日常? 35
透花はスッと立ち上がり、帯に手を掛ける。
「浴衣ありがとう。葉月、一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「んっ?」
「今日、私の家に泊まりに来てくれない?」
「えっ?」
いそいそと帯を外している葉月の手が止まった。
初めて口に歯ブラシを突っ込まれた猫のリアクションをしている葉月の顔。放心状態でぽかんと口が開いている。
「ど、どうしたの?」
「い、いや。お泊りに誘われるの初めてだったから、びっくりしちゃった」
小学校、中学校でそういう経験は無かったのだろうか。
「そうなんだね。今日はいっぱい話そうよ。もう一人の私の話とか、色々聞きたいなぁ」
「うん! いっぱい話そ!」
──それから。
帰る道中も、帰ってからも、話題は尽きない。五時限の話というよりかは、別の世界の透花自身の話や付き合ってる友達の事だったりする。
知らない名前も沢山出てきた。ただ、優斗のことに関しては濁されたが。
一緒に犬の散歩をして、お風呂を貸して、母の作った夕食を摂りながら談笑し、一緒の布団に潜る葉月。
「……いい世界だね、こっちは。ずっと居座りたくなっちゃう」
「そう? じゃあ、ずっと一緒にいる?」
「そういうわけにはいかないよ。あっちの世界で待ってる人もいるし、やらなきゃいけない事もいっぱいある。だから……」
その後の言葉が聞こえなかった。代わりに、寝息が聞こえる。
よっぽど疲れていたのか、布団に入ったら30秒以内に眠れるのかは知らないが、気が付いたら葉月は毛布に包まって眠っていた。エアコンを消したら暑くて飛び起きるのだろうか、という透花のダークな微笑みを受けながら。
キンッキンに冷えた部屋で、明日には消えてしまうだろう友の穏やかな寝顔を見つめる。
そういえば、だ。この子から貰った手紙が気になってきた。どれくらいかというと、『とっても』気になっている。
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