日常? 29
「なんや、構造か? これは言っても、他の人間には理解出来へん。せやったら、『実際に出来るんやから、しょうがないやろ』って言っとった方が親切っちゅうもんや」
ゼロから1を作り出した天才、とでもいうのだろうか。未知の技術を手に入れる事はほぼ不可能に近い。どんなに頭のいい者でも、先人から学ぶもの。
「ふぅん」
透花が狐につままれたような表情でビックスに乗ると、ほんの少し沈んですぐに再浮上した。何の振動もない。ただ、浮いているだけ。その感覚に、戸惑いを隠せない。面白いほどに好奇心が刺激されている事に、透花は気付いていた。
まだ誰も手に入れてない技術を、優斗が持っている。ただのガラクタ職人だと思っていたのに。……これほどまでに知的欲求を刺激される物だったなんて。
「一瞬やで。目を皿のように見開いときぃや」
「うん」
ぎゅ、と優斗の腰に手を回す。そして──
突然視界が狭くなったかと思うと、打ち上がった花火の上空に移動している事に気が付く。
鼓膜が破けるかと思うくらいの爆発音。火薬の臭いが、すぐ近くまで漂っていた。
「えっ……!」
言われた通り、一瞬だった。『速い』なんてものではない。気が付いたら花火を見下ろしている。
反動もなし。風圧もなし。音もなし。上空だというのに、寒くもない。踊るように動いているのは、ただただ自分の心臓のみ。
どこから見ても丸い花火。ただ流れていく方向が違うだけで、これほどまでに幻想的だとは。
「ど、どうなってるの……?」
「はは。どうや、特等席や」
現代の技術では考えられないものを見せつけられて、透花は絶句するしかなかった。
ちょうどフィナーレらしく、音楽に合わせて炎たちが踊っている。
究極の火遊び。色とりどりに咲き乱れる花に照らされた透花の顔は、恍惚な表情で瞬いていた。
花火が終わってしばらく、中毒性のある地上の星たちを眺めて彼女は深くため息をついてしまった。
優斗の事を信じる事が出来ていなかった事に猛省。こんなにも素晴らしいものを作り上げていたなんて。
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