日常? 30
「どうしたんや? あんま良うなかったか?」
「ううん、違うの。ごめんね、ゴミって言って」
「あぁ、そないな事か。気にせんでええねん。せっかくなんやし、もっと楽しもうや。……って思たんやけどな……」
地上がなんか騒がしい。いや騒がしいのは祭りなので当然なのだが、地上からシャッターのような光が複数降り注ぐ。
「これ、まずいんじゃない? お母さんから、言われてなかった?」
「しゃーない。いくで、透花。撤退や」
言うが早いか、気が付いたらまたもや目的地にたどり着いていた。優斗の家の前だ。
とにかく、不思議と無音で宙に浮いている。見えない床があるかのような安定性。映画の中でしか見たことがないもの。それが、実現されている。
「すまんな、透花。あんま一緒に居れんで……」
「ううん、すごいもの見せてくれて、ありがとう」
「また明日、遊びに行こうや」
「うん、また明日ね」
「送って行こうか?」
「大丈夫。これ以上派手に動いたら他の人にバレちゃうよ? すぐ近くだし、今日は私一人でも平気」
「そうか。気ィつけて帰るんやで」
「うん」
ぱたぱたと手を振り、そういえばと踵を返した。この浴衣、借りたままだった。
用事があると帰っていった葉月にメッセージを送り、数歩歩いたところで電柱から小さな影が恐ろしく静かに出てきて、思わず体を震わせる。
「……? 葉月?」
その影は、もう見慣れた小さな姿だった。小学生だと見間違えそうな背丈だが、全身から放たれる揺らぎを持つ者。だけどそれが一体何なのかが分からない。
「とーか、終わった?」
「うん、終わったよ。浴衣、ありがとね」
「実はね、とーかに、渡さなきゃいけないものがあったんだ。ちょっと家まで来てくれる?」
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