日常? 36

 封筒を手にして再度まじまじと見つめる。一度信じたとはいえ、信じがたい。別の世界? 仮にそれが本当だとしたら、どうやって自分を感知したのだろう。


 勉強机に座って、丁寧にハサミを入れていく。パチンと端を切り離した瞬間、ひどく後悔した。ドクンと非常に大きく鼓動が揺れる。



 ──知っている。私は、この手紙の事を知っている。



 悪寒と共に、凄まじいプレッシャー、正気じゃいられないくらいのデジャヴ、口からぶちまけそうになる絶望が押し寄せてくる。平穏に生きたければ、絶対に関わらない方がいい。読まなければならない理由などどこにもない。


 しかし、読まなければいけない気がした。恐ろしい過去の……いや、知り得ない自分の記憶。


 動けなくなった手を深呼吸にて落ち着かせる。リラックスして、手紙を一気に引き抜いた。同時に、四角い何かが落ちてくる。



「……?」



 疑問に思っても恐怖で声に出せずにいる。震える手でそれを拾うと、見たことがない物だった。写真とも違う。しかし、写真によく似たもの。それには見知らぬ女の子が映っている。金髪ベースの茶髪メッシュ。私服でもない、鎧でもない戦いに特化された独特な戦闘服という事は分かる。腰まで伸びる長い長いポニーテール。目隠しのように鼻のてっぺんまで真っ黒な布で覆われた顔は小さな桜色の唇だけ見せて寂しそうに微笑んでいた。一見、悪にしか見えないこの人は……



「この人たしか……金色こんじきknightナイト



 ハッと自分の口をおさえた。何? 誰、金色のknightって。



『久しぶりね、とーか。っていっても、今のアンタは──』



 驚いて、思わずメンコの達人よろしくバシィと床へと叩きつけてしまう。



「び、びっくりしたぁ」



 まさか視線が合ったであろう途端に写真が動き出すとは。だけど確信した。この技術はまだこの地球上には存在していない。そして、知らない確かな記憶。葉月の言う通り、確実に別の世界は存在する。ただ、それを思い出せない。

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