もう一人の私へ。

なつきまる。

日常 1

 ──へぇ、珍しい。


 その日、桃瀬透花は産まれて初めて転校生を目の当たりにした。


 少女というには非常に落ち着いた様子の女の子。しかし女性というにはまだまだ幼さが残っている大人しそうな人物だった。



「緑川葉月です」



 紫外線に当たると緑色に変色する髪は、ストレートボブ。真新しい制服……かと思いきや、上級生からのお下がりなのか特に新品のような感じではない。彼女自身、清潔感としては透花に並んで一級品なのだろうが。



「緑川の趣味は、旅行のようだ。俺も長期休暇が得られたら、遠い国に行ってみたいものだがな。なんでこの職を選んだのかが不思議でならんよ。まぁ、後悔はしてないが」


「色々とご迷惑をおかけする事もあるかもしれませんが、よろしくお願いします」



 どうしよう。すっごい美人さんだ……。


 淡々と挨拶をしている姿が、場慣れしているかのような印象を与える。


 ぺこり、ととても礼儀正しくお辞儀をする姿から、男子からの嬉しそうな小さな歓声が漏れ聞こえていた。ただ、笑顔がない。無表情。いや、無表情ならまだ良かったのか、どこか哀愁すら感じる瞳はまっすぐに透花を捉えていた。


 あれ? この人……。


 こんな田舎に転校してくる者などこれまで皆無に等しかったので、透花的には今年に入って一番嬉しい出来事だったのだが、その物悲しげな視線が彼女には少し引っかかっていた。



「じゃあ、席は桃瀬の隣でいいな?」


「分かりました」



 男性教諭を見上げながら、葉月は言う。



「桃瀬は……んっ? 知ってるのかい?」



 その日、仮病という病気名で休んでいる者の席もあったが、何の迷いもなく葉月は透花の隣へ行く。



「桃瀬さん、よろしくね」


「えっ、あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします。緑川さん」



 葉月が隣の席に座る。ぺこりと一礼し、先ほどとは違って穏やかな瞳を優しく緩和させる彼女に、透花は微笑んで返事をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る