日常 16

 量産型女子系フォントだが、明らかに自分の文字だと分かる。だがこんな封筒に見覚えがない。自分で使っていそうな気はするが。しかし書いた記憶がない。自分宛ての手紙を、なぜ葉月が持っているのだろう。意味が分からない。


 ツッコミどころ満載で、どこから何を理解すればいいのだろうか。光に当ててみると、中に手紙が入っているような影が見えた。


 気になる。すっごい気になる。


 開けようか。どうしよう。自分宛ての手紙だもんね。だけど、勝手に漁ったような形になってしまうのが嫌だ。詮索するのは嫌われる。けど、読みたい。ちょっとくらいなら……


 封筒を開けようとした、ちょうどその時。トイレの流水音が聞こえて目玉と心臓が飛び出そうになる。高齢者なら9割方入れ歯が飛び出していただろう。


 透花は、慌てて手紙を元の場所に戻し、元いた場所に戻った。



「さ、行こうか」



 間一髪間に合ったらしい。葉月は何も気付くことなく、炎天下へと誘うのだった。



「具合、大丈夫?」



 少し視線を上げた葉月は、透花を心配していた。


 真夏日。街行く老若男女が透花の姿を見て次々と振り返っていく。元々顔立ちはモデルのように整っているうえに、素行が良いため、誰にでも好かれる傾向にあるようだ。一言でいえば、オーラが違う。



「はい。ただ、ちょっと暑いですね」


「アウトレット行こう。時間まで、色々見て回らない?」



 下駄が乾いた音で鳴る。飛行場が周りにあるからなのか、この辺りにはアウトレットしか見て回る所がないのだ。そしてしばらく、会話がない。



「……ところでさ、青木さんから連絡来た?」



 伏目で空元気な透花を見て、聞きづらそうに訊ねてみる。



「いえ、まだです……」


「まったく、何やってんだろ。私が男だったら絶対放っておかないのに」


「よくあるんです、こういう事。研究に夢中になって、丸一日くらい連絡が来なかったり」


「青木さんって、巨大なロボット作ってたり宇宙戦艦とか作ってたり、海底神殿とか調査してたりする?」

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