日常 8
「それにしても、透花ちゃんって楽しいね」
話も逸らされた気がする。
「私も、楽しい。久しぶりに友達が出来たみたいです」
飛行場に向かって飛行機が着陸する瞬間を見つめながら、透花はぽつりと呟いた。
「友達だと思ってくれるなら、敬語はやめてほしいかな。分かるよ、敬語使いたくなる気持ち。私も、昔は敬語しか使わなかった」
「そう……なんですか?」
葉月は、透花の返答を聞いて静かに頷き、続ける。
「当時の私は、他人と心の距離を遠ざけたかった。本当に、一人になりたかった。仲間なんて、いらなかった。……たまに、素が出ちゃうんだよね。敬語じゃなくて、心からの言葉が。だけど自分の言っている言葉の重みだったり、責任が、どうしてもまた心にブレーキをかけて敬語に戻っちゃう。軽々しく言えない言葉を敬語で胡麻化そうとする。他人から信頼を得ている分、他人の人生は私の言葉一つで変わっちゃう。時には、その人の命の選択を迫られる時だってある。でも、やっぱりいつの間にか心の壁を取っ払っちゃってるんだよね。……人間さ、いつ最後になるか分からないでしょ。だから、その人の目に最後に映った私は、少なくとも誠実でいたいと思って、また敬語に戻る。その繰り返し。確かに一見いい人に思えるよ。でも、部下は出来ても友達なんて一人も出来なかった」
「部下? その人の最後……?」
ぽかんと開けた口が塞がれない。突拍子もない話をされて頭がついていっていないのだろう。
「か、介護の話だよ。介護の。私ってさ、親にあんまり頼れないから、バイトで介護やってるの。派遣だと時給も高くていいお金になるし、人生の経験にもなるんだよ」
つい何かしら口が滑ったのだろう。とても慌てた様子で言葉を重ねた。
「ゆっくりでいい。今は、まだ敬語でもいいよ。だけど、そのうち、本当の友達になれたらいいな」
照れ臭そうに微笑む葉月の笑顔は、落ちかけの夕日に照らされて、天使のような可愛らしさになっていた。
「そういえば、明日青木さんを花火大会に誘うんでしょ? もう誘ってる?」
「ま、まだです。き、緊張して、スマホ、扱えません……」
無駄にキラキラと輝かしいスマホケース。透花が持っていたりする物はギャル系な物が多いが、根がとても真面目で素直なため、誰が見ても彼女の物だとは思わないだろう。そんなスマホを持つ手が、コントのように震えている。
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