日常 28

「おとんは? 整備終わっとるん?」


「おとんは今、屋台のイカ焼き買いに行っとるで」


「ほーん。まぁええわ。最終チェックは俺がやる」



 来い来い、と手を振られて素直に階段に足をかけたところで、母親が耳元に口をつけた。



「優斗の事、よろしゅうな。いつもキミの事、話題にしとる」


「おかんッ! 余計な事言わんでええ!」



 恥ずかしくなったのか、突然猿のように顔を真っ赤にして俯いてしまった。



「おぉ、我が息子ながら可愛ええの! 『あれ』まだ公表してないんやから、派手な動きせんといて」


「あいよ」



 優斗に手を引かれてついていった場所は、平屋根だった。彼の家は少し他の家とは違っており、屋根が斜めになっていない。普通ここには物干しスペースとなる所なのだが、この家は違った。様々な物が置かれている。一番大きな物はブルーシートで覆われたバイクだろうか。ばさっとめくられ、形があらわになったのはビッグスクーターだった。その周囲にはパーツ類が点在している。



「これが試作三号機や」


「これ、バイクじゃないの?」  


「ちゃう。単車を改造したんや」



 実際に跨りながら、優斗はセルボタンへと手を伸ばした。


 そこも改造されているらしく、指紋でロック解除される仕組みになっているらしい。改造といわれても、パッと見、どこをどう改造されているのか分からないのだが。


 だけどよく見ると、メーターパネルの付近に見かけないスイッチが並んでいる。



「これな、バイクとしても使えるんやけど、短い間しか走れへんのや。外側はほとんど変わってへんけどな、中身はまるで別物にしとる」



 優斗はエンジンをかけた。マフラーから排気音が聞こえるかと思いきや、何の音もない。



「いつでも行けるで」



 ふわ、と巨大な鉄の塊が宙に浮いている。意味が分からない。



「なに、これ……」


「試作三号機や」


「いや、それは聞いたけど……」




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