんだ」
「そうなんですね。幸せだっただろうな、その人」
「……うん。そう思ってくれてるのなら、すごく嬉しい」
「お友達なんですか?」
「最高の友達」
「よく会ってるんですか?」
「どうかな。会ってるといえば、会ってるのかも。……はい、終わり!」
ぽんと帯を叩かれて、終了の合図をされた。葉月は俯いたまま、友達の事を多く語る事はなかった。
そんな葉月が少し震えている。もじもじしている。
「どうしたんですか?」
「えっ? いや……」
チラリと視線を横にずらし、言い辛そうな顔で言葉をひねり出した。
「トイレ?」
透花が聞くと、子供のようにこくっと頷いている。
「このまま待ってて。すぐ戻るから」
一気飲みでもしたのだろうか。トイレに駆け込んだ彼女を見送った。そんな時、一瞬視線をズラした方角が気になり透花はその方角へ視線を向ける。
ミラー付ドレッサーテーブルが配置されてあった。なんだか妙に気になる。
無意識で近付くと、ガラステーブルの下に、一枚の手紙が入っている事に気が付いた。
可愛らしい花柄の封筒で、思わず手に取ってしまう。裏には、
【桃瀬透花様】
と、見慣れた筆跡で書かれてあった。
──これ、私の文字……?
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