日常 21

 埃をはたいて立ち上がる。そして、歩きだす。みるみるうちに擦り傷は治癒していく。透花の前に戻った時には、すでに無傷になっていた。



「きゃあぁぁ! 大丈夫ですか!?」


「い、いや、俺はそこのお化け屋敷のゾンビ役で、元から特殊メイクを……ああ、ネタバレしてもうた!」



 背後から通行人が心配しているような声。



「びっくりしたね。突然すごい突風が吹くんだもん。葉月ちゃん、飛ばされてなかった? 大丈夫だった?」


「大丈夫。ごめん、心配かけた」



 何事もなかったかのように、葉月はごめんポーズする。透花は見ていなかったのだろう。葉月が豹変した時の事を。何せ、ほんの二秒の出来事だったのだから。


 そんな時、透花のスマホが鳴った。



「返事、来た?」


「ちょっと待ってね。……う、うん。ちょっと前に来てた。もうすぐ来るって……」



 なんでだろう。いつも会ってるのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。


 スマホを片手に返信後、視界に入ってきた人物がいた。目元を緩和させて見上げている。そんな姿に、同性でありながらも鼓動が大きく高鳴った。



「な、何? どうしたの?」


「やっと、タメぐち利いてくれたね」



 そういえば、と透花は口元に手を遣った。



「ね、とーか。私の事、呼び捨てでいいよ」


「葉月ちゃ……ん?」


「私、やっぱり無理だ。とーかと、ずっと友達でいたい。だから、私はとーかに気を遣わない。とーかも、絶対に私に気を遣わないでね」



「うん。ありがとう、葉月……チャン。はわわ、葉月」



 じとりと葉月の視線を浴び、慌てて呼び捨てで返答をする。



「ね、ずっと、友達。ずっとだよ」



 くすりと笑って、葉月は言った。しかしその笑顔は、やはりどこか寂しげだった。




 それから、用事があるという葉月と別れて優斗を待つ。


 いつもの歩き慣れた道。しかし何故だろう、浴衣を着て歩くというのは不思議といつもの感覚を狂わせる。まさか、浴衣を着て、自分一人でアウトレットに来ようとは。


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