日常? 33
「あぁ、あれ? あ、自分の力を見つめるには、ちょうどいいかもね」
言ってることがよく分からないまま、葉月は座ったまま片腕を肩の高さまで上げた。
「これ、見える?」
もう片方の腕で、指先を脇の所で動かしている。
「えっ、何? 見えないよ」
「だよね。この空間じゃ、とーかは力を発揮できない。だけどあの紙を剥がせば……」
ふっ、と葉月が紙に向かって、光沢のある唇で優しく息を吹きかける。すると、何事もなかったようにハラリと紙が落ちてきたではないか。
「見えたかな?」
再び、葉月の脇へと視線を向ける。そこには、青白い雷光が迸っていた。
「へ……?」
『ズッ友だよ』と、そう描かれてあった。ご丁寧に、最後は顔文字まで。
「普通、これが見えるまでには私の世界の者でも相当時間かかるんだけどね。やっぱりとーか、あんたは最高だよ」
特に感想を述べたわけではないのに、すでに見えている事が分かっているらしい。冷や汗が出てきた。というもの、それとは別に背後にとてつもなくおぞましい気配が迫ってきていたからだ。振り返って確認する心の余裕はない。血管に液体窒素を入れられたくらい、背筋が凍り付いている。突然の頭痛と吐き気に意味が分からず、ただただ恐怖を感じることしか出来ていない。透花は、その正体を黒い影だと認識した。
人の形の影は、彼女の背後にピタリと止まった瞬間、それはそれは大きな口を開き、頭から腰のあたりまで一気にかぶりつく。いや、正確にはかぶりつこうとした、その刹那だった。
「邪魔しないで」
葉月の雷光がけたたましい音を立て、爆発物のように四方八方へ飛び散る。黒い影は跡形もなく消え去っていた。その途端、頭痛と吐き気は嘘のように消えていった。
「な、何……? 今の……」
「今のは、”Evil Spirits”だよ。通称”Es”って呼ばれてる。こっちの世界じゃ、【悪霊】って呼ばれてるのかな」
「なんで? どうして、突然……」
「秘密は、これにあるんだよね」
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