日常 3

「えっ?」



 みるみるうちに透花の顔が紅潮していく。トマトのように熟れた頬。その顔は出会った当初の葉月と同じく無表情で固まっていた。



「彼女さん?」


「ち、違います! ただの同級生です! だいたい、優斗はですよ?」 



 分かりやすい反応。『私は彼に片思い中です』と顔に書いてある。いそいそと帰り支度をしながら足早に教室から出ていく透花を、うれいを帯びた瞳で追いかけていくのだった。



 下校時間。周囲の人間が関西弁にて笑い合っているなか、放送共通語にて会話している二人は住宅街へと入っていく。言葉数少ない透花に対し、様々な話題を振る葉月。


 次第に、透花は言葉数が増えていく。的確過ぎるのだ。どんな話を振られると透花が口を開くのか、初対面で既に熟知しているらしい。恐ろしいほどまでのコミュニケーション能力の持ち主が、葉月らしい。



「ここだっけ?」



 そんな彼女の言葉にてハッと顔を上げた透花は、自分の鞄からプリントを取り出しつつ、不思議に思う。



「優斗と、知り合いなんですか……?」



 この人なんで知ってるんだろう? 初対面のはず。初対面のはずなのだが、なにかが違う。顔にそう書いてある。



「う、ううん。たまたま、だよ。たまたま表札が同じ苗字だったから」



 本当に『たまたま』だろうか。


 この家の庭には、ガラクタが山のように積み重なっている。金属片だったり何かの作りかけだったり、壊したようなものが日に日に積み重なっていっている。ある意味、人目につく感じだが、それは決していい意味ではないだろう。



「こんな個性的な家、見たことがないから──」



 葉月の言葉は、一つの物音で掻き消された。



「ん? 透花。もう学校終わったんか?」



 その原因は、彼にあった。突然玄関の扉が開かれる。そこには、透花と同い歳くらいの少年が立っていた。


 ぼさぼさの髪。寝ぼけた目をこすりながら、パジャマ姿の少年が早朝を連想させる姿で現れていた。

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