日常? 37

『──って事でさ……いつか必ず、また会おうよ。麻衣も待ってるし』



 考え事をしてしまって、途中の話を聞きそびれてしまった。



「しかばねさんも……?」



 違う、しかばねさんじゃない。赤羽あかばねさんだ。これを聞かれたら、また【ももちィ、またわざと言ってんべなぁ!?】ってぷりぷり怒られる。



「──えっ」



 キンキンと甲高い高校生の声が脳裏に張り付いていた。その声を思い出した刹那、突発的に涙腺が崩壊して、いたたまれない気持ちになる。


 ずっと一緒にいた。みんな友達だった。あの津軽弁のマスコット的なイジられ隊長、赤羽あかばね麻衣まいも、攻撃力特化のチームの守護神、金色のknightである黄志きし夏那美かなみも。知ってる。知ってるのに……



「思い出せない……。どうして……?」



 夢の一欠片のようなフワフワとしたイメージしかない。ただ、その記憶はあまりにも大切で、苦渋の決断の末に手放してしまった。思い出そうともがけばもがく程、遠くに行ってしまう。


 遠く? いや、ちがう。ここにいる。メンバーの一人、緑川葉月も。さっき葉月に友達の名前を教えてもらったのに、なぜ思い出せなかったんだろう? そして最後にもう一人、誰かいたような気がする。



「……は」



 づき、と名前を呼びたくなったが、とても気持ちよさそうに眠っていたので言葉をしまい込む。明日聞けばいい。個人的にとてももやもやしているが、明日になれば分かる事だ。今は、体力回復を優先させよう。


 透花が手紙を開けたことで苦しんでいたことも知らず、葉月はただただひたすらベッドの上で眠っていた。


 考えていても仕方がないので、透花は封筒に入っている手紙を読んでみることにした。


 たった1枚の紙。しかし、とっても大事なもののような気がする。


 固唾を飲む音がとても大きく聞こえてしまう。深夜だと言うのに、鼓動の音が兄のバイクのマフラーよりもうるさく聞こえる。


 もう迷いはしない。もう1人の自分からの手紙、読んでみよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る