日常? 34
葉月が床に落ちている紙を小さな指先で軽くつまんだ。それは──
「これ、お札?」
「ご名答」
「……」
「ごめんね、とーか。嘘ついちゃった。この部屋、実は私のアパートじゃないんだ。Es討伐……悪霊退治を依頼されて、少しだけ住まわせてもらってたの。だから、ここに物はないんだよ。すぐ出ていくつもりだったし、本命のミッションは今、とーかに渡したし。……だから、そろそろ帰らなきゃ」
言葉を失っている透花に対し、葉月は続けた。『任務完了』と語尾にムリヤリ音符マークをつけて。
「こっちの世界の葉月は、どこにいるの? 私もいるから、葉月もいるんでしょ?」
「それがね、いないの」
「……えっ?」
「いない、っていうよりかは、迷惑をかけられないんだよね。もう一人の私ももしかしたら存在するかもしれないけど、自分を探す行為自体、やっちゃいけない事なんだ」
「あぁ……未開五次元保護条約っていうの?」
「そう、それ。よく覚えてたね」
「暗記力だけはいいからね」
えへへ、と笑いつつお互い少ししんみりした空気になる。
たったの数日しか一緒にいなかったのに、ズッ友と言ってくれた葉月。一体どういう気持ちで言ったのだろうか。寂し気な顔をしていたのは、この為だったのだろうか?
「いつ帰るの?」
「明日の夕方だよ。無理に手紙は読まなくてもいいし、燃やしてくれても構わないって、私の世界の透花は言ってた」
「そうなの?」
「だけど、早めに読んだ方が私はいいと思う」
それはそうだ。情報は早めに取得しておくに限る。が、楽しみは後に取っておくべきもの。
「葉月が帰った後にでも読んでみるね」
「そっか」
「うん。葉月がいる間は、葉月と同じ時間を過ごしたいから」
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