日常? 31
「なに? どんなの?」
「特別な物だよ」
あまりにも冷静な口調に少し疑問を覚えつつ、昼に居たワンルームマンションへと二人して戻る。蒸し暑い風に吹かれながら玄関を越え、部屋の中へ。
浴衣から私服へ着替えたところで、葉月が封筒を持ってきた。
「これって……」
昼に部屋で見た、自分の筆跡の……おそらく手紙だろう。
「透花からの手紙だよ、とーか」
「……」
やっぱり意味が分からない。
「どういう事なの?」
「たぶん言っても理解されないだろうけど──」
「……」
「……私は別の世界から来たんだ」
──いや。
いやいやいや。待って。あり得ない。
ゾクリと戦慄が走る。別の世界? なにそれ。
「冗談だよね」
静かに目を伏せ、力なく顔を左右に振っている。
「テレビの見すぎだよ、葉月。別の世界? そんな世界、あるわけないじゃない。仮にあったとして、それはどういう世界なの?」
「それは……言えない」
「私をからかってるの?」
「違う! 違うの……。未開五次元保護条約違反になっちゃうから、言えないの」
ミカイゴジゲン……
聞きなれない言葉が葉月の口から飛び出してきた。
「受け取ってくれる?」
「受け取れないよ。何なの? これ」
「もう一人の透花からの手紙だよ」
珍しく反抗的な透花に対し、口調を荒げることなく発する言葉から、なんとなく嘘をついていないことぐらい分かってしまう。
「信じれない気持ちはよく分かるよ。そしたら、ヒントを一つだけ。優斗さんがイジメっ子から取り返してくれたテディベア、あれは本当にお母さんから買ってもらったキーホルダーだったの?」
「えっ……そんなの、当たり……前……」
いや、待って。いつ買ってもらったの? どこで買ってもらった? 何の記念で買ってもらった?
思い出だと思っていたものが、黒く塗りつぶされていく。幾重にも、幾重にも、幾重にも。
「この手紙、渡しておくね。あとは、とーか次第だよ」
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