日常 2

「まぁ、いいか。じゃあ授業始めるぞー。緑川、教科書が無かったら、桃瀬と一緒に見てくれ。そいつは面倒見がいいぞー」


「はい、分かりました」



 大人しそうな雰囲気をしているが、意外とハキハキと返事をしている。透花とは仲良くやっていけそうだ。それを察知したのか──



「桃瀬、すまんが、あとで校舎を案内してやってくれ」



 教諭は申し訳なさそうに付け足した。



「いえ、気にしないでください」



 その言葉に満足そうな顔をして、ザビエルヘアは授業を始めるのだった。




「今日、休みの人がいたの?」



 放課後。帰り支度をしている最中に葉月は疑問を投げかけた。今朝、自己紹介をしている時、もう一つの空席があった。その件だろう。校舎を案内してもらっている時に仲良くなったのか、心の壁がなくなり、敬語ではなくなっている。



「はい。プリント持って行かなきゃ……」



 ただ、透花は元から敬語らしい。


 清楚だが真面目過ぎるのが玉に瑕。とはいえ、外見には相当気を遣っているようだ。放課後の空に、スレンダーなシルエットが映し出される。窓から抜ける夏の通過風により、ヘアモデル並みに手入れされている二つ結びのサラツヤ髪が、風になびいて解けていく。夏の風を生み出しながら。


 大きな瞳で黙々と帰る準備をしているが、別に不機嫌なわけではない。透花は他人に対して話しかける事がほぼない、いわゆるコミュ障だった。だからといって無視するわけでもない。マイナスな事を言って他人に不快な思いをさせるくらいなら……という、言葉を選びすぎるタイプのコミュ障だったりする。



「ふーん。青木さん……ね」


「なっ、なんで知ってるの?」



 エスパー? と言わんばかりに驚き振り向いた透花は、教諭の忘れていった出席簿で名前を確認している葉月を見て納得した。



「どんな人?」

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